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月夜の帰り道

「はぁあ」


 吸血鬼が完全に出て行ったのを見て、みつはソファに崩れた。そうだった、顔が蒼白なんだった。

 みつの顔を覗き込むと、やっぱり蒼白だったが、意外に元気そうだ。少ししか助けてあげられなかったけど、大丈夫そうで良かった。


「みつ、今日と明日は事務所を閉めて、安静にしてるのよ」

「んー、うん」


 返事がぼんやりしている。眠たそうだ。それはそうだろう、あれだけ一気に血を抜いたのだから。少し休ませたら、上の自宅に帰らせよう。自宅にはお手伝いさんが来てくれるらしいし(流石お嬢様)、メモを持たせておいたら大丈夫だろう。玉葉くんには、寝ててもらったら良いか


 みつの蒼白な顔に少し色が戻り始めたぐらいには、完全に寝入っていた。三人がけのソファに膝を曲げて横になっている。

 私は、ちょうどみつの顔のあたりにしゃがみこんだ。

 みつが寝入っているのをマジマジと見るのはこれで何回目かだが、どうにも懐かしい感じがするのは、何でなんだろう。そもそも、この懐かしいって、何だろう。見た事もない棚田を見て懐かしいと思うのと、同じような現象だろうか。わからないけど……人の寝顔は、好きだ。何も言われない何もされない、安らかな、時間。だから。


「んんっ」


 ビクッとした。寝返りを打っただけのようだ。仰向けだったみつが、横向きになる。目が開いていたら、目が合うところだった。


「かおちゃ」


 寝言?寝言で人の事呼ぶの止めてくれないかなあ。まあ、寝ていたら無理か。なんて意味の無いことを考えていたら、ツーッと閉じた瞼から涙が流れた。なんで、人の名前呼んで涙を流すのか。まるで苛めているみたいじゃないか。いや、これは……ううん、考えるのやめよ。

 私は勢い良く立ち上がり、机に戻った。サラサラとメモを書き、来客用の机の上に置く。そして、玉葉くんを探した。


「玉葉くん。悪いんだけど、みつが起きたら机の上にある紙を持たせて、帰らせてくれない? みつ宛のメモと、明日はお休みしますってメモを置いてあるから」


 玉葉くんは、みつの言葉の通り私達から少し離れたみつの机にある椅子で丸まっていた。寝ているのを起こすのは可哀想だったが、このままでは私いつまで経っても帰れない。

 私が話しかけるとすぐ目を開けて、ジッとこちらを見つめていたが、私の言葉に頷いてくれた。


「わかった。神凪さん、明日はお休みなんだね。気をつけて帰ってね」

「ええ、ありがとう。玉葉くんも、明日はゆっくりお休みしててね」

「うん」


 玉葉くんに言伝と別れを言い、一人寝るみつを少し心配しながら、帰路に着いた。







 外では、既に星が瞬いていた。欠けた月はまだ昇っていないようだが、日が完全に沈み暗い空が広がっている。

 あの不審者に会って、まだ数日しか経ってないなんて信じられないようだ。彼らにあてられて、私も時間の感覚が少し狂ってしまったのだろうか。

 あの、赤い目をした人達。何となく、あの日みた赤い目が怖くない理由がわかった気がした。多分、彼は、私を傷つけようとか敵意などを持っていなかった。だからだ。

 怖いのは、強い感情の眼なのだ。

 瀬尾は憎愛と後悔。彼女は決意と嫌悪。

 その眼が赤くなると、怖い。鬼が怖いのではなく、その眼が怖い。強い負の感情が、怖い。


 ああ、そうか。


 ふと、腑に落ちる。

 だから、みつの側は居心地が良いのか。あの人は、なんにせよ私に強い感情の眼を向けてこない。いつもゆるく、人も妖怪も隔てなく、興味がない。でも、悪い人かというとそうでもなく、結局放っておけなかったりと根は良い人だ。だから、変な懐かしさなんか抱くのだろうか?それはそれでちょっと違う気がするけれど。まあ、いいか。

 今日も、明日も、この日常は続くのだから。

 あの夜の住人のように永遠とはいかないが、まだまだ明日は来るのだ。いつか、わかればいいや。いや、わからなくてもいいや。


 幾分すっきりした心地で、家路を急いだ。

 だいぶ寒くなってきた。

 みつは、温かくしているだろうか。

 次に出社したら、風邪引いてたなんて洒落にならない。

 稼ぎ頭で所長で雇い主なんだから、しっかりしてもらわなくちゃ。

 それに、みつが弱ってるの見るの、辛い。さすがにこれだけ一緒に過ごしてきたのだから、情がわかないわけないのだ。友達、とは呼べないがそれに近しい想いは抱いている。年も近いし。みつの方は、口うるさい私をどう思ってるか知らないが、少なくとも私はみつに心を開き始めてる。拒絶されたり距離を置かれたら寂しいが、そんな事にはならないだろうという変な自信があった。なんでかわからないけど。


 いつか、友達になれるかもしれない。なれたら、良いな。友達いないから、本当は友達ってどんなものか知らないんだけど。


 何だか可笑しいことを考えながら、夜道を歩く。

 軽やかな帰り道を、月の光が照らしはじめていた。







 おわり。

これにて月夜の散歩、長い蛇足も含めておしまいです!お読みいただきありがとうございました!夜道にはお気をつけて。

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