微笑みの本性
「壊してしまっては、不破様にも何かしらの災いが降りかかりましてよ」
「そんなのどーだって良いよ、守れるなら」
「まあまあ。その、持ち主さえ見つけてくださいましたら、わたくしが良いようにいたします」
「どういう、こと」
みつを悠々と宥めていた瀬尾の目が、怪しく赤くなった。白い貌、漆黒の髪、そして赤銅のような、燃え立つような赤い眼。怖い。本能的にそう思った。無意識に一歩後ずさる。みつがさっと私を隠すように前に立ってくれた。
「わたくし、いまでこそ御二柱様にお使えし淑やかにしておりますが、昔々、それはそれは恐ろしき鬼と謳われました女ですの。鬼の祟りは、怖ぉございましてよ」
妖しく光る赤い眼が、同じ顔のはずなのに、先ほどの瀬尾とは全く違う人間に見せていた。いや、人間じゃなかった。本人の言葉によれば、鬼、なのか。鬼なんて大物、はじめて見た。こんなにも、私自身に悪意が向けられたわけでは無いのに、恐ろしいモノだったのか。
みつが、今度はあからさまに嫌そうな顔をした。
「鬼? あっ、橋! もー、橋姫の方かマジで勘弁してよぉおお。せっかく大物に関わらずにきたのにぃいいい」
「野狐を助けられたのが、運の尽きのようですわね」
「もーーーーーー!」
愉快そうに手を唇に当て笑う瀬尾と、がっくりうなだれるみつ。こんな時でも姫力が健在の瀬尾はさすがというかなんというか。
しかし、みつがこんなにも打ちひしがれているのは、あんまり見た事がない。まあ、本当に危ない依頼にはついて行ってないから、もしかしたらそんな依頼の時はこんな顔をしていたのかもしれないけれど、知らない。
みつがくるっと私の方を振り返った。何だか申し訳なさそうにしている。
「みつ……?」
「ごめんね、かおちゃん。今日中になんとかしてあげたかったんだけど、もうちょっと時間かかりそう」
「そうなの?」
「うん。ごめんね、気持ち悪い思いをもうちょっとさせちゃうけど…」
「大丈夫よ。みつが、何とかしてくれるんでしょう?」
「うんっ、もちろんだよ!」
みつに迷惑をかけているのは、むしろ私だ。今回の事だって、私があの気味悪い指輪に魅入られなければ、この依頼を受けずに済んだのだ 。猫又に会えなくなるのは寂しいが。
私からみつに何か文句を言ったりしないし、言うつもりもない。なんだかんだで、いつも助けてもらっているのは私なのだから。今回だって、みつを信じているから、大丈夫だと思えるのだ。……まあそこまで本人には言わないけど。
ふと前方を見ると、みつ越しに瀬尾がいつもの黒い瞳に戻って、微笑ましそうに唇をほころばせているのが見えた。さっきの赤い眼は怖かったけど、普段通りに戻るとやっぱり美人だった。うーん、美人って得だ。
「わたくしも、できる限りのお手伝いはいたします」
「それは有難いんだけどさー。なんでその指輪の持ち主に拘るの? 仲間が蹂躙されたから? それで復讐したいの?」
「まあ、それもありますが……そうですね自己紹介も致しましたし、もう言っても良いでしょう。この指輪には、主様方の力が使われています。もちろん、竜神様の方ではございませんよ」
「竜神の方じゃないって……あっ! 丑の呪法か!」
「左様でございます。流石、気づきがお早い」
「褒められても嬉しくない」
「わたくしは、丑の呪法で成った橋姫ではございません。ですが、今このようにして主様方の力が使われるのが、許せないのです」
瀬尾は、何かを堪えるように唇をかみ締めた。そんな瀬尾を見ているみつは、少し哀しそうな眼をしていた。気のせいかもしれない。
祟り→正たたり 誤いかり
わざとですw




