微笑みの爆弾
そうこうしてるうちに、瀬尾が出てきた橋に戻ってきた。結構歩いたなあ。まあ、こうなる事を予想してヒールの低いクッションのきいた靴を履いてきたのだ。みつは健脚だ。こんな事で足手まといにはなりたくない。
例の橋につくと、みつは川面に向かって、
「瀬尾ー、報告したいから出てきてよー」
そう、声をかけた。横から見てると、ただの変な人だった。まあ、いつもの事だった。
みつが川面を見ているので、私も見ようと欄干に近づいたとき、
「もうし」
後ろから、声が聞こえた。やっぱり慣れない。びっくりしながら後ろを振り向くと、そこにはやっぱり瀬尾がいた。みつはふんっと鼻を鳴らした。
「わざわざ川に向かって言わなくても、聞こえてるんだね」
「はい。この橋でございましたら、聞こえています」
瀬尾はいつものように、優雅に笑っている。みつはちょっと肩を竦めた。
「一応、報告するよ。その指輪の、前の持ち主がわかった」
「まあ、そうなんですか」
ん?なんか、瀬尾の反応に、ひっかかる。もっと、驚くとか喜ぶとかの反応を予想していたのに。まるでそれでは、昨日のご飯は焼きそばだったとか他愛のない事を言った後のようではないか。
みつもそれを感じとったのか、ちょっと眉を寄せて、怪訝そうに続けた。
「居場所も、名前もわかる。ただ多分、その指輪の、被害者の一人だ」
みつの言葉に、瀬尾は困ったように頬に手を当てた。
「まあ、不破様。わたくしがお願いしたのは、その方ではありませんわ」
「なにを……」
「その方も指輪の被害者なのでしょう? わたくしの依頼は、この指輪を『こうした本当の持ち主の方』を探していただきたい、です」
なにを、なにを言っているのだ、この妖怪は。この指輪を、誰かが人為的にこうした、というのか。
みつが、眉を寄せ眼を細めて瀬尾を見ていた。瀬尾は、いつものように微笑んでいた。いつものように?
「あんた……やっぱりただの妖怪じゃないね。使役? いや、眷属? 眷属のほうか。だから、そんなに力があるのか」
みつの言葉に、瀬尾が艶然と微笑んだ。美しさゆえに、凄みさえある、笑みだった。やっぱり、人ならざるもの、なのか。はじめて瀬尾が人ではない、というのがわかった気さえした。
「あら、自己紹介が足りてませんでしたね。わたくし、闇淤加美神、闇御津羽神、御二柱の眷属をしております、河姫の瀬尾と申します。よしなに」
「はぁぁあああ?! あの竜神の?!」
瀬尾が、丁寧にかつ優雅に深いお辞儀をしているというのに、みつは素っ頓狂な声を上げた。……珍しい。みつが、ここまで驚きを露わにするなんて、よっぽどの事なのだろうか。いつもの通り、私には何が何だか全くわからないが。
「ああ、でもそうか水か。無関係じゃないのか。…ったくもう。だから、最初から『指輪の持ち主を探してくれ』だったのか。あーもう」
みつが、苛立たしそうに頭をかいた。ああ、髪型が崩れるわよ。
そんなみつを見てもなお、瀬尾は微笑んで、はい、とこともなげに応えていた。
「みつ、どうしたの」
「この依頼人、とんだくせ者だったよかおちゃん。もう依頼ぶんなげて指輪壊したい。その方が絶対楽だもん」
みつは額に手をあてて、首を振っていた。そうとう面倒な算段になっているらしい。
瀬尾はそんなみつを見ながらも、微笑むだけだった。
次回!瀬尾ついに最終形態現る!のまきwww




