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お代

 あれから、数日後。


 空が綺麗に青く晴れわたっている。加えて、神社の敷地内という事で空気も何だか清々しい。

 あれから奥さんは確かに人気の少ない稲荷神社を見つけ、みつは人に見つからないよう神社の敷地に事務所と同じ模様の結界と札を張る作業をしていた。

 それが、今日完成したのだ。

 奥さんには昨日連絡したので、そろそろ来るのではないだろうか。


「こんにちは。探偵さんと、その秘書さん」


 相変わらず、気配を感じさせない人だ。ビクッとして振り返ると、奥さんが優雅に立っていた。相変わらず余裕そうに振り向いたみつが声をかける。


「こんにちは。ここは大丈夫ですか?」

「ええ。人型をとっているし、慣れ親しんだ匂いがするわ」


 鼻をスンッとさせ、匂いをかいでいるようだ。大丈夫そうでよかった。

 ここは稲荷神社の裏手で、手入れされきっていない雑木林が広がっており、人が来てもどこかしらに隠れる事が出来そうな場所だった。

 その一角に、例の結界がある。

 私達はその前にきた。


「じゃ、前と同じように呼び出してもらえます?」


 奥さんは頷いて、地面にうっすらと描かれた事務所にあった同じ結界に向かって前と同じように呟いた。前と同じ事が起こり、玉葉が形作られた。玉葉が、結界の外に出てくる。


「こんにちは。今度はちょっと軽くなるように構成してみたんだけど、どうかな」

「うん。何だか、軽い気がする。ありがとう、ええと……」


 困ったような玉葉に、みつはにっこり笑った。


「不破、だよ。で、こっちが神凪。かおちゃんって私は呼んでる」


 みつが勝手に私の名前まで教えた。まあ、いいけど。みつが良いと判断した事なら、大丈夫なのだろうし。玉葉はそれを聞いて、控えめに笑った。


「ありがとう。不破さんに、神凪さん」


 妖狐にさん付けで呼ばれるなんて、そうそうない事ではなかろうか。みつは上機嫌に笑ったままだった。


「さて。ここで本題ですが……」


 いきなりのみつの言葉に、再開を喜んでいた奥さんと玉葉が一緒に振り返った。


「この結界二つとその玉葉君の器。それにプラスして私の力を練り込んで安定させた繋ぎの呪符じゅふ


 みつの言葉に二人ははてな顔だ。それはそうだろう。何の脈略もない言葉。私は、みつが次何を言い出すのか薄々解ってきたが。


「……それがどうしたの。感謝、しているわ」


 奥さんが不審そうにみつを見つめた。みつは人の悪そうな顔をして、ニヤリと笑った。


「高いですよ」


 一気に奥さんの顔が嫌そうに歪んだ。玉葉は状況を把握しきれてないらしく、姉の反応におろおろしていた。


「お代の事ね。いいわ、払うわよ。私にだって多少の蓄えがありますからね。で、いくら欲しいの」


 つっけんどんに奥さんが言い放った。みつはそれを見てまたにやりと笑った。


「お金なんていりません。旦那さんに必要経費として請求させていただきますから」

「それじゃあ……」

「私が代償おだいとして欲しいのは、玉葉君の力。気狐としての玉葉君の力の一部を、私にください♪ 悪い条件じゃないでしょ?」


 ピョコンとみつは両手を玉葉に向かって差し出した。言われた本人は、いきなり矛先が自分に来てうろたえていた。奥さんは困惑したようにみつを見ている。


「え、え、僕の力の一部? そんな、あげるものなんて何も……」


 そこで玉葉はハッと何かに気付いたようだった。ゴソゴソと手を動かし何かを呟くと、手の中がピカッと光って、いきなり短刀が現れた。もういろんな事に慣れたはずだったが、世の中にはまだまだ驚くような事が起こるらしい。それでも黙ってみていると、玉葉はそれをみつに差し出した。

 繊細な金と銀の細工が施されている、儀式用にしか使えなさそうな短刀だ。まるで、玉葉のようだと、思った。


「これ。僕の守り刀。ずっと持ち歩いていたから、僕の力も移っているはずだよ」

「わあ、凄い凄い! これを持ってるだけで、そこらへんの低級霊なら逃げ出すヨ」


 みつは嬉しそうにその刀を受け取った。奥さんは、その刀に見覚えがあったのか、玉葉を気遣うように見ていた。


「玉葉、いいの? それは母様の形見で……」

「いいんだよ、姉さん。この刀一本で、また姉さんに会えるのなら、母様も許してくれるよ、きっと」


 奥さんは感極まったように、目に袖を当てていた。……美しすぎて、もう笑いすら出てきそうだ、この妖狐姉弟。


「--じゃ、貰う物貰ったし、帰ろっか。かおちゃん」


 みつが全力の良い笑顔で私の方を振り返った。あの姉弟は、積もる話しでもあるらしく、完全に私達を視界からスルーさせて話込んでいる。……帰った方がよさそうだ。私はみつの方を向き、頷いた。






 帰り道。


「先生」

「なに? かおちゃん」


 みつが上機嫌で振り返った。その顔に私は単刀直入に疑問をぶつけた。


「途中から、そのお礼の品目当だったわね」


 みつは、図星という顔をして、目を背けた。口笛まで吹きそうだ。


「な、何の事かな? 私は、あの姉弟に良かれと思って……」

「嘘おっしゃい。何もないのに、みつがあそこまで乗り気で仕事する筈ないじゃない」


 しばらくみつは無実を訴えるように私の目を見ていたが、私がみつに負けるわけがない。やがて根負けしたのか、ため息をついた。


「ホンット、かおちゃんに隠し事は出来ないなあ~」


 それでも嬉しそうに笑うから、反省なんてしていないのだと知れた。今度は私がため息をついた。


「全く。依頼人とその奥さん両方から料金を貰うなんて、聞いてないわよ」

「いいじゃない。これで丸く全てが収まるんだから♪」


 私はみつに向かって、もう一回これ見よがしにため息をついてみせた。効果なんてないとは思ったが。

 案の定なんの皮肉にもとられなかった。


妖怪とか霊には絶大な効果を与える短剣を手に入れた!

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