参
宣言通り三十分後。
喫茶店でゆっくり本を読んできた。
事務所に戻る為、喫茶店を出て、階段を上る。
カラン、コロンと扉を開けると、机に右肘を突き、その手に頬をあずけて面倒くさそうにしているみつ(私が扉を開けた瞬間嬉しそうな顔になるのが犬っぽい)と、しょんぼりした顔をしている玉葉くんが居た。
「戻りました」
「おかえり~、かおちゃん」
「お話は終わりましたか」
自分の机の上にバックを下ろす。みつは右手から頬を上げ、私を見た。
「まあ、一応、かなぁ。それで良いよね、玉葉」
おや、いつのまにか呼び捨てになっている。仲良くなって羨ましいっ。
玉葉くんは、しょんぼりと頷いた。おや、あんまり探偵先生に良い返事をもらえなかったみたいだ。昨日のののかと言い、玉葉くんといい、断りすぎじゃないか?
「それじゃあ、お邪魔しました」
玉葉くんは、まだみつに訴えるような顔をしていたが、みつは面倒くさそうな顔を崩さなかった。
ぺこりと頭を下げ、しょんぼり肩を落として玉葉くんは出て行った。
お茶の器を片付けながら、ソファーにもたれかかり今にも寝てしまいそうなみつを見ながら、聞いた。
「みつ、玉葉くんのお願い断ったの?」
「ん? んー、断ったというかぁ、こっちからは何も動かないっていうかあ。そもそも、あの子に報酬を求めて、玉葉は無料で良いってわけにはいかないからねえ」
大欠伸をかくさないみつ。
「ふぁあーあ。狐ばっかり狐くさい」
そう、欠伸と共にボヤくと、みつはスゥっと寝息を立て始めてしまった。
「あっ、みつ」
起こそうか、とも思ったが、この状態のみつを起こしなおかつ移動させるのは、本当に面倒くさい。幼児よりも多分面倒くさい。なので、放っておくことにした。まあ、もうお客さまが来る事もないだろう。
お茶の器を片付け、来客用のソファーに戻ると、みつは背もたれに寄りかかり安らかに寝息を立てていた。
いつもならまだあと一時間は寝ている時間だし、寝足りないのだろうか。
ふと、みつに近づく。
瞼を閉じ、安らかな寝顔のみつは、睫が長く、鼻筋がスッと通り、唇がほんのりピンクの、美しい絵画か何かのようだった。朝の柔らかい陽光が白い肌を照らす。黙っていると美人、から眠っていると美人にランクダウンだな。最近、黙ってても何かへんにゃりしてるし。
初めて会った時から、何だこの無礼で不躾な人間は、と思っていたから、黙っているか、こういう風に寝ていないと、顔の造詣と本人の雰囲気がちぐはぐで違和感があった。が、すぐに起きてるみつに馴染んでしまったのだから、人間の慣れって恐ろしいものだ。
初めて会ったのは、そういえば春間近の頃だったなと、ふと思った。
あの時は、こんな風にこの人間と、こんな風に一緒にまどろんでしまう事があろうとは、全く想像もしていなかった。時間と慣れとは恐ろしいものだ。
とりあえず、探偵先生は寝かせたまま放っておいて、いつも通り過ごす事にした。
「ふぁ~~~ああ」
みつが、欠伸をして伸びをした。あれから二時間半経っていた。
「うぅ~ん。良く寝たぁ」
「そうですか」
自分の机で事務処理をしていたので、チラリと顔だけ上げた。
ふと、みつと目が合った。
「……そう言えばね、かおちゃんと初めて会った日の夢をみたよ」
にっこりと笑うみつを見た瞬間、何故だか急に懐かしさ、のようなものを覚えた。
なんだ?
懐かしさを感じるほど昔に会ったわけでも、離れていたわけでもないのに。
そうですか、と薄い相槌だけ返して、私はまた事務処理に戻った。
考えてもわからない事は、考えないに尽きる。
その日は結局、しとしとと雨が降る中玉葉以外の客は来ず、平和に一日が終わった。
のかかが、この事務所を訪れたのが、確か月曜日。
次の日、つまり火曜日に玉葉くんが訪れた。
そこからその週は何事もなく、いつもの日々だった。閑古鳥が鳴いている、いつもの日常。
が、しかし。
次の週は、怒涛の一週間を過ごす事になるのだった。
謎の美人描写w みつと薫の出会いはいつかわかります。二人で始めてが違うけどw




