土曜日への準備
フジさんの所から帰る為に、また枝野さんの車で送ってもらった。
「枝野さん、土曜日は非番?」
みつが、後部座席から枝野さんに聞く。もちろん、言外にあの宗教施設に……襲撃?他に言葉が思いつかないから、襲撃で良いか、に行く時の足になって欲しいと言っているのだ。
「すまないね、土曜日は勤務でね。だからこそ、できる事もあると思うんだよ」
バックミラー越しに見た枝野さんは、笑っていた。過激な一派だ。もちろん私を除いて。
「そっかー」
対して残念そうでもなく、みつが言った。それで、枝野さんはおやっと思ったようだ。
「不破さん達は、どうやって行くつもりかね?」
「ん? そうだねえ、とりあえずは、一般人を装っていこうかなと思ってるよ」
「一般人?」
「そう。あの新興宗教に入りたくて、紹介された一般人」
「そんな事ができるのかね」
「できるよー。つても考えてあるし、うふふふふ」
みつの気味悪い笑いに、枝野さんは苦笑して問うのをやめた。みつならば、何とかするだろうと思っているのだろう。実際、みつにはアテがあった。そう、あのブレスレットを持っていた、三間だったか、あの女性だ。割と上のほうに可愛がられているらしいので、いけると思う。
「じゃあ、私が言うのも変だが、気をつけて」
「うん、枝野さんもねー。それじゃあ、土曜日に」
「ああ、土曜日に」
枝野さんとみつは不敵な笑みを浮かべて、別れた。枝野さんの車が去って行く後姿は、何だか意気揚々として見えた。
事務所に戻ったみつは、ウキウキと自分の書棚の前に行って、何かを探していた。捜している合間に、
「かおちゃん、あのブレスレットの人と連絡つけておいてー。話すのは私がするしー」
そう言われた。
みつの中では、既に名前さえ出てこないぐらいの存在なのに、瞬時に思い出せたのはやっぱり凄いと思う。余計な事は言わず、はいはいと三間の連絡先を捜す。
この事務所は、特殊な事を扱い消滅させたりするので、恨みをかう可能性も高い。仲間が居たら報復も考えられる。少し頭がつかえるなら、依頼人に扮して私達を害する者もあらわれるかもしれない。だから、私達は依頼人の氏名と住所を紙に書いてもらうようにしている。普通の事だ。その辺のスーパーのカードに入会しようと思っても簡単にする行為だ。だが、これは、使えるものが使えば、恐ろしいものになる、らしい。みつがそう言っていた。
だから、名前を書くのを嫌がったりするとおおいに妖しい。しかもこの事務所、悪趣味にも名前を偽れないような呪術が施されているというのだ。私は偽名を名乗る必要がないから感じた事ないが、ここに来た人は誰一人、偽名や嘘を書いていない。そう、人であろうと、妖しであろうと
そんな事を思い出しながら依頼人帳を捜していると、三間の字が見えた。細い、神経質そうな文字だ。電話番号は、携帯電話だった。丁度良い、今だったら会社も昼休み時間だろうし、やましい事がなければ出てくれるだろう。
そう判断し、三間の番号に電話をかけた。
きっちり、十コール目。
「……あの、もしもし」
この細い声は、三間に違いないと思う。出てくれてよかった。まあ、出るまで鳴らすつもりだったけど。そういった忍耐力は、みつでさんざんついた。
「こんにちは。私、以前お会いしました、不破探偵事務所の神凪と申しますが」
「ひっ。あ、あの、何か」
名前を名乗って悲鳴を上げられたのは、はじめてだ。ちょっと、ショックを受けたが、もともとの用事を思い出す。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。どうしても、うちの先生が貴女とお話がしたいとおっしゃってまして」
「なっ、何も、話す事はありませんっ」
「あ、ちょっと」
驚きすぎ、動揺しすぎだろう、三間。電話を切られそうになった、その時、
「話しちゃっても、いーのかなー」
私の電話の雲行きが怪しくなったのを察したのだろう、書棚を捜していたみつが、いつの間にか近くにいた。ジェスチャーで、電話を変わってといってきたので、素直に受話器を渡す。
「そんなぞんざいな扱いして、良いと思ってるー? あなたがやったこと、あなたのユウジンと会社に教えても良いんだよー? 知ってるしー。え? 何で知ってるって、知らないと思ってたの?」
みつは、本当に自覚なく人を煽っていくなあ。いや、自覚しているのか。頭の良いみつのことなら、計算づくかもしれないな。余計たちが悪い。
「素直にお願い聞いてくれたら嬉しいなぁ。別に、あなたにも会社にも興味ないし。うん、で、お願いなんだけど、神孤会の本部にツテあるよね? 私達、そこにどうしても行かないといけなくなっちゃって、だから、本部に入る手伝いして欲しいの」
電話口の向こうからでも、戸惑ってる気配が伝わってくる。みつは、相変わらずニヤニヤしている。
「そうそう、私達を本部に入れてくれるだけでいいの。あー、出来たら、不運が続いて死にそうだから、巫女様に直接ご祈祷を是非お願いしたい、ぐらいまで言って通じたら嬉しいかなー。あそう、無理? じゃあいいや。とりあえずその人に言って、中に入れてよ」
みつの上からというか何様言葉に、三間は呑まれてしまっているようだ。まもなく、承諾してしまうだろう。
「うん、それだけでいいよ。ああ、あとさー、あの山奥までみんなどうやって移動してんの? へー、信者専用のシャトルバスがでてるの。それどこから? ふんふん、それさ、山田と鈴木で乗ることって出来る? へー、じゃあ、お願い、ネ」
みつが、上機嫌で受話器を置いた。
「かおちゃん、山田と鈴木、どっちが良い?」
頭が痛くなると同時に、三間に同情を覚えたのも事実だった。
タイトルの通り、準備回、そして三間不運回w




