相談
みつの言葉を信用し、来たときと逆の順番で道を曲ると、何時の間にか依頼人の家の前に来ていた。本当に紙一重なのが残念になるわ、みつ。
依頼人の家を見ながら、みつは困ったように首をかしげた。
「さて、依頼人、高山さんだっけ? にはなんて言おうか~。あなたの奥さんが会ってるのは、悪いモノじゃないから、そっとしておきなさいとか?」
「そんなんじゃ、あの人は信じないわ」
すぐ後ろから、あの奥さんの声がした。驚いた、全く気配を感じなかった。気を抜いていた私は驚いてバッと後ろを振り返ったが、みつは「だよねぇ~」と言いつつ、余裕で奥さんを振り返った。
「でも、どうするの? か弱い弟君を心配する優しい姉としては、会わないわけにもいかないんでしょう」
「そうなのよ。玉葉ってば、あんな性格だから仲間にもなかなかうち解けられなくてね。心配でしょうがないのよ」
狐の世界でも、人間と同じような事が起こっているらしい。気の弱い子がなかなか馴染めないのは、どこの世界でも同じだという事なのだろうか。世知辛い。
ところで、さっき気づいたのだが奥さん、みつは見ているのだが、私を、見ていない。みつと話しているから、というのもあるだろうが、私を全く意識していないようだ。見えてない、ともとれる。みつがそういう風にしているのだろうか。なら私は気づかれないよう、静かにしている方が良さそうだ。みつは、奥さんを危険だと思っているのかもしれない。
「でも、もう夜に会うわけにはいかないでしょう。惚れ抜いて一緒になった男を、手放すつもり?」
「あの人から離れるつもりはないわ。……ねえ、あなた。玉葉をどうにかして此方に連れて来られないかしら? あなた何かしら知ってそうだけれど」
「ありゃりゃ~。買いかぶられたもんだね~。私だって、存在の弱い妖怪をこっちに連れて来た事なんてないよ。お帰り願った事は数多あっても」
「そう、よね……」
「案外、やってみたら大丈夫かもよ?」
みつの気楽な言葉に、奥さんがきっと睨んだ。やっぱりこの人、怖い。
「勝手な事言わないで。玉葉は駄目なのよ。あの子は体が弱い上に、もう既に気狐なの。だから、長く此方に霊体だけで留まれないのよ」
「じゃあ、奥さんより位は上なわけだ。奥さん、どうみても野狐だし」
「そんな事今はどうでもいいでしょっ。できるの? できないの?」
奥さんが怖い顔でみつを睨んでも、みつはどこ吹く風でぜんぜんこたえていない。私はビビッて奥さんの顔を見られなくなってきているのに、みつの精神力はどうなっているんだろうか。純粋に尊敬した。
「っていうかさ、奥さん。あなた、あの旦那より遙かに長生きすんだから、旦那が死んだら弟のもとに戻ればいいだけの話しじゃないの?」
みつの言葉に、奥さんはふんっと鼻を鳴らした。
「そうはいかないわ。私、あの人に嫁ぐ時、天帝に誓いを立てたのよ。あの人が死ぬ時、それが私の死ぬ時だって。そうしたら、あの人と同じ輪廻の輪に入れるから」
「うっそ!」
奥さんの言葉に、みつは目を見開いて大げさに驚いた。
「な、何でそんな事までして……。あの依頼人、そんなに良い人だったかなぁ」
「どうせあなたには、人間にはわからないわ。とにかく、そういう事で玉葉にはもうあまり会えないの。人の時間って短いから。会えるうちに会っておきたかったけど……。でもそういう事なら仕方ないわね。別の方法を考え……」
「待った!」
みつが右手をばっと広げて、奥さんを制した。奥さんは、えっといった風にみつを振り返った。
「そういう事なら、いいでしょう、あなた達に協力しましょ。第一、気狐なんて位の狐なんて、滅多に知り合いになれないんだから……ふふふ」
みつの言葉に、奥さんは胡散臭そうにしていたが、みつが、明後日に事務所を訪ねるように言うと、とりあえず頷き、家の中へと入っていった。
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薫はみつに、声を出さないと認識されないとかそんな術をかけられてる系。




