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帰ろう 弐

 石灯籠の明かりはすぐ途切れ、薄暗い森の中になった。

 来た時と同じように白い靄がほのかに光り、薄暗いと薄明るいの中間のような空間だった。


 無言で、歩く。足は草や土を踏む。

 今度は帰っている安心感があるからだろうか、来る時よりは少し周りを見る事ができた。が、周りは木しかなく、空も見えず、見えるところはなかった。

 ふと、足がナニか硬いものを踏んだ。土でも、石でもないそれは、人工物のようだった。

 ハッとして下を見ると、灰色が見えた。コンクリートだ。思わず、


「みつ、帰れたのね」


 そう、喜びの声を上げた。

 途端。

 背筋に悪寒が走った。

 みつが、急に走り出す。

 わけもわからず、手を引かれて、私も走る。と、私の足は、コンクリを踏んだハズなのに、また何か柔らかいものを踏んでいるようだった。意味が、わからなかった。


『 』

『 』

『 』


 耳元で、何か囁かれる。

 思わず振り返りそうになったが、みつに強い力で引っ張られて、それは阻止された。

 走る。

 走る。

 また、何か耳元で囁かれる。わからない。怖い。

 無我夢中で走った。


『狐のこか』

『ざんねん』

『ひとなら喰ろうたのに』


 そんな声が聞こえたのを最後に、声は遠ざかり、聞こえなくなった。

 みつの走るスピードも緩み、速足になり、歩き出した。

 肩で息をしながら、私も走るのをやめ、歩き出した。

 足が何か、固いものを踏んだ。

 下を見ると、灰色だった。デジャブ。

 みつを見上げると、首を横に振っていた。ので、今度は黙って歩いた。


 そこから、いくつかの角を曲がった。

 不思議と、視界はだんだん暗くなり、ある地点を超えた所で明るくなっていった。

 街灯の、人工的な明かりだった。

 ふと気づくとそこは、最初に立っていた、四つ辻だった。

 住宅街によくある風景。だがそれが、とてつもない安堵をもたらした。

 みつを見上げる。


「……お疲れ様、かおちゃん。仮面とっても大丈夫だよ」


 みつはそう言って、私のてをスルリと離し、面の紐をほどきだした。

 右手が、スースーする。不思議な感覚。

 私も、狐の面を取ろうと、紐に手を伸ばした。思った以上に手が震えてて大変だったが、何とか結び目が取れた。

 面を取った瞬間。

 冷たい風が顔に吹き付けてきた。寒い、と思ったのと同時に、本当に帰ってこれたのだと実感して、冷たいその風が、心地良く感じた。

 心の底から、安堵の溜め息を吐いた。


「み、みつ」

「……聞きたいことはいっぱいあると思うけど、とりあえず、今は帰って休息を取ろう。ね?」


 みつのその、私を気遣うような声音に、自分も疲れているだろうに、申し訳なくなった。


「……うん」

「思ったより時間経ってないし、一回事務所で仮眠とったら?」

「そうさせてもらうわ」


 二人で事務所に向かいながら、ぽつぽつ話す。

 あんなに手を繋いでいるのが普通だったので、繋いでないのが逆に不思議な気分だった。……いかんいかん、常識的に考えて、友達とかでもそんなに手を繋いだりしないよね?

 友達いないからわからないけど。


 なんでもない事を話しながら、事務所に無事に戻ってきた時は、もうこのまま倒れ伏したいと思った。が、最後の理性を働かせて、メイクを最低限落とし、歯磨きをして、何とか布団だけかぶって寝た。

 みつはもちろん自宅に帰した。


 夢すら、見なかった。

 気づいたら、昼だった。


 とりあえず、起きて来たみつに断って自宅に帰り、また寝た。寝れた。こんなに寝れる事あるんだって思った。

 目覚めたら、夜だった。


 そして、不思議な事があった。

 日付が、私が思っているより、一日過ぎていたのだ。今日は二日だと思っていたのに、三日だった、みたいな。

 慌てて、まさかとは思うが寝すぎたのかと心配してみつに電話すると、みつもどうやら驚いていたようだった。

 昨日? こちらに戻ってきた時には、すでに日にちがズレていたようで。つまり、そんなに時間をかけず戻れたと思っていたら、次の日の夜に戻ってきていた、そうだ。

 ……もう、いいや。とりあえずその事は思考停止し、私が寝すぎたわけじゃなくて、良かったという感想にとどめておいた。


 次の日は、普通に出勤した。

 みつも、起きて事務所にいた。


「おはようございます、先生」

「おはよ~、かおちゃん」


 いつも通りのやり取りをして、いつも通りの業務を始める。

 まあどうせ、昨日も一昨日も依頼人は来なかっただろうし、特に被害という被害も無くて、本当に良かった。

 いつも通り、みつにお茶を出す。


「ありがと~、かおちゃん」


 寒くなってきたから、暖かいお茶が美味しいようだ。

 みつが私を見上げて、苦笑した。


「お客さんもいないし、ちょっとお話でもする?」


 どうやら、聞きたくてソワソワしているのが伝わってしまったようだ。ちょっと考えるふりをして、そうね、と言ったがバレバレだっただろう。

 みつは苦笑したまま、いま置いた湯呑を持って、来客用のソファーに移動した。私も、みつを追ってソファーに向かった。

 いつもの依頼を聞く時の場所に座るみつ。ちょっと悩んで、いつも依頼人に座ってもらう方、つまりみつの対面に座った。

 みつはちょっと驚いたような顔をしたあと、少し苦笑していた。だって、横にいたら話し難いんだもの。


「……さて。何から聞きたい~? 説明できない事もあるかもだけど~」


 みつが、いつもよりはちゃんと座って(当社比)首を傾げた。ちょっと考えて、みつを見た。


「わ、私達、かみさま、にあった、のよね?」

「う~ん。一部、かなあ? 本体では無いと思う。というか本体があるのかすらわからないけど~。まあ、かみ、と呼ばれるものではあるんだと思うよ」

「そ、そうなの? とりあえず無事に、玉葉くんも帰ってくる、のよね」

「そうだね~。玉葉の喜びようを見るかぎり、大丈夫っぽいね~」

「よかった」


 ホッとして、息を吐く。みつが苦笑した。


「だから、大丈夫だって言ったでしょ~」

「死にそうな顔してたのは、そっちのくせに」


 私がそう指摘すると、みつは誤魔化すように、そうだっけ~と笑った。


「私、足手まといにしか、ならなかった。でも、連れて行ってくれて、ありがとう」


 一呼吸おいて、みつを見る。みつは予想外に、柔らかく微笑んでいた。


「私も、隣にかおちゃんが居てくれた事で、気持ちを保てたところあるから。私も、ありがとう。一緒に行ってくれて」


 予想外にお礼を言われてしまった。

 いざという時は盾にしてもらうぐらいの気持ちで行ったけど、そんな事でお礼を言われて、私の方がビックリししてしまった。


「わ、私は、別に、なにも」

「ううん。……へへっ、ちょっと恥ずかしいな」


 急に気持ち悪い笑い方をしたと思ったら、恥ずかしがっているようにくねくねしはじめて、正直どうしようかと思った。放置する事にした。

 冷めたお茶を変えに、立ち上がる。

 みつは、まだくねくねしていた。


 湯呑を持ち、給湯室に入る。

 ちょっと、顔が赤くなってるかもしれない。頬を両手で挟むと、ほんのり暖かかった。

 いつも通りお湯を沸かし、こぽこぽと急須に注いでいると、


「うわっ! なっ、ビックリした!!」


 部屋の外から、みつの驚いたような声が響いた。あと、何かの落ちた音。思わず急須を置いて、急いで扉を開けた。


「みつ! どうしたの、何か……あ!」


 扉を開けた先には、

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