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境の道


 日中は普通に業務をこなし、普通にお客さんはこなかった。

 玉葉くんに指定された大まかな時間は、今晩というか日付を超えていた。ので、1階の喫茶店でみつと言葉すくなに晩御飯を食べ、明日は休みをもらう事などを話した。





 そしてついに、その時が、来た。

 場所は、玉葉くんのあの怖い姉の後をつけた、あの場所。あのお姉さんが使っていたので、開きやすい、とかなんとか言ってた。

 それよりも、夜風が冷たい。朝の恰好では寒いぐらいだ。上からストールも羽織っているが、冷気がたまに肌まで突き刺さってくる。うう、寒い。

 一方みつはというと、なんか、着物を着ていた。女物の着物、じゃない。神社とかで見る、巫女のようなそうでないような、着物。

 深夜で人通りが少ないとはいえ、珍しい恰好だから、寒いし止めたらと止めたが、これじゃないと怖い、といって聞かなかった。私も着替えるべきか聞いたけど、何とかする、との言葉だったので、ドキドキしながらも今のような恰好のままでいる。

 ちなみに、みつの袖の中には、玉葉くんにもらった短刀が入っているを知っているので、別の意味でもドキドキする。


 怖い気持ちもあるが、寒いので早くしてほしい、という方が若干勝ちはじめた。

 みつは、四つ辻の真ん中で、いつものあの木製の板に磁石がついているのを見ていた。が、不意に顔を上げた。


「時間だ」


 そう告げたみつは、もう迷っていないようだった。良かった。

 ついていって意味があるかわからないけど、みつだけに背負わせてはいけない気がしたのだ。


「それじゃあ、行こうか。あのね、かおちゃんには前みたいに、一言も喋らないで欲しいんだ。受け答えは全て私がやるから。私がするのと同じように行動したら大丈夫だからね。今度は目くらましがきかないから不安だけど、玉葉もいるし、何とかなると思う。だから、その……」


 毅然と、私に注意事項を話していたのに、不意に何やらモジモジしはじめた。意味がわからなくて首を傾げていたら、つと、左手が出て来た。さらに理解不能になりみつを見ると、頬を上気させて言った言葉が、


「手を、繋いでて欲しいな、なんて。あ、ほら、迷子になったら探せないしっ、何かあったらすぐ対応できるかなって……だめ?」


 それだった。

 なんだか頭が痛くなってきた。小首まで傾げて、不安そうにしているし。それ、やる相手間違ってるよ。

 呆れたようにため息を吐きつつ、さっさとみつの左手を右手で握った。


「早く行きましょうよ、先生。寒いんですから」

「う、うんっ。そうだねっ」


 みつは嬉しそうに、それこそ尻尾があればブンブン振っているような感じで、笑った。まあ、こんな事ぐらいで機嫌が良くなるなら、安いものだ。

 みつの手は少し硬くて、あったかい。こんな寒そうな恰好してるのに。

 前を見る。普通の住宅街が映る。

 みつが、歩きだす。

 私も、足を踏み出す。

 前も一回通ったんだから、きっと大丈夫、だといいな……。









 前とは様子が違うのは、割と早い段階で気づいた。

 あの姉を追っている時は、あくまでこの道路の延長線上だった。つまり、コンクリートだ。

 でも、今はどうだ。

 足が踏みしめる感触は、あきらかに、土。ところどころ草。久しぶりに歩いた。っていうか、ここどこよ!


 不安になりみつを見ると、みつは苦笑しながら、頷いた。大丈夫、とでもいう風に繋いだ手にきゅっと力が込められる。私も頷いて、また、前を見て歩き出した。

 もう、前も後ろも、よくわからないけど。


 霧がかかったように辺りは良く見えないけど、どうやら森の中らしい。意味がわからない。気づいたら周りがコンクリじゃなくなっていた。

 それでも、黙って歩く。

 白い靄がほのかに発光しているように、薄暗いと薄明るいの中間のような空間。ああ、違う世界なんだな、と肌で感じる。

 不思議と、来る前のような恐怖はないが、違和感はある。


 そうやって、森の中を歩いていたが、ふと、目の端に違う明かりが見えた、気がした。と思ったら、次の瞬間には、それは石灯篭だったり、ロウソクの火に見えだした。

 石灯篭の灯りは規則正しく左右に並び、奥へと続いていた。

 まるで、道のようだ。と思った次の瞬間には、足が固いものを踏んだ。驚いて下を見ると、石畳になっていた。

 あんまりに驚いたものだからみつを見ると、みつも驚いた顔をしていた。手に、ギュッと力が籠められる。だがそれも一瞬で、通常通りの顔に戻り、にへらと笑うと、みつはまた歩き出した。

 仕方ない。ええい、なんでも来い、よ。

 そう覚悟を決め、灯篭の道を歩く。





 少し歩くと、煌びやかな光が見えだした。

 灯篭のほのかな明かりではない。ビルの電飾でもない。

 それはそう、幾多もの、提灯。

 その下には、ざわざわとうごめく、人影たち。

 そう、お祭りの夜店が、遠くに見えるのだ。驚きすぎて、口が閉じられない。


 大きな、朱色の鳥居が見える。そこにも、大きな提灯が掲げられており、それには狐が描かれていた。

 ああ、なるほど。稲荷神社か。

 なぜかそれだけは、ストンと理解できた。

 鳥居の奥に、愉しそうなざわめきが聞こえる。まるで、普通のお祭りのようだ。

 だが、近づくにつれて、異様さに気づくことになった。

 みな、あの白い狐の仮面をかぶり、中には耳や尻尾を生やしたものもいる。玉葉くんで見た事があるとはいえ、やはり常識的には考え難い姿だった。


 ふと、鳥居の前に人影がいた。

 一回、キュッと強めに手を握られた。みつを見ると、みつはその鳥居の前の人影を見ていた。良く、目を凝らして見てみる。


 あっ!


「……!」

「あ! 不破さん、と、神凪さん?! 二人とも、来てくれたんだね! 良かったあ」


 不安そうな顔を、パァっと笑顔にかえた、玉葉くんだった。

 袖と足のところがフワッと広がっている着物を着ている。かわいい。喜びのあまり思わず声に出そうとしたのを、ハッと気づいて手で口をふさいだ。セーフだっただろうか。


「……来たくなかった」


 嬉しそうにこちらに近寄ってきてくれる玉葉くんとは対照的に、みつはボソッとぶっきらぼうに言った。

 咎める意味を込めて手に力を込めると、みつは拗ねたように私を見た。


「ごめんなさい。まさか、僕もこんな事になるとは思わなくて……。そうだ、忘れる所だった。はい、コレ。二人に」


 玉葉くんは、すまなさそうに謝りながらも、私達に二つのお面を差し出してきた。それは、金色の狐のお面だった。向こうの屋台にちらほら見えるのは、白いお面なのに。あ、玉葉くんの毛色が金色だから、お揃いとか?


「入ってしまえば、そこはもう神域。今日は特別に開いてるから、コレをつけていれば入る事を許されるよ。でも、その分いろいろいるから、変なのは相手にしないでね」


 私達は手を離し、それぞれお面を受け取り、装着した。後ろで紐を結ぶだけの簡素なものだ。大きなお面なので、眼鏡をかけたままでも大丈夫だった。目の所に空いている穴から、十分周囲も見えるし、良かった。

 みつも装着し終わったようで、私を見ていた。差し出される手を、また、ぎゅっと握る。みつの表情は良くわからなかったけど、笑っている気がした。


「それじゃあ、案内するね。……くれぐれも、失礼の無いように、お願い」


 玉葉くんも、金色のお面をかぶっていた。いらなさそうなのに、そういう決まりなのだろうか。

 お面をかぶった玉葉君が、私達に頭を下げた。顔を上げると、私達を見た。


「ようこそ、豊穣の庭へ」


 私達は共に、大鳥居の中に、足を踏み入れたのだった。

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