不審者との再会
「やあ、また会ったねお嬢さん。おかげで、少々ここを探すのに手間取ってしまったよ」
優雅に話すその人は、本当にあの夜の不審者だろうか。私が何も言えずにいると、男性がみつを見て口を開いた。にっこりと笑うその口には、長い犬歯。
「そっちのキミは、少し前に会ったリトルレディだね。大きくなったね、僕の見立てどおりだ」
「……ひさしぶり」
みつが肩を竦める。そこでようやく、自分がみつの腕を握ったままだった事に気づいた。ハッと手を離すと、みつの白い肌が私の手形で真っ赤になっていた。そんなに強く握っていたのだろうか、痛かっただろうに、申し訳ない。素直にごめんなさいと謝ると、みつは、何が?と首を傾げた。くそぅ、みつのくせに気遣いができるなんて……でも、ありがとう、と小さく呟くと、みつはにっこり笑っていた。
そんな私達を見て、男性が面白そうに笑った。
「あんなに余裕の無さそうな子が、こうなるんだねえ。人の子は面白いね」
その言葉に、みつがキッと男性を睨んだ。
「その話は無し! それより、ほら、ちゃんとあんたのシャッツを留めておいたデショ」
みつの言葉に、男性はおかしそうにまた笑った。良く笑う男性だ。困ったような下がり眉が、さらに下がる。
「そうだね、ありがとう。さあ、僕の宝物、今回は僕の勝ちだよ。戻っておいで」
そう言って、隣で微動だにしない彼女の腰を寄せる。バランスが悪くなったのだろう、彼女は男性に斜め一直線にもたれかかった。
そこでみつが、解、とぼそりと呟いた。とたん、まるで棒のようになっていた彼女の身体が、重さを取り戻したように崩れ落ちた。無理もない、あんなに大怪我をして血を流しているのだ。そんな彼女を抱きとめて、男性は彼女を横抱きにした。その流れるような一連の動きは、見惚れる程だ。
「叶いませんわね、ご主人様。仰せのままに。……イヒ リーベ ディヒ フュア インマー」
彼女は、男性の腕の中で苦笑しつつも、逃げる素振りはない。むしろ、愛おしそうに外国の言葉を男性に向かって呟く。男性も、それに答えて愛おしそうに微笑み、何か言葉を返していた。
ふと、床を見る。
彼女から漏れ出した血が床に滴り落ち広がっているが、それにしてもこの量は尋常ではないと思う。だが、何も、血の海に浮かんではいなかった。何も、あの騒々しい音を立てた物体があるはずなのに、何も。私達と、あの黒い双子は隅で影と同化しているが、居る。不思議だ。不思議以上の感情がわかないのも不思議だ。
「さて、今宵は興ざめだ。シャッツの手当てもせねばならないしね。ああ、キミ達が血を分けてくれれば……」
「ぜったいやらない」
みつが強い口調で、喰い気味に拒否した。その様子に、また困ったような眉で男性が笑った。
「美味しいだろうに。残念だが仕方ないね。行くぞ」
男性は、隅で影になっている双子に冷たく言い渡した。それは、私達や彼女に向けるのとは違う、支配者の声音。双子は恭しくお辞儀した。
「また、どこかで会おう。さようなら、お嬢さん方」
「もう会いたくないよっ」
最期まで男性は笑い、みつは拒否していた。それがおかしかったのか、腕の中の彼女が笑っていた。逃げていた男の腕の中とは思えない程幸せで、愛に満ち足りた顔をしているように見えて。ああ、これが、彼女の言っていた愛の形かと、何となく納得できた。
男性は、彼女を腕に抱えたまま、窓際に行き、私達を振り返った。そして、ひとつウインクして見せると、窓枠に足をかけ、そのまま窓を蹴って外へ飛び出した。普通ならそのまま落ちるはずだが、落ちた音は、しなかった。
残された双子が、続いて同じ窓に行き、同じように窓を蹴って外へ飛び出した。それは、少し後でドン、と音がした。二階だからたいして大きな音はしなかったが、大丈夫だろうか。そう思って窓に近づいて下を見るが、もう何も無かった。不思議だ。
そんな私の肩をポンと叩いてみつは、
「私達も帰ろっか、かおちゃん」
そう言った。
イヒ リーベ ディヒ フュア インマー(あなたを 永遠に 愛している)




