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※長い蛇足です ※ゆるい流血表現があります

 こうして、私のさんざんな二夜が終わったわけだが……。




 ドンドンドン


「お嬢さん達、開けてくれないかなあ。僕はお客だよ」


 ドンドンドンドンドン


「……あー! もう! 五月蝿い!!」


 みつが、イラついたようにバンと机を叩いて立ち上がった。その様子に、玉葉くんがビックリした様子でみつを見ていた。

 そう、ここは私達の探偵事務所。いつも通りお客も少なく、まどろんでいた夕方に仰々しく扉を叩くのは……多分あの不審者。なんで此処に居るってわかったのだろうか。しかしそれ以上に、何故いつもの依頼人のように扉を開けて入ってこないのか不思議なので、成り行きを見守っていた。が、まあ、扉を叩く音もみつが言ったとおり五月蝿いので、どうするのかと問うようにみつを見た。

 みつと目が合う。

 みつは困ったように私を見ていたが、やがて諦めたように肩を竦めた。そして、扉の前に行くのかと思ったら、ちょっと外れて、玉葉くんが居るソファーに近づいた。玉葉くんは何事かと耳をぴくぴくさせながらみつを見ていたが、みつは無造作に玉葉くんを持ち上げると、私の机の方へ投げて寄越した。なにするの!?慌てて玉葉くんを抱きとめると、玉葉くんもビックリしたように私を見ていた。


「玉葉、かおちゃんのとこにいな」


 それだけぶっきらぼうに言うと、みつは今度こそ扉の所まで行き、外を見て、口を開いた。


「……今回だけ、許可する」

「ああ、ありがとうお嬢さん方。お邪魔するよ」


 みつがそう言うと、スッと男が出てきた。そう、見間違いではなく、合成映像でもなく、あの不審者が、扉を開ける事も鐘を鳴らす事もなく、事務所の中に入ってきたのだ。扉をすり抜けるという、常軌を逸した方法で。


「相変わらず、悪趣味な入り方するね」

「そうかい? 僕達の世界ではこれがスマートな入り方なんだけれどね」


 そう言って、不機嫌そうなみつの前に優雅に立つのは、あの不審者。あの夜のように燕尾服ではなく、紺の仕立ての良いスーツを着こなし、ゆるふわの金髪を持つ美貌の男性、のはずなのだが、日の光のもとだとどこか抜けたところを感じさせる。目も赤くなく、薄い茶色をしているからだろうか。

 この事務所の窓は南についているので、今、夕陽はこの部屋に差し込んでこないが、こんな普通に出歩いてていいのか、吸血鬼。ふと、懐が膨らんでいる事に気づいた。手を大事そうに当てているので、何か小さいものを隠し持っているように見える。


「何の用? 日が沈んだとはいえまだ明るいのに、外を出歩くなんて」

「火急に、キミ達に折り入ってお願いがあってね」


 男性は物珍しそうに事務所内を見ながら、ソファに腰掛けた。長い脚を優美に組むその姿は、貴族のよう。いつも座っているソファが貴族の邸宅にある高級品のように見える。と、私と玉葉くんに気づいたようで、眉を上げた。下がったまま。


「おや、珍しいものを飼っているね」

「飼ってるんじゃない、勝手にいるの。で、なんの用」


 みつが、男性の目の前のソファーに不機嫌そうに座る。そして、私に来なくていいからと目で制した。

 そんなやり取りをしながらも、男性は自分の膨らんでいる懐に慈しむように手を当てていたのを、何を思ったのかシャツのボタンをくつろげはじめた。何するの?! みつも、ビックリした顔のまま反応しきれずにいた。流暢な手つきで第二第三のボタンを開け放った時、彼の懐にナニが居たのか明らかになった。


「……小鳥?」

「シャッツだよ。カナリヤになるのがお気に入りなんだ」


 彼が優雅に、だがそっと懐から取出したのは、小鳥。彼の手の平ですっぽり収まってしまう程の大きさだった。カナリヤというと黄色を思い浮かべるが、背中の羽がうろこ状に黒い。それはそれで綺麗な模様だが、言われなければカナリヤとは思わないだろうと思った。

 だが、それ以上に、


「僕のシャッツの体力が戻らないんだ」


 彼の手のひらの上で、ぐったりとした小鳥はピクリとも動かない。小さなお腹が上下しているのが幽かに見えたので、生きているのだとわかる。だが、眼を閉じくったりした姿は、小鳥という事もあいまって可哀想に見えた。

 彼もシャツのボタンをしめながら、哀しそうな顔で小鳥を見ていた。


「まあ、あんだけ無理してあんだけ傷つけられればね。良いじゃん、死にはしないんだから」


 そんな事お構いなしとでも言いたげに、みつが良い捨てた。それは違うと思うし、いくらなんでも酷いと思うのだが。 


「死なないと、生きてる、は違うんだよリトルレディ。僕は、僕から可愛らしく逃げ回るあの子が好きなんだ。目覚めないのは困るんだよ」


 今度は本当に、困ったように笑った。みつは不穏な気配を感じたのか、不機嫌そうに眉を寄せている。何となく、私も次に言われそうな言葉がわかる。吸血鬼といえば、アレよね…。


「で?」

「キミ達の血をくれないか」


 衝撃的だがある意味予想通り発言に、ため息をついた。そして話しを聞いていた玉葉くんが、毛を逆立てていた。ありがとう、玉葉くん、守ってくれようとしているのね……とホロリとしている間にも、みつと吸血鬼の話しは続いていた。


「ぜっったいダメって言ってるデショ!」

「そこを何とか」

「なんで私達なの。力を持った人間なら他にもいるでしょー。あの双子でも良いじゃん」

「あいつらはダメだ。同胞の血が混じってる上に、不味いからね。本当は僕のシャッツの横に居るのも許せないぐらいなんだけど、きょうかいやらで色々複雑でね」


 きょうかい?協会?教会? およそ吸血鬼の口から出るとは思えない単語に、理解が追いつかないが、聴ける雰囲気ではない。みつが呆れたように男性を見ている。


「あんたが同族殺ししてるから、複雑になってくだけじゃないの」

「それもあるね。でも、僕には僕の信念がある。あいつらと妥協してでも曲げられない事なんだ。あの子と共に生きるのを止められないように」


 だから、と男性は悲しそうに伏せていた横顔を、ふとこちらに向けた。いきなり見られて、驚いて反応できない。


「あのお嬢さんの血をくれないか。何、そうコップ一杯程あれば回復するだろう。頼むよ、リトルレディ、お嬢さん」


 その瞳は、真摯に私を見つめていた。その薄い瞳には恐怖を感じず、逆に哀れみさえ覚えた。私が口を開く前に、みつが慌てたように口を開いていた。


「かおちゃんはダメ! あー、もう! 良いよ、わかったよ! みつの血をあげるよ! それで良いデショ」


 怒ったように頬を膨らませているみつを、男性はパアッと花が咲いたような笑顔で見た。


「本当かい、リトルレディー」

「もう小さくない! はぁあああ、もう、何でこういう展開になるんだろう…」

「その前に、少し味見させてもらうことは……」

「嫌」


 冷たく言い放つと、みつは大儀そうに立ち上がった。


「あんたのシャッツ貸して。あんたの目の前で吸血させて、あんたにまで吸血されたら冗談じゃない。ほら」


 みつは立ち上がると、右手をズイっと出した。その乱暴な手つきに男性は、少し心配そうに、だがそっと小鳥を渡した。みつも、右手の平に乗った小鳥を乱暴に扱う事はせず、そっと手の平を丸めて固定し、給湯室へ向かって歩いた。


「かおちゃんと玉葉はそこに居てね。ミルチェア、かおちゃんに変な事吹き込まないでよね」


 私達に対しては優しく、男性に対しては厳しく言い渡し、みつは給湯室の扉を閉めた。その様子を同じように見守っていた為、私が視線を戻すと目が合うかと思ったが、男性は閉じた扉から目を離す事は無かった。ジッと、何を考えているかはわからない瞳で。


「……あの女性の事、凄く大切なんですね」


 気づいたときには、自分から話しかけていた。しまったと思ったが、男性がこちらを向いて目が合ってしまったため、前言撤回する事も出来なかった。

 男性は私が言葉を発したと確認し、ゆっくりと、しかし深く頷いた。


「そうだね。あの子は僕の全て。唯一の存在にして、僕だけの存在。どんな花より愛おしく、どんな宝より尊い。僕の愛という言葉はすべからくあの子に捧げられる」


 あちらの人は言う事が違う。その言葉と深い微笑みで、何だかこっちの顔が赤くなる。これは確かに、みつがノロケを聞かされたと言って怒るのもわかる気がする。

 だが微笑んでいた男性が、ふと目を伏せ寂しそうな顔になる。


「だけど、それが本当にあの子の愛に報いる事になるのか、時々わからなくなるんだ。だから、逃げて、捕まえさせてくれる度に安心してるのは、僕の方なんだ」


 それは自虐している風にも見えた。

 ただ、これまでの会話で一つだけわかった事がある。

 この二人、すっっごく面倒くさい。吸血鬼だし長生きだし人と違うからだろうか、それともこの二人だからだろうか、わからないけど、すごく面倒くさい。関わらないに限るわ。聞いといてなんだが、話題を変えよう。


「あの、そういえば先程”きょうかい”と聞こえたのですが、協会アソシエーション教会チャーチ?」


 物思いに耽っていた男性は、私の唐突な話題転換に少し驚いたような顔をしたが、ふっと含みをもたせた微笑みになった。やっぱりこの吸血鬼、貴族の血とか家系なんじゃないだろうか。


協会アソシエーションの方だよ、お嬢さん。世界には普通の人間には知られていないさまざまな脅威がある。それを取り除くとして結成された、いわばヒトの番犬達が居てね。日本では、”あやかし”というらしいね、そういった存在を消してまわる連中が居るんだ」


 含みのある笑みが、皮肉シニカルな笑みに変わる。馬鹿にしていると言っても過言ではないかもしれない。そうなのか、と何となく思っていると、男性が急に私の目の前にいる玉葉くんを指差した。


「たとえば。そこに居る狐君は、神聖な方のモノだろう? だが、奴らは此処に居る、という理由だけで獣をけしかけ屠るだろう。そういう奴らなんだ」


 優雅な話し方とは裏腹な、辛辣な言葉。玉葉くんはまたビクッとして毛を逆立てていた。大丈夫、と逆立った毛を撫で付ける。


「何故、そういう協会と関わりを?」


 単純に気になった。彼の言う協会がそのような組織なら、彼はまさしくその標的なのではないだろうか。化け物やあやかしがそこに居る、というだけで消そうとする乱暴な組織なら、なおさら。私の問いに、男性は無知な子供を見るような、慈しむような瞳を向けた。


「単純さ。僕の望みと彼らの望みが、ある一点で一致した。何しろ、僕は強いからね。彼らにとっては色々都合が良いのさ」


 そう言って白く細長い手を翻す姿は、優美。強者の余裕、というものなのだろうか。そして、次の疑問を口にしようと唇を開いたが、言葉は出せなかった。

 望み。

 聞いてどうなるというのだ。それが、私の想像できない世界の事だというのは、察せられる。みつが言っていた、同族殺し。それが望みと関係無いとは到底思えない。だとしたら、聞かないほうが賢明なのではないだろうか。変に関わってその協会とやらに目をつけられても嫌だし。

 そしてまた、強制的に話題を変える事にした。実は、少し気になっていた事があるのだ。


「あの、もう少し質問しても?」

「ああ、もちろんだよお嬢さん。シャッツが戻るまで無限にも思えるこの時間を紛らわせてくれて、むしろありがたいぐらいさ」


 気を使われているのだろうか、本心だろうか。あちらの人の言う事はやっぱり一味違う。とりあえずその言葉に甘え、質問を口にした。


「みつと、昔会ったのが、なにやら怪しい儀式の時と聞きましたが、本当なんですか?」


 みつが嘘をつくとは思ってないが、どうしても信じ切れなかったのだ。悪魔を召喚するとか契約するとか。日本だぞ、ここ。

 しかし男性は、さも当然とでも言う風に微笑みながら、頷いた。


「ああ、そうだよお嬢さん。シャッツがそろそろ極東に興味を持つかと思ってね、一足先に来てみたら面白いリトルレディが居るじゃないか。あちらでも、そういったヒトと儀式は減っているからね、物見ついでに覗いてみたら、困っていたようだから少し手助けしてあげたんだよ。シャッツを見つけたら、僕に教えてくれるという条件でね」


 懐かしそう、というには彼には少しの時間しか経っていないのかもしれないが、それでもふと微笑む表情は柔らかい。しかし、本当に何やってんの、みつ。

 吸血鬼が、いたずらっぽそうな光を瞳に灯し、笑う。


「出会った時のリトルレディは、それはそれは余裕の無さそうな子でね。それはそれで張り詰めた美しさがあったんだけど、今の方がよほど良いね。守るモノを持つと、ヒトはしたたかな美しさを手に入れる。その変遷が、僕はとても好きなんだ」

「はあ」


 良くわからないが、とりあえず今のみつの方が好ましいと言っているようだ。

 しかし、みつは昔からあんな風にゆるい人間だと思っていたから、何だか意外だった。そんな私の機敏を察したのか、くすくすと笑う。


「リトルレディは、ある人を守らなくちゃいけないんだ、と口癖のように言っていたよ。今はまだ側に行けないから、強くならくちゃいけないんだ、って。それで心が張り詰めていたようだね。そんな子が、あんな風にゆるやかになるなんて、人間とは面白いね」


 みつがそんな想いを抱いていた時期があったなんて、やっぱり意外だった。人にも妖怪にも等しく興味が無さそうなのに。一体、みつにそこまで思われていたのは誰だったのだろう。今あんな風になっているという事は、会えたのだろうか。少し興味がわいたが、所詮私には関係無い事。思考をそこで打ち切った。


 ……しかし、みつ遅いな。

 吸血鬼と結構な間雑談してたが、コップ一杯ってそんなに時間かかるのだろうか。というか、コップ一杯って冷静に考えたら、献血するのと同じぐらいの量よね?血が薄い人は断られるというが、明らかに不摂生で血が薄そうなみつが耐えられるのだろうか。

 気が付いてしまったら、心配になってきた。

 吸血鬼に断りを入れ、玉葉くんを置いていくのはちょっと心配だったが、まあ少しの間だし大丈夫だろう。私は一人、給湯室に向かった。




 みつに声をかけながらドアを開けると、割りと衝撃的な光景が広がっていた。


「みつ、大丈夫?」

「うん~」

「うわあ」


 シンクの、まな板などが置けるスペースの前に横向きに椅子を置き、その椅子に座っているみつの手の中には小鳥。そして、小鳥の真上には血を流す手首。血は、開けたまま固定された小鳥のくちばしの中にポトポトと落ちていく。くちばしから外れた真っ赤な血が、カナリヤの羽を少し汚している。

 シンクの上には、血の着いた包丁があった。あれで手首を切って血を流しているのだろう。事情を知らなければ、すぐさま止めているが、事情を知っているので止められない。手首を切って死ぬ事は無いと知っているが、それでも少し、怖くなった。みつを見ると、ぐったりした様子でシンクに身体の側面をもたれかけ、顔も少し青ざめている。どれぐらい、血をやっているのか自分でわかっているのだろうか。

 一瞬戸惑ったが、すぐ行動する事にした。


 給湯室を出て、驚いている吸血鬼と玉葉くんを他所に、救急箱を取出し、戻る。

 再び扉を開けても、みつの反応は鈍い。

 パッとみつの手首を切っている方の腕を掴み、救急箱から取出した分厚いガーゼを切り口に当てる。腕を心臓より高い位置に上げさせ、ガーゼをしたまま養生テープを貼る。そこで、ようやくみつがハッとした。


「かおちゃん?」

「やりすぎじゃないですか、先生。止血するから、腕上げてて」


 ビックリした顔のまま止まったみつは放っておいて、包帯を取出す。ガーゼごとぐるぐると強めに巻いて、血流を止める。どうしよう、二の腕の方も止めた方が良いかな、ガーゼに血が滲んでる。と、私が考えた時、みつの手の中で小鳥がピクリと動いた。だが、また目を閉じたまま動かなくなった。まだ、足りないというのか。

 血を与え続けたみつは、目を閉じシンクの上に腕を置き、少しでも楽な姿勢になるようにしていた。血のにじみが止まった気がする。無理するんだから、全く。しかし、目覚めないのは、どうしたものか。

 少し考えたが、他の方法が思いつかなかった。シンクの上に置いてあった包丁を取る。水道の蛇口をひねり流水で血を濯いだ後、キッチンペーパーで綺麗にぬぐう。そこでようやく、みつが何事かと目を開けた。


「かおちゃん?」


 思いっきりため息を吐き、覚悟を決めて--ザクッ


「な、何してるの?! かおちゃん!」


 痛い。

 みつの制止は間に合わなかった。私はみつが止めるより前に、人差し指の腹の真ん中あたりを包丁で切り裂いていた。本当は、みつのように手首にしようかと思ったのだが、勇気がでなくて人差し指になってしまった。でも、血はトロトロと流れ出ている。真っ赤な、血。痛い。


「かおちゃん! ダメだよ! あんな奴らの為に血を流すなんて」

「大げさよ、みつ。私は、包丁で指を怪我した、それだけの事。あなたの方が何してるのよ」


 オロオロとしているみつに向かって、ふふんと笑う。まあ、痛みを紛らわす為に何かしてないと泣いてしまいそうになってるだけなんだど。みつはそんな私の強がりを見て、眉を下げて困ったようにしていたが、自分の腕は動かせないし、でも血はどんどん流れているしで、どうしようもないようだった。


「かおちゃんの血をやるなんてもったいない。ほら、起きて」


 みつが、手の中の小鳥を揺さぶった。すると、小鳥は目を覚まして、小鳥なのにギョッとしたように私達を見た。そして、自身の口の中にあるのがまるで甘露とでも言わんばかりにウットリとした表情になった。

 やっぱり、吸血鬼なんだなあと、ちょっと引いた。

 しかし、目も覚ましたし私の指先も血が固まりだしたし、もう良いでしょ。ドクドクとした痛みも心なしかが薄れてきた。持ってきた救急箱から消毒液を取出し、痛む傷口に吹きかけると案の定、めちゃくちゃ痛かった。涙目になった。絆創膏を取出し、そこに貼る。私はそれで終了だ。みつを見ると、青白い顔はそのままだが、ちょっとマシになったようでフラつきながらも立ち上がっていた。


「起きたみたいだし、さっさと帰ってもらおう」


 みつはそう言うと、小鳥を握ったまま扉を開けた。小鳥はまだ手の中でウットリしている。こ、怖いかも。フラつくみつを支えながら給湯室を出ると、玉葉くんがぴょんと近寄ってきた。


「大丈夫? 二人とも」

「大丈夫。それよりも、私達今血で穢れてるから、あんまりくっつかない方が良いよ」

「え、そうなの?」

「カミはケガレを嫌うからね。ちょっと、離れてな」


 玉葉くんは心配そうに私達を見たあと、しょんぼりと離れた。か、可愛い、けど申し訳ない。血がダメだっていうのは、何となく知ってる。神社に御参りする時もそうだものね。

 みつは、また私を自分の机に戻らせると、吸血鬼の居るソファに戻った。吸血鬼を見ると、先程雑談していた時とはうって変わって深刻そうな顔をして座っていた。両手をギュッと顔の前で握りしめているその姿は、胸をうつ。そういえば、この時間が無限にも感じると言ってたが、まさしくそんな感じで憔悴していた。

 だが、私達の姿を認めるなり立ち上がり、安堵の表情を浮かべその長い脚ですぐに側まで来た。みつが露骨に嫌そうな顔をする。


「ああ、シャッツ! 目を覚ましたんだね! ありがとう、お嬢さん方」

「そういうのいいから。はい、これ貸しね。私達の時間が終わるまでに返してよね」


 みつはそう言うと、ぶっきらぼうにズイっと小鳥を差し出した。男性は目を覚ました小鳥を、そっと両手で受け取り、愛おしそうに優しく頬ずりした。チチチ、と小鳥も嬉しそうに囀りだす。


「ありがとう、お嬢さん達。これで、僕のシャッツも大丈夫だろう。なにしろこの子、最近絶食状態だったらしくてね。無理をしたものだ」


 男性は優しく大事そうにそっと握ると、ぱあっと微笑んだ。美形ってスゴイ。吸血鬼だという事も忘れて見惚れてしまう。そういえば、吸血鬼って美男美女しかいないんだっけ。スゴイな。


「この借りは、必ず返すよ。魔女を紹介しようか? それとも悪魔祓い? 僕が必要なら、いつでも呼んでくれ、年若い友人達」


 お嬢さんから、友人に格上げされてしまった。みつも露骨に嫌そうな顔を崩さない。

 折りしも、外は日が沈み夜が始まろうとしていた。彼らが出歩くには、格好の時間になりつつある、が、彼は大事を取ってまた自分のシャツのボタンを広げ、その中に大事そうに小鳥を仕舞った。小鳥も抵抗せずなすがままになっている。信頼関係、とでも言ったらいいのか、その光景はやけに優しく見えた。


「それじゃあ、お嬢さん達。この恩に報いる日に、また会おう」


 そう言うと吸血鬼は左手を胸にあて、右手を上げると、スッと扉まで移動し、またスッと向こう側へ消えて行った。

 最期まで、本当に意味のわからない展開だった。

※次も蛇足です

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