朝風
土曜日。
問題の朝が来た。
休日出勤をするのだから、手当ては弾んでもらわないと。ね、山田さん。
「ふぅあ~あ。バスが朝しか出てないってひどいよ~」
山田さん、もといみつは大きなあくびをしていた。
「用意はできた、山田さん。バスが出てしまうわよ」
「はぁ~い、か、鈴木さぁん」
眠たそうで危なっかしいが、大丈夫だろうか。
みつは、事務所を出る前にどこかに電話をかけていたが、みつに言われたものを用意していたので、どこにかけていたのかはわからなかった。
昨日電話した三間がちゃんと取り次いでくれたらしく、私達は不幸続きで自殺も考えている友人二人、という設定で本部に行けることになった。
ちょっと汚いと思うが、みつがいくらか握らせたらしい。三間と、取り次いでくれた人に。月曜日助けたおじさんが結構な額を貢いでいたという所から発想を得たらしい。
約束の昼には早いが、まあ遅れるより良いか。柿森さんには伝言しておいたし。
で、今は二人で本部に向かうシャトルバスを待つ場所にいるのだが……、
「まぁ~、お宅もそうなのぉ」
「そうなのよー。おほほほ」
「最近、身体の調子が良くて、お布施をもうちょっと増やそうかと考えてまして」
「それは素晴らしい。私も早く禰宜の位に行きたいものですなあ」
街中の大きめのホテルの裏手に集まったのは、社会的地位と比例してお金を持っているであろう、おじさまおばさまばかりだった。お布施自慢とか、幸運自慢とか、そういうくだらない話ばかりしている。
ホテルの裏側や駐車場をバスが発着してたのは知ってたが、まさかこんな人達を乗せたバスまで発着してたなんて、知らなかった。知らなくてよかったのに。
「おたくは、初めて見る顔ね」
一人のおばさんが話しかけてきた。みつが目で制したので、会話はみつにまかせ、私は俯いていることにした。
「ええ、今日が初めてなんで、ドキドキしてるんです。でも、絶対行ったほうが良いからって」
「まあ、初めて! そうよね、初めての時ってドキドキして緊張するわよね。でも大丈夫よ、ここの教主様と巫女様のお力は本物だから」
「へえ、そうなんですか。だいたいの事は聞いたんですけど、教主様と巫女様っていうのは?」
「この教えを広め始めた教主様と、お力の源でもある神の狐と唯一お心を通わせることができる巫女様ですよ。巫女様が入ってから、お力はぐっと強まって信者にも幸運が広まったんです」
嬉々としておばさんが話しているうちに、シャトルバスが来た。市街地で走ってる普通のバスより小さめだが、中は豪華だった。ふかふかの大きめシート、余裕のある座席。まさに、特定の集団を運ぶためのバスだった。
そして、そんなバスに揺られて一時間。正直、柿森さんの車より座り心地が良かった。おかげで、横でみつが爆睡している。
「あなたのお連れさん、よっぽど疲れてたのねえ。そんなに眠って」
「そ、そうなんです、彼女ずっと悩んでたから、ようやく解放される安心で眠ってしまったみたい」
必死に取り繕う。私とみつは友達で、偶然お互いの不幸を知ったから、一緒に本部に良く、という設定になっている。
「まあ、そんなに辛い経験をしたのねえ」
おばさんは、好奇心で目がらんらんとしている。正直、こういった手合いは苦手だ。人の、過去や現在や不幸や幸運や、そんなの、どうでも良いじゃないか。ほっといてくれないかな。
私は下を向き、それ以上絡まれないように、みつを真似して目を閉じた。
眠れはしなかった。でも嫌な事を思い出した。ハッキリとは思い出せない嫌な記憶。そんなの、そんなもの、どうだって良いじゃないか。聞かないで、問いたださないで、答えられないから。覚えて、いないから。
バスは安全運転で、山の中を進んでいく。
色々な人の思惑を乗せて。
薫の独り言炸裂回。




