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たまには昔の話しを

 みつの投げやりな言葉に、女性はおかしそうにふふふと笑った。薄く開いた唇から見える犬歯が長い。目も赤いままだ。そうか、普通に吸血鬼って存在したんだなあと、半ばぼんやり考えていた。


「そんな呼ばれ方をしているとは、思わなかったわ」

「私も、そんな呼び方をしないといけない日が来るとは思わなかったよ」


 二人は、なにやらおかしそうにお互いを見て笑っていた。いや、苦笑かな。月の照らしているところは明るいとはいえ、太陽のように隅々まで照らしてくれない。それは表情も同じ事で、見えない部分は想像で補うしかないのである。


「でも、ご主人様とはいつ会ったの?」

「んーと、高校生の時だから、ざっと十年経たないぐらいかなあ」

「十年前……」


 そう言ったきり、彼女はなにやら考えこんでしまった。

 ちょっと、みつに聞きたい事があるのだが、聞くなら今だろうか。


「みつ……何で高校生の時に吸血鬼に会ったの」


 正直、子供の頃からなにしてるんだという突っ込みを入れたいが、それは我慢する。


「ん~、ちょっと……悪魔召喚をやってみたくて?」


 ……脳が言葉の意味を理解する事を拒否しはじめてる。うん、吸血鬼とか見てるし普通に会話してるし、だから、脳が疲れてるんだわ、きっと。そう。だから理解しない。


「若かった上に無謀だったから、ちょっと失敗しちゃって☆」


 片目つむって舌出すのやめて可愛くない。っていうかやっぱりちょっとイラッとするわ、みつ。


「それで、なんの用意もしてなかった低級の悪魔と危うく契約させられそうになった時に、魔法陣に興味を持ったあいつが来て、結果的に助けてもらったんだよねー。結果的にね」


 大事な事なので二回言う必要があったのだろうか。結果的を強調していたが、何がどうなって結果的なのかは、教えてくれないようだ。まあ、今みつが無事にここに居ることが、何よりの結果、なのだろう。


「だから、借りは返さないといけないんだよねえ」


 みつが、ぼそりと呟いた。


「ふぅん? その時に、さっき言ってた、逃げ続けるとかいうのを聞いたの?」

「そーだよぅ。あのね、あいつのノロケすっっごくウザいの! 結局逃げられてるんじゃないって言っても、それも愛の形とか、わけわかんない事言い出すし、もー本当助けられてなかったら殴ってたね」


 みつが、当時を思い出しのか、ぷんすこ怒りだした。みつにそれだけウザがられるのって、柿森さん以外見た事ないから、意外だった。いや、面倒くさいと同意義だったら、結構言ってるわ。


「それが、私達の愛の形なの」


 私達の会話に、ようやく考え事から戻って来た彼女が口を挟んた。みつは、彼女の方を振り返り、思いっきり肩を竦めた。


「わからないな。逃げるって事は、そいつが嫌いになったんじゃないの?」


 みつのストレートな言葉に、彼女はふと微笑み、首を横に振った。月の光でもわかるぐらい、愛おしそうに、懐かしそうに。


「……私も、あの方に結果はどうであれ、命を救われた。それから二百、共に居た。その間に愛したし、愛されたし、永遠の幸せを感じていた。本当に、永遠を感じていた」


 と、ふと何処か遠くを見るように視線を移した。


「そこから百。喧嘩も仲たがいも、遊びのような殺し合いもしたわ。永遠は、無いのだと。でも、この命は永遠を与えられてしまった。それから後悔し、嘆き、悩んだ。だから、あの方から、逃げ出した」


 目を伏せ、憂うような顔をしていた。だが、次に顔を上げたときは、何故かまた先程までの愛おしそうな表情を浮かべていた。


「そして、三百。あの方から逃げ続け、捕まり続け、愛し続けているの。永遠に終わらない、愛を続けるために」


 その顔は、何処か満足げに見えて。


「……わからないな」


 みつが、ぼそりと暗い声で呟いた。それは、複雑な感情を含んでいそうな声だった。そんなみつの言葉に、彼女は微笑んだ。


「一緒に在るだけが、幸せや、愛する事では無いという事よ」

「やっぱり、わからないや。大切な人なら一緒に居たいと、側に居たいと、私は思う」


 私の角度からでは、みつの横顔のわずかしか見えないが、目を伏せ暗い表情になっている事はわかった。その表情に、何故か可哀想だと思ってしまった。


「ふふ。これは私の、私達だけの、愛の形。あなたは、あなただけの形を貫けば良いのよ」


 そんなみつに比べて、彼女は満たされたように微笑んでいた。みつの気持ちもわかるような、彼女の気持ちもわかるような、どちらもわからないような。私が、人を心から愛した事が無いという事だろうか。ああ、でもマルちゃんとかシロくんとか玉葉くんの事はとっても好きだわ!可愛いって正義よね!

 とにかく、彼女の顔は何処か満足げで、みつの表情は暗かった。それが、何だかとっても、気になった。


勝手に喋りだしたのがガチの昔でもう突っ込みすら放棄した薫の脳内やいかに!

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