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捜索助手

 

 そういえば、となんだかひと段落したところで、ふと気になる事を思い出した。

正直に言えば、最初から目の端には入っていたのだが、それどころではなかったし、ただの汚れだと思っていたのだ、ヤエの右足の裏の黒い影。でもさっき、地面に降りた時にフッと、あれ?汚れてないよね、と思った。実際埃がたまり、刑事さん達が踏み歩いた床、汚くないハズがないのだ。生身の人間なら、確実に汚れる床を、彼女は軽やかに歩き、今再び椅子の背の上に腰掛けている。その左の足の裏は、汚れていない。

 つまり、もともとの人形の方に、ついている汚れなのだろう。

 そして、またふと思った。


彼女の本体、人形は、どこにあるんだろう?


 見渡す限りには、見えない。まあ、散らかっているからかもしれないが、少なくとも、ダイニングテーブルの上や椅子の上には見えなかった。

 私がキョロキョロしているのを、みつが不思議そうに声をかけてきた。


「どうしたの、かおちゃん。探し物?」

「あ、うん、ちょっと。ヤエちゃんの本体は、どこにあるのかなって」

「あー、言われれば、そうだねえ。ヤエはあんまり強いものじゃないから、そんなに本体と離れていられないと思うんだけど。ヤエ、きみの本体はどこ?」


 みつの言葉に、ヤエが首を傾げた。そして、また少しみつと会話を交わしてた。どうやら、ヤエの表情を見ると、あまり芳しくない答えが返ってきそうだ。

みつが私の方を振り返り、口を開いた。


「ヤエ、今、自分がどこにあるのかわからないんだって。暗い所なのはわかるけど、パパがいなくなるどさくさで落っことして、そのままなんだってさ」

「そうなの? なんだか可哀想ね。探してあげない?」


 せめて、日の当たるところに。私の言葉にみつは苦笑して、かおちゃんらしいなあ、と言った。どういう意味だ。

 私達の会話に、いつも通りに戻りつつある枝野さんが、声をかけてきた。


「その子の本体、ええと人形かね、を探すのかい? 良かったら、私も手伝おう。お世話になったみたいだからね」


 枝野さんがヤエを見て、久しぶりに目じりの皺を深めて笑った。ヤエも、嬉しそうに、口を動かした。あ、今のはわかった。ありがとう、だ、多分。




 そうして、私達三人は手分けしてヤエであろう人形を探す事にした。現場の保存、というのがあるらしいが、ここで特に何かあったわけではないらしいので、物を動かして探しても良いと枝野さんから許可が下りた。まあ、もともと荒れてたし、さらにヤエの遊びと悪戯で散らかってるから、保存も何も無いか。あと、何か資料のような物があったら言ってほしいとも言われた。結構刑事さん達も家捜ししていたらしいので、何も無いと思うのだが。ヤエの人形も、そこで見つけられても、重要とは思われないから放っておかれたのかもしれない。




 昼間についたハズだが、いつのまにか、太陽の光がオレンジ色になって室内に差し込んできていた。

 結構隅々まで見たハズだし、暗い場所というので、暗がりや隅を重点的に探したが、何も見つからなかった。一体、どこにあるのだろうか。

 一階しかないし、手分けして探したから、もう探せる場所なんて無いと思うんだけど。

 玄関を探していたみつが戻ってきた。洗面所を探していた枝野さんもだ。みつに、みつの力で探せないのかと聞いたが、えんもゆかりも痕跡(あと)も無いものは探せない、と言われたし、なかなか難航しそうだ。

 夕方になってしまったし、探すのはまた今度だろうか。枝野さんを見る。枝野さんも、まいったように苦笑していた。


「仕事のときも、こんなに必死に探さなかったんだがねえ、見つからないね」


 思わず私も苦笑する。


「すみません、手伝わせてしまって」

「ああ、いやいや。私も好きで手伝ってるから。さて、どうしたものか。棚の中や落ちていそうな隅を探したが、もしかしたら、思っているより小さい人形なのかねえ」


 枝野さんがヤエを見た。私もつられて見る。

 確かに、今見えているヤエが等身大の女子中学生の格好をしているから、結構大きい人形をイメージしていたが、小さな女の子が持てるのだ。着せ替え人形ぐらいの大きさだろうか。だとすると、下手したら家具と家具の隙間にはまっているのかも。

 二人にもその考えを告げ、協力して飾られていたかもしれない家具を少しずつずらしながら、探してみる事にした。

この家には電気が通っていない。探せるのは、後少しだ。







「あった……」


 ついに、見つけた。

 家具をずらし始めて、三個目、電話台の裏だった。昔なつかしい埃まみれの固定電話が乗っている小さめなチェスト、その裏の隙間にあった。このリビングに入ってすぐの所だ。慌てて廊下に出る時に落として、慌てていたので拾えなかった、そんな所だろうか。


 見つけたヤエの本体は、なんと日本人形だった。普通に着せ替え人形だと思ってた…。

 逆さまに挟まっているのを引っ張り上げ、ボサボサになった黒髪を整えてあげる。

 よく見ると、人形にしては豪勢な紅い楓柄の着物を着ていた。あのフランクな感じから、着せ替え人形だとばかり思っていたのに、なんだか値打ちがありそうなものを引いてしまった。

 人形とはいえ、優しそうな表情がヤエにそっくりだと思った。姿を整えながら、ヤエの元に戻る。そして、その際にチラリと右の足の裏を確認させてもらった。やっぱり、汚れていた。いや、これは、汚れではない。


「ねえ、みつ。ここ、汚れてるのなんて書いてあるんだろう」


 私より色んな意味で目が良いみつに、人形の足の裏を見せる。何事だろうと覗き込んだみつが、目を細め不思議そうに呟いた。


「うん? 何とか作、ヤ、エ……いや、これ、カエ、カエ……デ? カエデ?」


 みつがカエデ、と言葉を発した瞬間、ヤエのほうが光った。

 何事かとヤエの方を振り返ると、そこには、


『カエデ。あぁ、それが私の、本当の、名』


 人形と同じ着物を纏い、黒髪をさらっと下ろし椅子の背の上からふわっと降りた、ヤエがいた。と、そこで気づいた。


「こ、声、聞こえる」

「うん。あれが、彼女の本来の姿、なんだろうね」


 私と枝野さんも驚いていたが、みつも少し驚いていた。ヤエは、先程とは違う姿で、でも同じように、にっこりと笑った。


『ありがとう、おねえさん、ケージさん。色々、思い出したよ』


 驚いている私達とは対照的に、ヤエはすっきりしたように笑っていた。思い出せたのが嬉しいのか、彼女はするすると自分の事を話しだした。


『わたしの、本当のは、カエデ。この着物も、それに因んで着せてもらったものなの。ずっと、同じお家で可愛がってもらってたんだけど、ある日パパに連れ去られて、ここに来た』


 ヤエ、いやカエデは、そこでちょっと口をつぐんだ。そこで私はふと気づいて、隣に立っていた枝野さんに耳打ちした。


「枝野さん、ここに住んでいた男性って、今現在、窃盗の容疑者なんですよね?」

「あ、ああ、そうだよ。ずっと窃盗を続けている男でね、尻尾をなかなか出さないんだ」

「ヤエ、いやカエデちゃんが連れ去られて来たって事は、カエデちゃんも盗まれたって事になりますよね?」

「なるほど、そういう事になるね」


 そこまで話した時、またカエデが口を開いた。ちょっと、悲しそうに目を伏せる。


『ここでわたしは、モモちゃんにヤエという名をもらった。だから、カエデだった頃の事を、すっかり今まで忘れていた。モモちゃんに大事にしてもらったように、前のお家でも大事にしてもらったのに』


 モモちゃんは、先程のみつと同じように、カエとヤエを取り違えて名前をつけてしまったのだろう。うっすらとだし汚れに見えるので、仕方ないといえば仕方ない事だと思う。うっかりさんとは思うが。 


「ああ、やっぱりそうか」


 みつの言葉に、カエデが顔を上げた。みつは、一人で頷いている。 


「おかしいと思ったんだ。最低でも九十九年経たないとつくも神にならないといわれているのに、ヤエがここで過ごしたであろう時間はあまりにも短い。最初に下地があって、ここにいた男の未練が、中学生服のヤエ、を作り出していたんだね、なるほどなるほど」


 カエデも、みつの言葉を肯定するように頷いた。


『パパはね、ママとモモちゃんがいなくなった後、わたしをモモちゃんに重ねてたんだよ。その最期のイメージが、あの服だった』


 そして、ちょっと寂しそうに微笑んだ。


『モモちゃんも、パパも、もうわたしを必要としないなら、もとのお家に、帰りたいなあ』


 私も、それを枝野さんにお願いしようと思っていたのだ。

 大事にされた物がつくも神になるというのなら、カエデは前の家で長い間とてもとても大事にされていたのだろう。人形の状態が良好なのを見ても、それは良くわかる。前の持ち主もさぞ心配しているだろう


「枝野さん。なんとかして、カエデちゃんの前の持ち主を見つける事って、出来ませんかね」


 残念ながら、今の私達には探偵の真似事しかできない。元の持ち主にたどり着けるか、心もとない。

 私の言葉に、枝野さんはわかっているとでもいう風に深く頷いてくれた。


「そうだね。何にせよ、盗まれた物は元の持ち主に返してあげないといけない。警察で預からせてもらえれば、私も力になれると思う。こんなに上等な人形なら、被害届も出ている事だろう。きっと見つかるよ」


 最期の言葉は、私にというより、カエデに聞かせているようだった。


『ありがとう、ケージさん。お願いしてもいいかな』


 初めてかわす、彼女との言葉。枝野さんは、目じりに皺をつくりながら、頷いた。


「もちろんだ。きみには、悪戯されて被害も出たが、それがうちの子と遊んでた為といわれては、叱る事もできん。逆に礼を言わないといけないのは、私の方だ。まかせなさい」


 カエデも、枝野さんに向かって、ニコッと笑った。

 今ようやく、お互いに言葉を交わした二人は、笑いあっていた。

捜査中の建物に侵入しただけでなく、現場を荒らすような事は、良い子の皆は真似しちゃ駄目ダゾ!

多分この人形(カエデ)は、髪が伸びる(確信)

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