夜は更けて
帰りの車内。
「えでぃは絵の事を知ってたんだなあ。俺はてっきり、普通に百物語するのかと思ってたぜ」
「相談されてたからねえ。でもまあ、みんなの足って意味の方が大きいと思うけどね。俺にも、幽霊は視えてたけど、怖いとは思わなかったからなあ。神凪さんがいて正解だったんじゃないかい」
前の席に座る二人が、私を振り返った。
「あんまり、嬉しくないです」
「そうかそうか。そりゃ、怖い思いをしたらそうだよなあ。俺なんか、役立たずだったからなあ」
柿森さんが笑う。
「しかし、見事に絵を真っ二つにした不破さんは、凄いねえ。何か習っていたのかい。剣道じゃないよねえ」
枝野さんが、感心したように言う。みつはそれを聞いて、ぷいっと窓の外を向いた。
「そんな感じ~」
教えたくない何かがあるのだろう。枝野さんもそれを感じ取り、それ以上は追求しなかった。大人だ。
「さ、着いたよ。お疲れ様、二人とも」
「ありがとうございました」
「おやすみ~」
「おう、お休み」
事務所の前に車を止めてもらい、降りる。
枝野さんと柿森さんに挨拶をして、車が去るのを見送る。やっぱり、この辺りはまだ明りが多い。ほっとする。
「さ、今日は遅くなっちゃったね。事務所に泊まっていくでしょう?」
事務所の階段を上りながら、みつが聞く。
「え、今日は神凪さん事務所に居るの?」
と、今だ胸に抱いたままの玉葉くんが、ぴょこんと頭を上げて、嬉しそうに聞いてきた。
「ええ。家に帰るには遅くなっちゃったからね」
「みつの家に泊まれば良いのに~。部屋いっぱい空いてるしさあ」
「プライベートはちゃんと区別したいんです」
みつは苦笑しながら、私を振り返り、真面目だねえ、と言った。大きなお世話だ。
事務所に入り、寝る準備をする。
「神凪さん、神凪さん」
その周りを、玉葉くんがくるくるしながら話しかけてくる。
「なぁに?」
「んとね、何でもない」
「なに、それ」
ああ、可愛いなあ。狐の姿になると、知能が低下してるっぽいけど、可愛いなあ。
そんな私達を見て、みつが頬を膨らませていた。
「みつもここに泊まるぅ!」
「狭いし寝る場所ないでしょ。自分の家に戻ってください。すぐ上でしょ」
「でもぉ」
「ほらほら」
ぐずるみつを押し出し、扉まで移動させる。
「おやすみなさい」
「う~。おやすみぃ」
諦めたように、でも未練っぽく後ろを振り返りながらみつは出て行った。
その夜。
玉葉くんと少しだけお喋りをして眠りについた。家族のこと。うか様のこと。
でも、眠りにつく頃には、何を話していたのか覚えていられなかった。ただただ、安らかに眠りにつく。
あの絵も、安らかな眠りにつけたのだろうか、とふと思った。そうであったら良いが。
夜は更けてゆく。
安らかに。
静かに。
おわり。
これにてちょっと変わった怪談終りです。ちょっとは涼しくなれましたか?




