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暴風




 薫は、気を失った。

 狐の咆哮と共にのかの身体から出た、一本の獣の腕によって。

 薫の隣にいたみつが反応できてなかったのも、仕方ないことだといえよう。

 ののかの身体から出た腕に吹き飛ばされ、薫は入ってきた扉に叩きつけられ、気を失った。

みつはすぐさま薫を助けようと向かおうとしたが、それは腕によって阻まれた。

 ののかは呆然としたように、自分の身体から伸びる腕を見ていた。

 ののかには、見えるのだ。


 腕も、狐も、玉葉も。


 玉葉と狐は、戦っていた。玉葉は人型をして狩衣と呼ばれるふんわりした着物を着ているが、狐耳と三つの尻尾が生えていた。狐、玉葉が時雨と呼んだ化け物は、大きな狐の姿をしていた。赤茶の毛並みに、一筋白い毛が混じっている。尻尾は、四つ。そして毛並みとは別に、黒々とした靄のようなものが、その狐から漂っていた。


「邪魔するな! かおちゃん! かおちゃん!」


 みつはののかから出る腕を掴み、思いっきり、だが無造作に引っ張った。すると、ののかの身体から、腕がグイッと抜けた。腕だけ。肩からちぎれたように。呆然と座り込むののか。その腕を放り捨て薫のもとにみつは走り出した。

 と、同時に狐が痛ましい咆哮をあげた。痛がっているようだ。狐の左前脚から真っ黒な霧が噴出し、その腕も真っ黒に染める。あれは、狐の血の代わりなのだろうか。

狐はめちゃくちゃに暴れ、薫のもとに向かおうと気を取られていたみつのわき腹に爪が当たった。とたん、みつのわき腹から血が溢れた。


「ぐっ!」


 久しぶりに痛みが走る。思わず足を止め、わき腹を抑えるみつ。

 その暴風のようなめちゃくちゃな暴れように、狐から逃げようとしてた教主と呼ばれた男は運悪く当たり、吹っ飛んだ。薫と同じように壁に叩きつけられ、床に倒れこみ気を失った。ソコは、ちょうど蝋燭が在る場所。だが、蝋燭の炎は男の着物にうつる事はなく、倒れたまま炎を灯し続けた。薫が見たら、LEDの偽者かと思ったかもしれないが、コレはそんな意味での偽者ではなかった。


 玉葉は狐が暴れる隙を見てその左前脚を攻撃する、が、威力足りないようで、痛がるが倒れはしない。逆に距離を取られてしまう。


「何やってんの、玉葉!」


 みつが、わき腹を押さえながら、玉葉を叱りつける。玉葉は、ちょうど狐の足と尻尾を避けたところだった。


「そんな事言ったって、僕は三尾なんだよ!」


 玉葉も必死に言い返す。腕を避け、尻尾の重い一撃を受け止める。玉葉はそれだけで、顔を歪めた。

 あの狐が四尾になっていたのは、みつの計算違いだった。狐は、尻尾が増える度に強くなるという。元の三尾だったら玉葉だけでも何とかなっただろうが(実際依頼に来たのはその狐に勝ったからのようなものだし)、今や玉葉だけに頼るのは無理そうだ。自分の腹から流れ出す血は、まだ止まらない。みつはようよう薫のもとにたどりついた。呼吸を見、気を失っているだけなのを確認して、ほっと安堵する。 

 みつは後ろを振り返り、段の隅で呆然としているののかをキッと見た。


「見ろ、ののか!」


 ののかに向かい、大声を張り上げる。


「アレが、おまえが慕い、崇め、縋りついた、お狐様の正体だ! 見ろあのおぞましい姿を!」


 玉葉を攻撃し続けている、黒い霧が出る大狐を指差した。自分のわき腹をかばい、薫をかばい、必死にののかに向かい怒声を上げる。


「お前が、アレをああしたんだ! ケリをつけろ! 自分とアレから逃げるな!!」


 必死にみつは声を張り上げ続ける、が、ののかは、目を見開いたまま、動こうとはしない。よほど、ショックだったのだろうか。信頼し敬愛するお狐様が、イジメっ子を怪我させたように薫を怪我させたのが。やはり、獣は獣だという事が。


「不破さぁん! 押さえきれないよ!」


 玉葉の泣き言が聞こえる。狐のほうが優勢なのは、みつもわかっているのだ。だからこうやって、ののかに何とかしてもらおうと声を張り上げてるのだが、ののかは応えない。せっかく、薫の呼びかけに答えはじめていたというのに。


 のぉのぉぉおかぁあああああ


 狐の、咆哮に混じりののかを呼ぶ声。それが、またののかを竦みあがらせる。チッと舌打ちをするみつ。


「もうちょっと頑張って玉葉!」


 玉葉に(げき)を飛ばしつつ、みつは薫を安全そうな扉の前まで移動させた後薫の側から立ち上がり、ののかのすぐ側までわき腹を庇いながら来た。ガシッと、ののかの肩をつかみ揺さぶる。


「ののか! お前は初めてうちに来た日、あのお狐様に悪い事をしてほしくないと言ったのを忘れたのか! お前がアレを止めないと、本当にアレは人を殺すようになるぞ! お前の為に、人を殺すようになるんだぞ! それで良いのか! お前しか止められないんだぞ、ののか!!」


 最期は、懇願するような声になっていた。

 みつにしては珍しい声音だったが、みつも必死だった。奥の手は、あるにはある。だが、こんなところでこんな輩に使いたくない。だからののかに何とかして欲しいのだ。ののかの言葉なら、あの狐に届くはずだから。

だが、当のののかにこちらの言葉が届かない。

 もう、既に色々な事が手遅れなのかもしれない。

 ののかは目を見開いたまま床にへたりこんでいるし、玉葉はあの狐に力負けしている。


 ……ここまで、か。


 そもそも、自分の見立てが甘くかおちゃんを危険にさらし、なおかつ傷つけてしまった。何より優先されるのは、かおちゃんだ。

 玉葉やののか達には悪いが、ここはかおちゃんを連れて逃げよう。

 そう、みつが決意した時、


 ぞわっ


 何かが、背筋を走った。

薫が気絶すると三人称になるのは仕方ないこと、いいね?

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