金曜日
この一週間、依頼人が毎日来た。
昨日のののかの両親を除けば、すべて狐繋がりだ。
何だか、気持ち悪い偶然を感じる。一体、何が起こってるんだろうか。ののかは、無事だろうか。昨日、試しにみつが占いのような物をやっていたが、結果はさっぱりだったそうだ。
私の憂鬱さを反映するように、曇り空は黒さを増し、今にも雨が降りそうだった。
プルルルル、プルルル…
と、突然、電話が鳴った。
私が朝出てきてすぐに鳴る電話に、デジャビュを覚える。柿森さんだろうか。みつを起こさないと。そう思いながら、受話器を取った。
「はい、不破探偵事務所です」
「おっ、神凪さんか。みつはいるか? 至急の用事なんだ」
やっぱり、柿森さんだった。いつもの声音ではない、珍しく焦ったような声。一体、何があったんだろう。
「起こして折り返させるので、お待ちください」
「ああ、フジの所が襲撃を受けたといえば、すぐに飛び起きると思うよ。頼む」
え、フジって、あの、みつが敬愛してやまない、フジさん? っていうか、襲撃って何?!
何かわからないが一大事だ、と、柿森さんとの電話を切ると、みつの子機に内線をかける。
プルルルル、プルルルルル。
いつもより、みつが出るまで長く感じる。
プルルルル、プルルルルル。
ああ、じれったい、
プルルルル、プルルルルル、プル…ガチャッ。
やっとみつが電話を取ったは、十五コール目だった。いつもより早くとっているのに、いつもより長く感じた。
「ぁい…」
「みつ大変よ! フジさんが襲撃を受けたって、柿森さんが連絡を……」
ゴン!!
全部言い切ってないのに、電話口の向こうで、盛大に何かが落ちてぶつかる音がした。
「いたい! か、かおちゃんそれホント?! いててて」
やっぱり、みつがベットから落ちた音だったらしい。慌てるにもほどがある。
「い、今すぐ事務所に行くよ!」
痛さにもだえながらも、急いで事務所に下りる準備をしているらしい。ピッと通話が切れる音。
みつの部屋には、電話は子機しかない。子機は外からの電話が鳴らないかわりに、外に電話する事もできない。完全に、事務所にかかってきた電話を私がとりつぐ……いや完全にみつの目覚ましでしかない。
だから、柿森さんに詳しく事情を聞くためには事務所に来ないといけないので、慌てて今準備をしているのだろう。
と、思ったら、廊下からダダダッと階段を駆け下りる足音がした。
やればできるんじゃないか、みつ。
あと数秒で開くであろう扉を見つめ、その時を待っていた。
「か、かおちゃん! 電話」
バッと扉を開けたみつの目の下には隈、ツインテールは高さがばらばらで、梳かしきれていない。寝起き。完璧なる寝起き。みつにしては確かに異例の速さだったが、厳しかったか。
「はい、先生。もう柿森さんに繋いでありますよ」
柿森さんの事務所に電話をし、既に受話器の向こうには柿森さんが居る。その状態で、受話器を渡すと、みつはありがと、と言ってそれを受け取った。我ながら、完璧なアシストだわ。
みつは、受話器の向こうの柿森さんと話していくうちに、だんだん顔が険しくなっていた。
みつが来る前に少しだけ、柿森さんに事情を聞くことが出来た。
フジさんは、おあるお寺で住職をしており、親切で親身に悩みを聞いてくれると評判のお坊さんらしい。以前聞いたように、柿森さんと警察官の枝野さんの友達だ。フジというのはある意味あだ名で、本名は大藤 孝純というらしい。あいうえお順の席順で仲良くなったとどうでも良い情報ももらった。
そのフジさんのお寺が、昨晩未明、何者かに押し入られたそうだ。フジさんも気をつけていたが、複数の人間だった為防ぎきれず、奥さんが通報した警察が来るまでに何かしら壊されたりしたそうだ。……というか、複数対一人で何とかしようと思ったのか、フジさん。常識人だと思っていたが、これはもしかするとみつ系の人間なのかしら。
とりあえず、電話が終わったみつは、事務所にある大きめの鏡の前で、自分のツインテールを結びなおしていた。
みつは、本気で怒ると口数が少なくなる。変わりに、手や足が出る。今は、本気一歩手前という所だろうか。
「みつ、どうするの?」
「フジさんの所に行って、痕跡探して、痛い目に合わす。絶対あわす」
おや、鏡越しに瞳孔が開き一歩手前どころかマジギレしているみつの顔が見える。犯人達は遠からず痛い目にあうだろう。ご愁傷様である。
フジさんのお寺は隣町にあるらしく、徒歩で行くには遠すぎ、隣町の駅からもだいぶ遠いらしい。バスも変な乗り換えをしないといけない所らしく、まあ、要するに辺鄙な所なのだそうだ。
さて、タクシーを呼んでもいいが、だいぶお金が掛かりそうだと思っていたら、柿森さんが気を利かせて、なんと非番の枝野さんをうちの事務所によこしてくれた。
刑事さんの非番なんて貴重な時間を割いてもらってもよかったのだろうか。
「やあ。久しぶりだね、お嬢さん方。元気だったかな」
枝野さんは目じりに皺を作って、柔らかく微笑んでいた。あの後から、枝野さんの雰囲気が辛くなさそうなのが、救いだ。
「元気だよー。それより、フジさんの所が大変なんでしょ?」
「そうなんだよ。でも、警察はあまり大きな事件とは考えていなくてね、腰が重いみたいなんだ」
「ダイジョウブ、私見つける」
気がせいているのか、変な片言みたいになったみつを、枝野さんはおかしそうに見ていた。
「それじゃあ、一緒に見舞いに行こうか。神凪さんも行くだろう」
「え、ええ。でも良いんですか、枝野さん。せっかくの非番なのに」
「良いんだよ。僕は、いや僕達は、君たちが思う以上に、君たちに感謝しているんだ」
僕達、と複数形になったのは、奥さんと、お子さんも入っているのだろうか。
しかし、まあ、そこまで言っていただけるのなら、お言葉に甘えようか。私は何も出来なかったけれど。あれは、ほとんどカエデ人形の功績だ。そしてそこから立ち直れたのは、他でもない枝野さん達自身の強さだ。
「かおちゃーん、何してるのー」
みつの言葉で、ふと我に返る。自分が思っていたより深く考え事をしていたようだ。
「あ、今いきます」
みつは、既に枝野さんの愛車の後部座席の扉を開けて待っていた。相変わらず、自分から動く時だけは行動が素早い。
枝野さんの運転でフジさんのお寺に向かう途中で、枝野さんと柿森さんとフジさんの子供時代の話しを幾つか聞いた。
出席番号順で初めて会った時の事、奇跡の三年間三人共に同じクラス、そして、進路が分かたれてからの事。まあ、フジさんは修行に山に入っていたので実際大人になってからはあまり会う事は無くなっていたらしい。そんな取りとめのない話を、主にみつがせがんで聞かせてもらっているうちに、フジさんのお寺に着いたようだ。
フジさんのお寺は、住宅地から少し離れ、田んぼや畑がまばらにある地の少し丘になっているところに立てられていた。丘の後ろは森で、鬱蒼としていた。
ここは、さぞや地元の小学生達にとって格好の肝試し場所になるだろう、と思える場所だった。だが、嫌な感じや寂しい感じはしない。それが少し不思議だった。
お寺の正面にある駐車場に枝野さんが車を止める。
みつが、勢いよくドアを開け、本堂に向かった。よっぽど気が急いているようだ。枝野さんと顔を見合わせて、苦笑したのは言うまでも無い。
フジさんのお寺の本堂は、こじんまりしていた。そんなに大きなお寺ではないし、観光に来るようなところでもない。本当に、地元に根ざしたお寺のようだ。
「フジさーん!」
みつが本堂から大きな声で呼びかける。
シーン。
何処に居るのだろう、と、キョロキョロしていると、左後ろの方から声が聞こえた。
「その声は、みつか。久しぶりだな」
ハッと振り返ると、そこには、
「あ、フジさん! 無事でよかった! 怪我はない? 柿森さんから聞いて来たよ!」
紺色の作務衣を来た、大柄のお坊さんが立っていた。あの人が、フジさん。
「よう、元気そうだな、フジ」
「やあ、枝野。みつも枝野も、わざわざ来てくれたのか、ありがとう。心配かけたな。おや、そちらのお嬢さんは?」
目が合ったので、会釈をする。フジさんにまとわりついているみつが、答えた。
「かおちゃんだよー。私の事務所の、助手をしてもらってるのー。かおちゃん、この人がフジさんだよー」
「ほう、それは凄いな」
嬉しそうに言うみつを見て、私を見た。そして、私の方に近づいてきた。穏やかそうな、良いお坊さんだ。
「はじめまして。私は孝純と申します。ここの住職をしております。みつがお世話になっているようで。宜しくお願いします」
「あ、はじめまして。神凪 薫です。こちらこそ、宜しくお願いします」
フジさん、というのはお坊さんになる前の愛称らしい。
頭を下げられて、慌てて頭を下げ返す。うんうん、常識人のようで、よかった。
「珍しいお名前ですね。どんな漢字を書くのですか?」
面白そうに微笑むフジさん。私も、フジさんって呼んでいいのだろうか。
「神棚の神に、海が凪ぐの凪です」
「良いお名前ですね。神が凪ぐで、かんなぎ」
「フジさーん、それより襲撃の痕跡残ってる??」
みつが、あからさまに会話に割り込んできた。あらあら、フジさんを取られたとでも思ってるのか。
「あ、ああ。残ってると思うよ。家内には片付けないでとっておくように言ってあるから」
「そっか、よかった! 見つけてぶちのめすね!」
「おいおい…」
ぐっと右手を握り意気揚々と言うみつに、フジさんが苦笑している。
こんなに張り切ったみつを見るのは久しぶりだな。狐関係では、全くやる気というものを見せなかったのに。
本堂は無事そうだと思ったら、やっぱり別の所を破壊されたらしい。フジさんの案内で向かったのは、本堂の横にある小さな塔だった。三重ぐらい? 数え方が良くわからないけど、塔だった。観光地にあるものよりミニマムで、むしろ人は入れないんじゃないかと思われた。
その塔に続く石畳、その横にある石灯篭が、砕けている。
四対、本堂からの道を照らすように置かれているが、そのうちの塔に近い三つが、壊れ居ていた。上部が砕けているもの、押し倒されたように転がっているもの、ここで乱闘があったのだろうと想像させる、現場だった。
もちろん、警察によって黄色いあの立ち入り禁止のテープが張り巡らされている。
「派手にやったねえ」
枝野さんが、何の緊張感もなく感想を言った。
「三人いてねえ。逃がしてしまったよ。やっぱり衰えてるんだと思うと、悲しくなるよ」
それを受けて、フジさんが何でもない事のように言った。
さ、三人?! 三人相手にして、この人怪我一つ負ってないの?
みつはみつで、黄色いテープを無視して塔に向かうし、何この……フリーダム空間。
私が一人で唖然としているのに気づいた枝野さんが、苦笑した。
「ああ、神凪さんは、知らないんだったね。フジはこの体格だろう。高校卒業まで柔道で日本一を取りつづけた男なんだよ。たしか、お山も僧兵かなんかをずっと受け継いできた所なんだろう。武闘派坊主なんだ」
「そんな事ないよ。私はいつだって言葉での和平を望んでいるよ」
言葉での平和(物理)?
「不破さん、何かわかりそうかね。一応事件の現場だから、極力物を動かさないで欲しいんだが」
枝野さんが、黄色いテープの向こう側に行ってしまったみつに呼びかけた。私達三人は、もちろん黄色いテープの外側にいる。
みつは振り返り、
「そんなヘマしないよー。それより、警察が来るまでどれぐらい余裕があるかなー」
そう、逆に問い返した。言われて見れば、昨夜、まあ強盗か、があったにしては、警察の人が居ない。こういう事件現場って、常に警察の人が居るんだと思っていたのだが。
「そうだなあ。今は署に戻って捜査方針を決めている頃だから、もうちょっと余裕があるんじゃないか」
「一通り事情聴取が終わったから、昼過ぎぐらいにまた来ると言っていたよ」
枝野さんの推察を受け、フジさんが思い出したように言った。それを聞いたみつは、テープの外にいる私達からでもわかるように、口の端を歪めた。
「時間があるなら、いくらでもやりようがあるね」
みつはそう言うと、嬉々として石灯篭や石畳の上で屈んで、ポケットに入れてきたのだろう、あの磁石と幾何学模様と漢字が書かれた板を熱心に見比べはじめた。
もう、私達の声に反応しないだろう。
三人共に意見が一致したらしい。同時に顔を見合わせていた。
そして、それに気づいて三人同時に苦笑した。
「長引きそうだから、お茶でも煎れよう。どうぞ、庫裏のほうへ」
フジさんが、気をきかせて私達を、本堂と繋がっているが別の建物のほうへ案内してくれた。お寺では、お坊さん達が生活する母屋みたいな所を、庫裏というらしい。その応接間に通されて、高そうな器に入ったお茶を出してもらった。お茶を出してくれた女性は、奥さんだそうだ。しっかり者の、綺麗な奥さんだった。
「しかし、不思議だねえ」
お茶を、背を丸めてすすりながら、枝野さんがぼそりと呟いた。
「何がだい」
「縁がさ。私はフジと友達だが不破さんを知らず、フジは不破さんと知り合いだが神凪さんを知らず、神凪さんは不破さんの所で働いているがフジを知らず、微妙にずれていたが今こうやって一緒にお茶を飲んでいる。不思議だねえ」
枝野さんはふふっと笑っていた。フジさんも、微笑んでいる。私も、知らず知らず笑っているようだった。
「遅れたな!」
と、そんなまったりした空間を壊す、音が響いた。
応接間の扉を、バンっと開いて勢いよく現れたのは、いつも通りオールバックで高そうなスーツを着た、柿森さんだった。仕事中らしい。
「かっきー。遅かったな」
勢い良く現れた柿森さんにも動じず、枝野さんが右手を上げた。フジさんは苦笑している。
「ああ、朝一で依頼が入ってな、それの指示をしてたら遅くなった。まあ、無事だとは思ってたが、無事そうでよかったよかった」
はっはっはと笑いながら、柿森さんは勝手に私達が座っているソファーの一角に座った。学生時代からこんな関係だったのだろう、二人は驚く事も怒る事もなく、笑っていた。
そして、コの字型に置かれたソファーの端に座っていた私を見つけると、柿森さんはニッと笑った。
「やあ、神凪さん。キミ達からまわしてもらった依頼人の依頼は、ちゃんと引き受けたから、安心してくれ。今人を使って聞き込みをさせてるから、しばらくしたらなんらかの進展があると思うよ」
「本当ですか。良かったです、私達では何の力にもなれないので……」
「そういえば、みつ坊はどうしたんだい?」
そこで初めて気づいたように、柿森さんがキョロキョロした。と、そこに柿森さん用のお茶をいれて、奥さんが入ってきた。
「みっちゃんなら、塔の所で何かしてましたよ。はいどうぞ」
「いやはや、これはお気を使わせてしまって」
「いいえ。ごゆっくり」
フジさんの奥さんは、にっこり笑って応接室を出て行った。みつ柿森さん共に面識があるらしい。当たり前か。友人なら結婚式にも出るだろうし、みつはあの通りフジさんに懐いているし。
「みつ坊は、何か見つけられそうかい?」
「さあ、どうだろう。あんまり素人には思えなかったんだよなあ」
柿森さんがフジさんに聞くと、フジさんは思い出すように首をひねった。
「私も、何も見えなかったねぇ」
枝野さんが、さっきの姿勢のままお茶を啜りながら言った。枝野さん、姿勢悪すぎじゃないか。
私がそんなどうでも良い事を考えていると、また、扉がバンっと開いた。あの扉、大丈夫かな。蝶番とか壊れてないかな。
「わかったよ!」
勢い良く入ってきたのは、やっぱりみつだった。膝と腕に土っぽいものがついているが、全く気にしてないようだ。つかつかと私達が座っているソファーまで来て、はじめて柿森さんがいるのに気づいたようだった。一瞬で顔が嫌そうに歪む。それを見て、柿森さんが面白そうに笑った。
「柿森さん、来てたんですか…」
「そりゃあ、親友の一大事だからね。それより、何か見つかったんだろう?」
みつは頷きながらも、ソファーの端私の横に座った。フジさんの横じゃなくて良いの?
「だいたいの方角がわかったよ。大きめの地図ってある?」
みつがフジさんに聞くと、フジさんは少し考えていたが、
「あるよ。持ってくるから、待っててくれ」
そう言って、応接間を出て行った。
微妙な沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、枝野さんだった。枝野さん、空気の読める人だ。
「さっきね、フジと神凪さんには言ったんだけど、微妙にお互いを知らない三人が集まったのが不思議だって思ってたんだ。でも、不破さんとかっきーはみんなを知っているだったね」
お茶を飲み干した柿森さんが、さも当然といった風に鼻を鳴らした。
「当たり前だろう。色々紹介したのは、俺だぞ」
そう言って、私とみつの方をチラリと見た。みつは面白くなさそうに頬を膨らませてそっぽを向いた。それを見て、また柿森さんはおかしそうに吹き出していた。わけがわからない私と枝野さんが顔を見合わせたところで、ガチャリと扉を開け、フジさんが戻ってきた。
「みつ、あったぞ。どうした?」
「なんでもなーい。それより、地図かしてー」
ちょっと様子のおかしいみつと、面白そうに笑っている柿森さんを見比べて、だいたいの所は察したらしい。苦笑しながら、みつに地図を渡した。と、同時に、一緒に持ってきていたみつ用の茶を渡す。
ありがとう、と受け取ったみつは、もう大きめの地図を広げて、板と見比べていた。
その集中の早さに、邪魔しないようにフジさんは静かに自分の席に戻った。
あーでもない、こーでもないと呟くみつを見ながら、おじさん(失礼か)達は談笑していた。私も時折会話に混ぜてもらう。本当に、みんな大人だ。みつがより子供じみて感じる。
と、そんな時、柿森さんのポケットから、ヴーヴーというマナーモードの音がした。失礼、と断って、柿森さんが外に出て行く。
柿森さんが出て、もう五分は経った。結構長い事話しているが、大丈夫なのだろうか。そもそも、柿森さんは所長としても忙しいはず。ここにきたのだって、色々やりくりして来ているはずだ。そろそろお暇する時間だろう。
「あ、多分この辺だ」
みつが、突然声を上げた。大きめの、この辺り一帯を描いている地図を見ている時だった。
「どこだい? って、ここ山の中じゃないか」
枝野さんとフジさん、私も、みつが指差した先をまじまじと見る。本当に、山の中腹あたり、何もなさそうな所だった。
「本当にここなの? 何かの間違いじゃあ」
「此処だもん。見えないか、最近できた家か建物があるはずだもん、ここに帰ってるって指し示してるんだから」
私とみつが言い合いをしていると、いつの間にか柿森さんが帰ってきていた。
「おいおい、そこは……こりゃあ、気味悪いなあ」
立ったまま、みつの指差す先を覗き込むようにして見ていた柿森さんが、顎髭を撫でつけながら、呟いた。
「何か、心当たりがあるんですか?」
振り仰いで聞いてみると、柿森さんは少し悪戯っぽい顔をした。
「ああ。キミにもあるはずだよ、つい最近訪れたばっかりなんだからね」
こんな山奥に行った記憶なんて、あの宗教施設ぐらいしか……え。
「思い出したみたいだね。そうだよ、その辺りは、あの神狐会の本部の敷地のはずだ。潜入するときに念入りに調べたから、間違いないよ」
面白そうに言う柿森さんから、更に衝撃的な一言が、発せられる。
「それに、小野って女の子が見つかったよ。その宗教施設で、巫女として崇められている女の子が、彼女に間違いないそうだ」
「えっ」
みつが、思わずと言った風に柿森さんを振り仰いだ。私は、もう、声すらでない。
事情がわからない二人は、顔を見合わせていた。
「なんか、全部、その神孤会に繋がっているのね……」
私が呆然と呟くと、みつは顔をしかめて嫌そうな顔をしていた。柿森さんも、考えこんでいるようで、渋い顔になっている。
「はて、神孤会。どっかで聞いた事があるなあ」
私達の会話を聞いて、枝野さんが首を傾げる。
「新興宗教らしいですよ。警察のお世話になるような、危ないところなんですか?」
私が心配そうに聞くものだから、枝野さんは苦笑して手を振った。
「いやいや、それだったらもうとっくにニュースや何やらになってるだろう。多分、何かの話しのネタとして聞いたんだろう。でも、もしフジの所を襲撃したのがそいつらだったら、取れる手はいくつかあるねえ」
枝野さんも、ニヤリと笑う。あ、この三人いやみつを入れて四人か、多分同類だ。常識度が違うだけで、同類なんだわ。
「これは、ちょっとキツイお灸を据える必要がありそうだ」
柿森さんが、ケータイを取り出しながら立ち上がり言う。
「そうだね。ちょっと火遊びが過ぎたね」
枝野さんもスッと立ち上がった。
「潰す。絶対つぶす」
一番物騒な事を呟きながら、みつが立ち上がる。私も、つられて立ち上がった。
「あんまり、やりすぎるなよ」
一番最後に、フジさんが苦笑しながら、立ち上がった。止めないあたり、やっぱりこの人達と友達なんだなあと、思った。
それからは、各自己の陣営に戻り、準備が整い次第、神孤会に向かうことになった。
お寺を出る最後まで、フジさんは止めはしないが苦笑していた。一番強いであろうフジさんが逆に制止役になっているのが、何だか面白かった。
乗り込むのは、土曜日の昼。
そう決まった。
いざ、狐の本拠地へ、だ。
次回、おっさんの本気、お楽しみに!(嘘予告)




