迷惑料未納
次の日。
私の家の靴箱の上に、あの、指輪が、あった。
もしかしたら悲鳴をあげたかもしれない。
とりあえずみつの言葉を思い出し、ポケットにいれておいたハンカチに乱暴に包んで、急ぎ足で事務所に向かった。
ど、どうしよう。みつは、この事を知っていたのか。
事務所につくと、鍵が開いていた。ためらわず扉を開けると、
「あ、おはよ~、かおちゃん」
中には、既にみつが居て、またあのくだらない雑誌を読んでいた。
こんな時間に事務所にいるなんて珍しい。もしかして、待っててくれたのだろうか。
「お、おはよう、ございます」
少し乱暴に開けたために、いまだガランガラン鳴っている鐘が、少し、恥ずかしかった。
そして、とても安堵したことは、とりあえず黙っておこうと思った。
「みつ、これ」
とりあえず、カバンだけ下ろして、ポケットの中にしまいこんでいたハンカチと共に中に入れたものを、みつの机の上に置いた。
みつは目を細め、そのハンカチと中身を見た。
「みつ、どういう事なの、これ、だって昨日」
私が少し震える口調で言うと、みつはふにゃりと笑った。
「大丈夫だよ、かおちゃん」
その一言を、なぜか信じる事が出来た。肩の力が抜ける。
みつはそのハンカチごと中にある指輪を右手に握った。そのまま、ぐぐぐっと力を込め、まるで、握りつぶそうとしているかのようで--
「みつ?」
「まっててね、今これ壊すから。のうまく さんまんだ ぼだな……」
みつの目は先ほどとはうってかわって、真剣そのもので、怖いくらい……ん? しかしちょっとまって、壊すって、
「みつ、壊すって、どういう事」
「言葉の通りだよ」
「いやいや、ちょっと待って。これ、あの依頼人のでしょう? 困ってたみたいだけど、持ち主を探して欲しいって」
そこで、みつがふと顔を上げ私を見た。なんだろう。
「……ああ、そっか、そんな事も言ってたね。うん。そうだね、そうしようか」
みつはそう言うと、手に力を込めるのを止めた。そして無造作に机の上に落とした。ハンカチがかかったまま。ハンカチは握り締められ、くしゃくしゃになっていた。
そして、何かよからぬ事を考えているように、ふふんと笑った。
「とりあえず、あの依頼人に会いにいこうか。迷惑料と依頼料、貰わないといけないしね」
何だか不穏な言葉が聞こえた気がしたが、この薄気味悪い指輪がどうにかなる算段があるなら、まあ、いいか。
指輪にお気に入りされた薫。ツンデレ




