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不思議な事調べます-不破探偵事務所-  作者: 灯流
彼岸の月に咲くは、花か、焔か
129/137

後日の談(はなし)




 後日。


 私達があの村から帰ってきて、もう数日経つのに、玉葉くんは、まだ帰って来ない。

 心配だわ。そう思いながらも、いつも通り閑古鳥が鳴く事務所で過ごしていた、ある日の事。


 カラン コロン


「ようこそ、不破探偵事務所へ……って、柿森さん。こんにちは。みつ、柿森さんが来たわよ!」


 いつものように、事務所の鈴が鳴ったので出迎えると、そこには、溌剌とした紳士がいた。何日か前に見た時がウソのように、いつも通りだ。急に来るのもいつも通り。

 柿森さんはニコッと笑うと、いつものように、お邪魔するよ、と言って事務所のソファーに座った。

 みつはいつものように自分の机に突っ伏して寝ていたので、起こして、ソファーに座らせる。しぶしぶ座るみつ。

 お茶を出し、みつの横に座ると、柿森さんはニコニコしていた。いや、いつもニコニコしているのだが、今日は特別に機嫌が良さそうに見えた。


「やあ、みつ坊。今回は、あいつを助けてくれて、本当にありがとう」


 柿森さんはそう言うと、深く頭を下げた。みつはビックリした顔で柿森を見る。頭を上げた柿森さんは、そんなみつの表情に気付いて、笑った。途端に、不機嫌そうになるみつ。


「神凪さんも、大変な目にあったようだね。悪い事をした。無事で良かったよ」


 みつを見てちょっと笑っていたら、急に話がこっちに来た。柿森さんが、私に向かっても頭を下げるものだから、私もちょっと慌ててしまった。


「い、いえ。私は、ただ、眠らされただけですから。私も、みつに助けられただけです」


 頭を上げた柿森さんは、穏やかに微笑んでいただけだった。みつはドヤ顔をしていたが、今回ばかりは、突っ込めない。 


「みつ坊は、色々頑張ってくれたそうだね。でも、依頼人には辛い結果になってしまった。本人の希望だったとはいえ、やるせないよ」


 柿森さんは、ちょっと沈んだように顔を伏せた。みつは柿森さんから視線を外して、頬杖をついた。


「本人の望みっていうか……血の恨みっぽかったけどね」

「血の、恨み?」


 私と柿森さんが、同時にみつの言葉を繰り返した。興味津々みたいな柿森さんの表情を見て、みつは、しまったとでも言いたげな顔をした。


「それは、どういう事だい、みつ坊」


 案の定質問されて、みつは溜息を吐きながら、頬杖をやめた。


「あくまで、接した感じと、推測ですよ。それが本当かどうかもわからない」

「みつ坊の個人的な見解という事だね、構わないよ。俺も、気になってるんだ。教えてくれるかい」


 柿森さんの真剣な顔を見て、また、溜息を吐いたみつ。お茶を一口すする。


「……そもそも、あの村って、人身御供の儀式をやってたわけじゃないですか。それで、依頼人の彼氏が生贄として攫われ、嶺川も攫われた。嶺川も、あの人も、どうやら村の人達に物理的に捕まったみたいなんですよね。そこに怪異は存在しなかった。でも、村人をそこまでさせるナニか、が確実にそこに居た。ソレは、人身御供を強要するやつです」


 肩を竦めるみつ。

 今更ながら、ぶるっと背中が震えた。

 私、あそこで、アレに捕まっていたら、おそらく。……過ぎた事だ。考えるのは、止めよう。

 みつが、また話し出す。


「生贄を、無作為に選ぶ方法もあるでしょうけど、あの村はおそらく、家系を決めていた筈です。なぜなら、男と女で、生贄の数が違うから。どうも、女を主にしていたみたいだけど、無作為なら、女を選びなおせば良いはず。なのに、男性だった場合の対処法がある。これはたぶん、いくつかの家系が持ち回りで、生贄を出すと決められていたからだと思う。そして、今回が、あの狼谷かみやという家系。ずっと、もしかしたら、あの儀式が始まった頃から、犠牲の一族だったんじゃないかな」


 お茶を飲み干す、みつ。その言葉には、苦々しさが混じっていた。

 必ず、何回かに一度、犠牲となる人を出す、一族。

 背中が、ぞわぞわと震える。人の、冷酷さと、保身に。

 みつが心配そうに私を見たので、ちょっと頷いて、大丈夫と合図する。


「なるほど、彼に逃げられると、次は自分達の内から誰かを出さなくてはいけないから、必死に探して、見つけてしまったんだね……」


 柿森さんが、しんみりしたように呟く。


「みつ。でもなんで、彼の家系がずっと……そうであるって、わかるの?」


 一瞬しか見ていないが、彼の、あの決意と覚悟は、みつの説を確信に変えるだけの迫力があった。でも、それだけで言い切れることが、不思議だった。

 みつは私を見て、困ったように眉を下げた。あ、どう説明しようか迷ってる顔だわ。


「う~んと、えっとね。彼が狼信仰だったから、かな。あの麓の街で、狼の神社にお参りしたの覚えてる?」

「あの、バスの待ち時間の間に行った所よね」

「そうそう、そこ。おそらく、本社はあの山の方、あの村にあったんだよ。でも、あそこには無かった。別の信仰が、狼を駆逐したんだ、と思う。駆逐された方っていうのは、弱いものなんだよ。それを信仰してた一族が、犠牲に選ばれたとしても、おかしくない」


 みつは、あーやだやだ、と言って、肩を竦めた。

 私には何もわからなかったけど、みつはあの時、彼がその狼を信仰していたという事と、ずっとそうやって犠牲を払ってきていた事を、察していたのだろうか。だから、彼を手助けするような事を、結果的には破滅してしまうかもしれない事を、助けたのだろうか。


「じゃあ彼は、儀式というより、あの村自体を憎んでいたとしても、おかしくはないんだね」


 柿森さんが、そう痛ましそうに言って、鞄から何かを取り出し、机の上に置いた。

 それは、折り畳まれた地方の新聞のようだった。

 その新聞の一面には大きく、


『山火事か、放火か! 集落を焼き尽くした炎』


 そう、書いてあった。

 柿森さんに断わって、その新聞をさらっと読んでみる。

 どうやら、あの夜に立ち上った炎は、何故かあのはしばた村だけを焼き尽くしたようだ。身元不明の遺体が幾つかと、何故か心臓発作で亡くなった遺体がいくつも入り混じり、現場は混乱しているらしい。こ、怖い。思ったより大惨事になってる……。

 さらには、全焼した彼岸寺の裏手に咲く彼岸花の下から、大量の白骨死体が見つかり、事件との関係を調査しているという。


「ねぇ、みつ。この、彼岸花の下のって……」


 嫌な、予感がして、みつに聞かずにはいられなかった。

 みつに新聞を渡すと、興味なさそうに少しだけ目を通し、柿森さんにその新聞を返した。


「たぶん、かおちゃんが思ってるので、近いと思うよ。彼岸花、は墓に植える花でもあるんだ。墓を守る、ともいわれるし」


 肩をすくめるみつ。……深く考えることは、やめよう。うぅ。

 柿森さんは、そんな私達のやり取りを静かに見ながら、受け取った新聞をまた自分の鞄になおし、今度は別の封筒を取り出した。

 みつが、眉をしかめる。


「そんな顔しないでくれよ、みつ坊。果たした依頼には、報酬を支払わなければならない。そうだろう?」


 柿森さんは封筒を差し出しながら、笑顔で圧をかける。

 みつは、根負けした。柿森さんに勝てるわけがないのだ。疲れた顔をして、その封筒を受け取る。


「柿森さんも、たいがい頑固ですよね。わかりました。ありがとうございます。でも、前の借りはちゃらですよ」


 みつが受け取ったのを、満足そうに見ていた柿森さんは、


「ははは。それじゃあ、また何かあったら、頼むよ。みつ坊」


 そう言うと、唖然としているみつを置いて、さっさと帰っていってしまった。朗らかに笑いながら。


 柿森さんの方が、やっぱり上手のようだ。みつは脱力したように、ソファーに沈み込んだ。

 新しくお茶を淹れ、みつの前に出す。みつは、ありがとー、といって、それをすすった。


「ねえ、みつ。さっきの柿森さんとの話で思い出したんだけど、あの、夢みたいな所で、送り狼って言ってたのは、なんだったの?」


 私も、自分用に淹れた茶をすすり、みつに聞いた。みつは、ソファーに深く沈み込んだまま、私を見た。


「えっとね~、本来の意味での送り狼、だね。今は、男性が女性を送っていってあわよくば、って言葉でしょう? でも本来は、本当に狼が後ろをついてくる事象、に対して使われた言葉だったんだよ~」


 へえ、そうだったのか、と普通に感心した。が。あの時、助けがきた、とみつが喜んだ意味がわからない。

 私が怪訝そうな顔をしている事を察したのだろう、ちょっと笑って、口を開いた。


「それでね、狼ってのは、獲物の後ろをついてきて、振り返ったり、転んだりして隙を見せたら襲って食べちゃうんだってぇ。でも逆に、後ろを見たり、転んだりしなかったら、帰り道を安全に送ってくれる、っていう事でもあるんだ〜。狼以外には襲われなくなる、っていう解釈で良いんじゃないかな。だからあの時、あの狼たちは、私達を送ってくれていたんだよ~」


 いやあ、お参りしたかいがあったな~、とのんびり言い、また一口お茶をすするみつ。


 でも、あの時私は、アレに惑わされ後ろを振り返ってしまった。

 それでも襲われたのは、おそらく、あの化け物の方。

 何故だったんだろう。あのお守りが、何か助けてくれたんだろうか。

 そういえば、あの子犬を見て、化け物も振り返ったんだっけ。

 そう、みつに聞いてみると、みつは驚いたような顔をしたあと、不思議そうに首を傾げた。


「確かに、謎だねー。おそらく、狼を見た、と認識されたのがあの化物の方、だったんじゃないかなぁ。狼達のテリトリーである林の中なら、狼の方が強いからね。あの狼たちも、アレには恨みがあっただろうから、丁度良かったんじゃない? でもかおちゃん、危なかったね。本当に無事で良かったよ」

「たぶん最後に、みつの言うオオイヌ様、が助けてくれたんだと思う。優しそうな、犬の声を聞いたわ」


 あの時の事を思い出しながらそう言うと、みつは、そっか、と言ってホッとした顔をしていた。あの肉球の感触を少し思い出して、私もちょっとほっこりした。





 次の日。

 事務所にいくと、神棚に高そうなお酒が置いてあった。

 既にいたみつを見ると、笑っていた。なるほど。

 私も、神棚の前で一つ手を合わせ、心の中でお礼を言った。

 少しだけ、優しそうな犬の声が聞こえた気がした。気のせいかもしれないけど。

 もう一度手を合わせ、私は、自分の仕事に戻った。

 平穏な日常が、幸せだと噛みしめながら。




 玉葉くんが居れば、もっと幸せなんだけどな。

 玉葉くんは、まだ帰ってこない。




 おわり。

これにて、本当に終わりです。お付き合い頂き、ありがとうございました。

活動報告にて、書けなかった裏話とかネタバレとかめっちゃ書いてるので、良かったらそちらもぜひw

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