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「すみません、お待たせしました。ふ、おっと、山田さんと鈴木さん」


 入ってきたのは、幸運なのか必然なのか、柿森さんの所の探偵だった。月曜日にあの男性を誘導してくれたのも、彼だ。どうやら、ずっとこの会に所属してそれなりに高い地位にいるようだ。

 扉を閉め、ニヤリと笑う。


「私、ここで禰宜をしており、信者の方のお世話をしてます、嶺川みねかわと言います。ハジメマシテ」

「ハジメマシテ」


 お互いに、頭を下げる。

 そして、嶺川と名乗った彼、前会った時はもっと違う名前だったと思うが、は、キョロキョロと辺りを見回し、何かを見つけたようだった。部屋の隅に移動し、袖から取り出したリモコンを操作していた。時代がかった服から出てきた現代機器に、違和感がぬぐえない。というか、何があるんだ、ソコに。


「さ、これでもう大丈夫ですよ。お久しぶりですね、月曜日ぶりですか」


 彼が、にこやかに笑いかけてきた。みつは部屋の四隅を確認するように見た後、頷いた。


「久しぶり、上手くやってるみたいだね~」


 みつは大丈夫、と言われる前と少しも変わらない座り方のまま、応じた。彼、嶺川はそんなみつを見て、苦笑していた。何度か顔をあわせたことがあるが、やっぱりみつのギャップはなかなか慣れないようだ。こればっかりは仕方ない。


「ええ、まあなんとか。それより、オーナーから聞きましたよ。ここ、襲撃するんですって?」


 嶺川は私達の一列前の椅子に座って、面白そうに私達を見て笑っていた。みつはムスッとした顔になった。


「フジさんの所を襲撃した奴がいるからね。あと、まあ、色々あって」

「そうなんですか。まあ、僕としては、ここから早く帰れるので、なんにせよありがたいです」


 みつの不機嫌顔とは対照的に、彼は嬉しそうに笑っていた。

 嶺川(仮)は柿森さんに聞いたところ、色んなところに潜入したり、信用されないと難しい依頼にまわされるらしい。まだ年若く私達より若いが、なんなくその任務をこなす。どこにでも居る普通の好青年という感じで、初対面だとまず嫌われる事がないという、うらやましい特技を持っているのだ。が、手癖が非常に悪く、柿森さん以外で彼を使える人がいるとは思えない。だから、適材適所なのだろう。たまに会う彼は、そのたびに違う名前を名乗っている。


「オーナーは昼に着くと言ってましたが、それまでどうされます?」


 嶺川が聞いた。みつは少し考えたが、


「巫女になった子に会いたい。それが無理なら、その辺の経緯教えて」


 そう言った。今度は嶺川が少し考え込んだ。巫女は教主と同等に語られる存在であるようだし、そうそう簡単に会えないのだろう。難しい顔をしている。


「そうですね。残念ながら、僕の権限では直接巫女に会うのは難しいと思います。袖の下使えば、いけるのかなあ。幾らぐらい使えます?」


 嶺川はいとも簡単に聞いてくる。みつは少し面倒臭そうな顔をした。多分、お金を出すのが嫌なのではなく、袖の下、つまり上の者に対する賄賂が公然と行われているのが嫌なのだろう。そんな組織は、腐ってる。


「6桁。でも、そんな面倒くさい、返ってこない投資はしないよ。どうせ、結構な額要求される上に際限ないんだから。いいや、巫女が来た前後の様子教えて」


 嶺川は、彼に似合わない小難しい顔をして、首をひねった。


「僕、実は巫女が来た後に潜入始めたんですよ。それが、先週の水曜日なんです。そこから、凄い勢いで噂が広まって、信者が集まりだしたんです。僕がこの地位にいれるのも、その人数が少ない時に入ったタイミングのおかげでして。だから、巫女が来る前っていうの、知らないんです」


 意外だった。わりと上の方の地位にいると思っていたが、それがタイミングのおかげだったなんて。しかし、そうすると信者の増え方が異常だと思った。私の疑問を見抜いたのだろう、嶺川が私の方を見て、頷いた。


「僕もねー、その辺不思議なんですけど、巫女が来て、一気に色々本物になった、印象を受けるんですよ。それが信者に広まって、その信者の人脈に広がって、でこれだけ人が増えた」

「そうなの?」

「巫女が来る前も、こういう施設があって、それなりに人がいて、それなりに詐欺まがいの事やってたみたいなんですけどね。巫女が来て、本当に幸運になった人達が出始めて、それに縋る人達が増えたようですよ」


 嶺川はふっと馬鹿にするような笑いを浮かべた。


「幸せなんて、誰かに縋って貰うものじゃああるまいに」


 それは同感だ。だが、私達よりさらに若く、何の苦労もしていなさそうな好青年風の彼がこんな風に笑うのは、なんだか意外だった。どんな人生を送ってきたのだろう。


「そうだね~。だからこの教団は歪んでるんだよぉ」


 みつは、長机に頬を押し当てるように寝そべっていた。色々考えてはいるようだが、色々面倒くさいようだ。


 それよりも。

 巫女が、ののかの事だとしたら。

 神の狐というのが、ののかに憑いていた狐だとしたら。

 それは、確かに歪んでると思う。あの日事務所に来たののかが、喜んでこの教団に貢献してるとは思えない。狐に悪い事をしてほしくないと、誰も傷つけてほしくないと泣いていたのだ。

 ここの信者は確かに狐のおかげで幸せになったかもしれない。でも、その影で負わなくて良い不幸を負った人だっているはずなのだ。狐のもたらす幸せとは、そいういうものだと私は知ってしまった。ののかも、それとは知らずとも理解していたから、泣いていたのだと思う。

 そうでなくても、未成年を家にも帰さず、誘拐監禁するなんて、許せない。




 私が一人で決意を新たにしていると、携帯のバイブレーションが鳴った。ちゃんと、公共の場ではマナーモードにしているのだ。

 携帯を取り出すと、柿森さんからメールが来ていた。柿森さんは新しい物が大好きで、携帯も新機種が出るとすぐ手を出すほどだ。私の携帯の仕様も実は柿森さんに教えてもらった。

 そのハイテク柿森さんからのメールには一言、


『遅れる』


 とだけ書いてあった。みつに、文面を見せると、眉を寄せた。


「まぁた、あの人何かたくらんでるね~」

「企んでると思いますよ。だって、僕に危ない橋渡らせて、顧客リスト手に入れましたからね」

「えっ」


 犯罪まがいの事も、さらりとやってのける嶺川と、それをさらりと指示した柿森さん、やっぱり、なんというか、すごい人達である。私の驚いたような顔を、面白そうに見ている嶺川は、やっぱり住んでいた世界が違うのだなあと、何となく思った。


「じゃあ、柿森さんが遅れるのは良いとして、枝野さんはどうやって来るのかなー」


 また、携帯からメールを知らせる震えがきた。開いてみると、枝野さんからだった。なんとタイミングの良い。ちなみに、枝野さんとフジさんとは、フジさん襲撃事件があったあの日に、連絡をとれるように携帯のメールアドレスを交換した。みつが携帯を持たないから、仕方ないのよね。


『かっきーが遅れるようだね。私は、逆に早く行く事になりそうだよ。騒がしくなると思うから、上手く使ってくれ』


 また、みつに見せる。柿森さんは一言メールが多いが、枝野さんはわりと文章でメールが来る。性格の違いって面白いと思う。


「枝野さんは早いのかー。じゃあ、枝野さんの言う騒がしくなるときに、パパッと頭潰そうか」


 みつは何でもない顔をして、とんでもない事を言う。いつもの事だが。


「教主はたまに出てきますけど、巫女はほとんど表に出てきませんよ? できますか」


 嶺川が、面白そうに笑いながらも、疑問を聞いてくる。みつは、机から顔をあげ、ふふんと笑った。


「出て来ないのは、神秘さもあるだろうけど、やましいからだよ。疚しい事がある人間は、見えないところにソレを隠そうとする。でもそれは、一度忍び込んでしまえば見つからないということでもある。この施設の、一番奥の部屋はどこかわかる?」


 みつの自信満々の言葉に、嶺川はちょっと考えた後、思い当たる節があったようだ。


「ああ、だったら奥の院ですね。本尊を安置してるとかで、教主しか入れない事になってるんです」

「じゃあソコだ。間違いない」

「でも、そこに行くには、鍵の掛かった狭い渡り廊下を抜けないといけないそうなんです。僕も一回忍び込もうとしたんですけど、誰かしら見てるんですよねえ。経理の金庫のほうがまだ簡単だったなあ」


 言ってる事もやってる事も危ない、この人。みつも、一瞬うわぁ、という顔をしたが、気を取り直したように、嶺川に聞いた。


「じゃあ、もし騒ぎが起きて、表に人が集まったら、そこには何人くらい残ると思う?」

「うーん、断定できませんけど、一人、二人ぐらいかなあ。教主はわりと表舞台に立ちたがるから、何かあったら出ていくと思うし。そんなときに残るのは、大体決まってる人なんですよ」

「そうなの? 強い?」

「一人は普通ですけど、もう一人は柔道の有段者とかで、恐ろしく強そうですよ」


 笑いながら、嶺川はつけたした。


「まあ、オーナーの友達のフジさんだったら勝てるんじゃないですかね」


 そういう認識なんだな、フジさん。しかし、柿森さんの所のいち従業員である彼ですらフジさんを知っている事に驚いた。私は知らなかった。


「フジさんより強くないなら、方法はあるよ。あの人、金縛り効かないしね」


 みつが思い出したように苦笑していた。金縛りって、あの寝てるときになるやつじゃないのだろうか。多分、違うんだろうな。


「まあ、不破さんがやるっていうなら、案内しますよ。オーナーから、不破さんに協力するように言われてるので」


 嶺川が、苦笑混じりに言うと、みつはちょと嫌な顔をして、


「知らないところで助け舟出してるのが、ほんと気に食わないんだよね、あの人」


 そんな事をボソッと呟いた。嶺川は聞こえたのか聞こえなかったのかわからないが、苦笑したまま私達を見ていた。



新キャラ登場。彼はもし次回出てくることがあっても違う名前になりますw

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