春雨
目覚めたのは、どこか白く光輝く眩しいところだった。
いや、目覚めてないのかもしれない。だって、目の前にいるのは、私、だったから。
目の前にいる私は、ちょっと怒ったような顔をしていたが、心配そうに私を見ていた。
そんなに、心配しないで。私は大丈夫。
言葉にはならないけど、私、には伝わったようだ。
苦笑し、私を見る、私。
それに応えちょっとはにかんだように笑うと、私もはにかんだ。ふっと意識が遠のく感覚がする。
あれは、誰なんだろう。いや、私か。いや、私なんだろうか。なんだかとっても、懐かしい感覚がする。
まとまらない考えは、白い靄に溶けていくようだった。
目覚めたのは……今度こそ、ちゃんと目覚めたのは、見慣れた場所だった。
見慣れた天井、照明、本棚。ああ、ここは、事務所だ。
「あっ、かおちゃん! 起きて大丈夫? 痛むところは無い?」
みつが、心配そうにこちらをのぞきこんでくる。起き上がろうとすると、くらっと眩暈がした。
「大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと眩暈がしただけ。……ええと、何してたんだっけ」
寝起きの頭で、思い出せない。ええと、たしか、ののかを助けに行ったんだっけ。あ、そうだ。ののかは大丈夫だったんだろうか。
「みつ、ののかちゃんは」
「ちゃんと、両親の所に帰ったよ。大丈夫」
苦笑交じりに、みつが言う。そうか、帰れたのか、良かった。何か色々省かれている気がするが、多分、聞いてもわからないんだろう。いつもの事だ。
「そう、良かった。……私、覚えてないけど、気絶したのかな。みつが助けてくれたんでしょう、ありがとう」
だんだん、思い出してきた。が、あそこでぷっつりと記憶が途切れている。そこから、此処に帰ってきていると言う事は、みつが連れて帰ってくれたのだろう。ありがとう、ともう一度謝意を示すと、微妙な顔をして、はにかんでいた。心配かけたんだろうか。申し訳ない。
そういえば、気になる事はまだあるんだった。
「あの施設は、どうなったの? 枝野さんや柿森さんは?」
みつに聞くと、みつは嶺川から聞いたという話を、話してくれた。
それは、嶺川みたいに面白いと笑って良い事なのかわからなかったが、なんにせよ混乱が起こったのだけはわかった。
「まあ、これで色んな事が一気に解決するんじゃないかなー」
「そう、ね。あ、そうだ、玉葉くんは?」
「ちゃんと、器に戻ったよ。もー、大変だったんだから! 帰ってきたら留守電に、あの奥さんからの鬼のような、玉葉は何処か知ってるんでしょ伝言! 全部消してやった」
ぷぅっと、頬を膨らませるみつ。だから、可愛くないってば。に、しても、そうか、あの人ならしそうな事だ。でも、ちゃんと戻ったのなら、大丈夫なのだろう。正直、少しその伝言に興味があったが、怖いので聞かないでおこうと思う。消したって言ってるし。
「かおちゃん、今日はもう遅いし、泊まっていったら?」
みつの提案に、素直に頷く。
正直、まだちょっとフラフラする。明日は日曜日だし、ゆっくりして帰ろう。で、月曜日は代休ももらって病院行かないとね。みつが五月蝿いし。
外は既に暗闇だが、降る雨の音は細く柔らかかった。
もう、前までのような激しく暗く降る雨では無い、そんな気がした。
明日は、晴れるだろうか。
明日晴れたら、きっと気持ちの良い春めいた水色の空になるだろう。
そんな予感がした。
雨は、降り続いている。
柔らかく、暖かく。
終わり。
これにて終りです!蛇足感ありありでしたが、ここまでありがとうございました!
明日は、晴れると良いですね。




