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廃墟の新住人

 事務所を出てからは、みつも私が同行する事にどうこう言わなくなった。……はっ、シャレじゃないからね?!


「ど~したのぉ?」

「な、なんでもないわ。ほら、あそこのはずよ」


 事務所で調べた住所によると、あそこで合ってるはずだ。ちゃんと、正面にはおどろおどろしい廃墟があるし。

 廃墟と言っても、塀と門扉は未だにしっかり侵入者を拒んでいるし、家だって形を残している。所々朽ちているので、廃墟とわかるぐらいか。二階建ての大きなお家だ。結構お金がかかっただろうに、何故打ち捨てられてしまったのだろうか。

 みつは、門扉の前まできて、中を凝視していた。そう、文字通り、ジッとあのなんでも見透かす眼で中を見通すように。


「みつ、どこか入れそうな所を探す?」

「……ううん、その必要は無いみたいだよ」


 みつが手を伸ばすと、門扉がキィイときしみながら開いた。鍵、かかってなかったのか。みつが私を振り返り、本当についてくるの?と目で聞いてきたので、無視して横に並ぶ。みつは苦笑したが、何も言わなかった。

 並んで、門扉をくぐり、中に入る。


 中は、やっぱり人が居なくなって結構な時間が経ったのだろう、荒れていた。青々としていただろう芝生は枯れて剥げ、木は枯れていてちょっと気味悪い。そんな中を、平然と目の前の玄関に向かって歩き出すみつは、心臓が違うのだろう。遅れないように慌ててついていく。

 扉の前に着き、またみつが扉を押すと、扉は今度もきしみながら開いた。拒む事なく、まるで迎えるように。それだけでも、ちょっとビビリ始めているが、平然を装ってみつの後ろにつく。


「大丈夫? かおちゃん」

「大丈夫です」


 強がりが口調に出てしまっただろうか。いや、でもここまで来て引き下がらないからっ。

 そもそも、鍵がかかってないということば、私達みたいに物理的に侵入できるという事なのだから、不審な人間がいる可能性だってまだあるのだ。気を引き締めていかないと。


 そんな事を私が考えている間も、みつは迷うことなく、二階へあがる階段を見つけ、上がってゆく。もちろん、土足で。もう、なんだか私も慣れてきてしまったような気がする。

 二階へ上がると、みつはキョロキョロと左右を見渡した。が、すぐに正面にある大きな扉に向かって歩き出した。未だ風雨にさらされていない為か、以外にも床はしっかりしていた。流石お金かけてそうな家だ。

 大きな扉の前に来て、またみつが手を伸ばす。と、これも拒否する事なく扉が開いた。

 大きな、部屋だった。

 だが、そんな事より重大な違和感があった。


「……黒い、ひつぎ? 棺おけ?」


 そう、家具が朽ち果て窓がむき出しになった中で、漆黒に鈍く輝く大きな棺が、ドーンと部屋の最奥に鎮座していたのだ。そこは、両脇のカーテンが朽ちた窓からの日差しも入らないようで薄暗いが、存在感が違ってた。

 みつが、何の考えも無さそうにその棺に向かって歩き出したので、思わず腕を引っ張る。


「み、みつ。あれ、あれって」

「うん、棺みたいだね。ちょっと確かめたい事があるんだぁ」


 そう言うと、逆に私の手を取ってずんずん棺の方へ歩き出した。歩き出すと言っても、部屋の中なのですぐソコに着く。私の手を離し、棺の上部をまじまじと見ているみつ。

 ひ、棺って、あれじゃない。あの、ほら、死んだ人とかが、ね?入ってるじゃない?しかも、こんだけ朽ちた家にぽつんとあったら、それは……。


「あ、やっぱり」


 怖い想像をしていた私を無視して、みつが棺をゴンッと蹴った。おおい!


「な、なにをしとるかっ」


 思わず変な口調になってしまった。思わず腕を引いたので、みつがビックリしたように私を振り返り、そしてぷっと吹き出した。


「大丈夫だよ、かおちゃん。この棺に、たっとぶべき死者は、入ってない。それよか、知ってるやつみたい。だから、大丈夫だよ」


 言ってる意味が、全くわからん。

 顔に出てたのだろう、みつが今度は苦笑しながら扉に向かって歩き出していた。置いていかれては大変と、慌てて私も扉の方へ歩き出す。

 みつは私を振り返ると、


「確認したい事は終わったし、帰ろうか」


 そう言ってふふんと笑った。横に並ぶ。


「みつ。知ってるって、どういう事?」


 階段を降りながら、聞いてみる。みつは私を振り返らず、


「昔ね、会った奴だと思うんだぁ。変な吸血鬼きゅうけつきだよ」

「吸血鬼ぃ?!」


 素っ頓狂な声が、廃墟に響く。


「うん、吸血鬼」


 それに対してみつは、いつものように平然と答えた。


「かおちゃんを怖がらせた不審者もそいつだと思うし、とっちめなきゃ」


 ぷぅと頬をふくらます。だから、可愛くない。いや、そんな事より、吸血鬼。吸血鬼って、あの血を吸って人をたぶらかす、西洋の化け物よね? よかった、本当にみつの言う通り吸血鬼に遭ったのなら、血を吸われなくて。っていうか、知り合いってなんだ。みつ、昔からそんな変なものと知り合いなのか。






 それから、私達は何事もなく廃墟を出て、門扉を出て、事務所への道を帰った。

 本当に、何事もなかった。日もまだ高いし、良かった。


 事務所に戻り、玉葉くんにただいまを言うと、玉葉くんはいつも通り可愛らしく、お帰りと言ってくれた。


「どうだったの?」

「知り合いが居た」

「え?」


 玉葉くんが話しかけると、みつは机に座りながら平然と言った。戸惑う玉葉くん。私も戸惑ってる。


「話しをするなら、夜じゃないと起きてないだろうなあ」


 そう言いながら、みつは自分の机の引き出しをいくつか開けて、ガサゴソ何かを探していた。


「みつ、夜にも行くの?」

「うん。話せないからね、夜じゃないと。知らない? 吸血鬼の特性」

「確か、日の光と十字架で死んじゃうのよね?」

「う~ん、あいつはそれくらいじゃ死なないと思うけどぉ、まあ、昼は起きてないんだってぇ。久しぶりだし、かおちゃんを怖がらせたみたいだし、とっちめないと気がすまないんだよねー」


 みつは目当ての物を見つけたのか、引き出しから何かを取り出した。それは、銀色のナイフ。西洋のコース料理などで使われるナイフのような物で、少し大きく見えた。


「吸血鬼の伝説には、多くの誤解や濡れ衣があるけれど、これだけは本当。銀が効く」


 銀色のナイフを縦に持ち、ふふふと怪しげに笑う姿に、これじゃどっちが不審者かわからない。


「かおちゃんも一緒に来る? 直接謝らせるよ、怖がらせたこと」


 何だか、さっきから聞いてて思ったのだが、酷くない? 扱い。仮にも吸血鬼という伝説級の相手なのに。


「いや、別に何もされてないから良いんだけど……ついて行っていいなら、一緒に行くわ」


 好奇心には、私も勝てなかった。それに、あの月夜の道で見た、赤い目が怖くなかった理由が知りたい。瀬尾には恐怖を感じたが、あの目からは恐怖は感じなかった。ただ、違和感。それが何故か、知りたかった。

 私の言葉に、みつは楽しそうに笑った。私、この人と出会って夜に出歩く回数が増えたけど、それは不審者の第一歩ではないと、信じたい。







 夜。

 昨日は十三夜。なので、今日は十四夜、明日は満月だ。月は大きくまんまるに光り、白く夜道を照らしている。月の光が、こんなにも明るかったなんて、久しぶりに感じた。


 そんな月夜に、女性が二人。もちろん、私とみつだ。玉葉くんは、またしてもお留守番をしてもらっている。玉葉くんが来るような事態じゃないらしいし。

 今は、昼間に来た廃墟の前に立ち、ほぼまんまるの月に浮かび上がる打ち捨てられた家を見上げていた。


「夜に来ると、雰囲気があるわね」

「そぉ? ここが日本家屋だったら、私もそう思うけど、普通の家じゃない~?」


 そうだった。この人、良い所のお嬢様だった。肩を竦め、それには返事せず先を促がす事にした。


「入るんでしょう?」

「うん。……ただ、変な気配がするんだ。かおちゃん、私から絶対離れないでね」


 言われなくとも、離れないわ、怖いし。何、変な気配って。

 私が殊勝に頷くのを見て、みつは満足そうににこっと笑った。そして、門扉に手をかけた。門扉は、昼間と同じように、ギィイと鈍い音を立てて、開いた。その隙間に、ためらいなく入っていくみつ。遅れないように、私も続く。


 家の扉もすんなり開き、二階へ上がる。ついに、この間の吸血鬼とご対面か。ちょっと緊張する。みつが、そんな私に気づいたのか、気遣うようににこりと笑った。私が大丈夫そうなのを見て、みつは改めてあの大きな扉を見た。そして、


 バァン!!


 勢い良く開けた。一瞬、何事かと思った。ビックリした。

 それは、中の気配も同じようで、


「なに?!」


 声が聞こえた。驚いた、女性の声。女性?

 みつが目の前で固まっているので、横からひょこっと中をのぞく、すると、


「誰? どうやって人の子がここに入ってきたの?」


 黒いツンツンしたショートカットの、目鼻立ちのはっきりした女性がいた。だが、肌は恐ろしく白く、瞳は赤い。


「あ~……、人違い、いや吸血鬼違いしちゃったみたい。知ってる紋章が入ってたから、つい」


 みつが棺を見、気まずそうに頭をかいた。それに対し、女性は黒い棺の上に座っていたのだが、少し身をずらし、ちょうど人が入ったら胸にくるであろう場所にある、模様が見えるようにした。私には暗くて良く見えないけど、みつは昼間見て知っているはずだ。


「それって、コレのこと?」

「うん、そのドラゴンの紋章」

「あなた、ご主人様の知り合いなの?」

「キミの言うご主人様とやらが、ミルチェアの事だったらね」


 みつが、肩を竦めた。

 女性は、月の光だけで照らされた赤い唇で弧を描いた。


「まさか、こんな極東でご主人様を知ってる人間が居るとは思わなかったわ」


 そんな女性を見て、みつが苦笑した気配がした。


「私も、まさか本当に居るとは思わなかったよ。あいつの、”永遠に逃げ続ける恋人”」


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