猫耳の少年
とりあえず、このお宅に目的のシロ君がいるようだ。みつを見ると、また何のためらいもなくインターホンを押していた。心の準備ぐらいさせて!
ピーンポーンと、緊張を誘う高音が鳴る。
が、反応がない。住人は留守のようだ。というか、考えてみたら、そもそも住人になんと説明する気なのだろう。お宅の猫を借りたいんです、とか?……新手の詐欺のようだ。
インターホンが鳴って少し経ったが、中からは何の反応もない。何とかして、シロ君だけでも出てきてくれたら良いのだけど。
帰ろうかとみつを見ると、みつは何だか確信を持った目で扉を見続けていた。どうしたんだろう。何か考えがあるのだろうか。
と、何の前兆も無く、目の前の扉がガチャリと音を立てた。驚いてみつから扉に目を向けると、そこには、
「いらっしゃいませにゃ。不破先生かにゃ」
十歳ぐらいの男の子が、猫耳を生やして、ドアノブを握って扉を開いてくれた。
……うん、猫耳。うん、私目の前にあるモノをちゃんと見れてる。……うん、猫耳。眼鏡を外して目をこすって、また眼鏡をかけても、目の前にあるモノは一緒だった。
「そうだよ。キミが、シロだね」
私の戸惑いも驚きも萌えもすべて流しつつ、みつが答えた。シロくん(たぶん猫又)は、観念したような顔で、みつを見た。
「はいですにゃ。立ち話もなんですし、こちらにどうぞですにゃ」
そう言って、シロ君は私達を家の中に案内してくれた。……いいのだろうか。住人、でなく飼い猫の招きで入っても。そんな私の戸惑いを察したのか、みつは私を振り返って、大丈夫じゃない? と軽く言ってのけたのだった。
中に入ると、応接間らしき所に案内された。勧められるままに、ソファーにかける。シロ君も正面に座った。
しっかりした男の子だ。男の子だけど、猫又ってたしか十年生きるとなるらしいから、こんな見た目でも十分年を経ているのだろう。しかし、先ほどのギンとは違い、シロ君は高めの少年のような声だった。語尾も可愛らしく似合っている。これでオスだというのだから、可愛さは性別は超えるのだなあ、としみじみ思った。
「さて。私がここに来た理由は、もうわかってるよね」
みつが、他人の家だというのにくつろいだ姿勢で、シロ君に聞いた。シロ君はコクリと頷いて、みつを見た。
「せのおのところに捨てられた、指輪にゃ」
「そう。それで相談を受けたキミは、私の評判を聞いていたから瀬尾に教えた。というのが瀬尾側の話。でも」
みつはシロ君を見据えた。
「私は、キミがこの指輪の関係者だと考えている」
みつの言葉に、シロ君の瞳孔が細まった。驚いたのか、面白いと思ったのか、よくわからない表情だ。
「なんで、そう思ったにゃ?」
シロ君の言葉に、みつはふんっと不敵に笑い人差し指を立てた。
「一つ。タイミングが良すぎるんだよね、キミ。見たところ完全に室内飼い猫でしょう。外に出られるけど、出る必要があると思えない。指輪が捨てられた事と場所を知って、慌てて様子を見に行ったんじゃないの? 瀬尾に、私という解決法を持っていくのが早すぎる」
シロ君は驚いた顔をした後、ゆっくりと目を細めた。それは、肯定に思えた。
みつは二本目の中指を立てた。
「二つ。この家の位置だね。なんで、指輪を捨てた人間は、海や見つかる可能性の低い、広い場所に捨てなかったのか、気になっていたんだよね。でも、その人がこの家の関係者なら、答えが見えてくる。人がいない、もしくは人に見つからない所と考えた時に、きっと咄嗟にあの河の上流付近が浮かんだんだろう。ここは、上流に近い。もしかしたら、幼い時はあの河で遊んでいたのかもね」
シロ君はさっきの表情のまま変わらない。まるで、不思議の国に出てくるチシャ猫のようだと思った。あと猫耳可愛い。
みつは、三本目の薬指を立てた。
「三つ。人がいない所を考えたという事は、あの指輪が危険だと認識していたという事だ。他の人間に拾われないようにと思ってあそこに捨てたのだろうが、あの河に住む小さな妖怪が拾ってしまった。名も無い妖怪には、あの指輪は毒だったみたいだね。瀬尾を持ち主にしてとりあえず収まっていたようだけど、依頼に来た際うちの助手が気に入られてしまった。キミには悪いけど、持ち主に返させてもらうよ」
みつの最後の言葉に、シロ君は初めて大きく驚いた顔をした。そんな事になっているとは思っていなかったという顔だ。
「それは……横の女の人の事かにゃ」
シロ君の目線が私に来た。みつをチラリと見ると、みつは頷いていた。シロ君は眉を下げアーモンド形の形の良い瞳を痛ましそうに細めた。
私の萌えをつぎこんだ結果、薫が五月蝿くなった事をお詫びします(五月蝿くならないとは言ってない)
みつの推理が冴え渡る!けどあんまり重要じゃなかった!




