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不思議な事調べます-不破探偵事務所-  作者: 灯流
彼岸の月に咲くは、花か、焔か
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2

「事の始まりは、ウチに若い女性が依頼に来た事だろう。急に消えた恋人を探して欲しい、と。最初は、ただの人探しかと思っていた」


 柿森さんがお茶を啜る。いけない、柿森さんの様子に気を取られて、お茶を替えるのを忘れていた。だが、動ける雰囲気では無いし、柿森さんも気にせず話しを続ける。


「まず不思議だったのは、その恋人が、本当にある日突然居なくなった事だった。買い物に出かけたついでに、何もかも置いて居なくなった、そんな感じだった。目撃証言は全滅。言った事、行った場所、手当たり次第に知らべて、ようやく関係がありそうな、恋人の出身地を突き止めたのが、一週間前。そこから藁にも縋る思いでその地域を調べて、あいつを送り込んだのが、その次の日だ。あいつは、あまり記憶に残るような特徴をしていないから、そういう潜入に向いているんだ」


 確かに彼は、言葉を交わし、少し交流がある私でも、ハッキリと特徴を覚えてはいない。誰かに似てるけど、誰かわからない。そんな感じだ。柿森さんの表情が、翳る。


「あいつが、その村に着いてすぐ、おかしい感じがする、と報告してきた。何かわからないけれど、村の中がやけに静かだと。皆、どこかに出かけているようで、誰にも会わないんだと。そう聞いて、俺も変だと思いもう一度あの村について知らべたんだ。山間(やまあい)の村だから情報が少なくてな、新しく出て来た情報は行った人のブログぐらいだった」


 後悔の念、みたいなものが言葉の端々に見える。柿森さん、大丈夫かな。


「行った人のブログには、小さな村だけど、一面の彼岸花が綺麗だった、と。穴場スポットとして、それなりに有名みたいだ。その名も彼岸寺の周辺に、見渡す限り咲いているらしい。だが、今年は何年かに一度のお祭りで入ってはいけないらしく残念、と書かれていた。そこで、俺がピンときて相談していれば……」


 今度はハッキリ後悔を言葉にした柿森さん。私が何も言えず黙っているとみつが、


「その段階で相談されても、きっと何もわかりませんでしたよ」


 素っ気なくそう言い放った。知っている、それが、みつなりの優しさだと、私も柿森さんも、知ってる。柿森さんは少し微笑んで、続きを話しはじめた。


「とにかく、依頼人の恋人が見つかったわけでは無いから引き続き捜索するように言った。珍しい名字だからすぐ見つかるだろうし、田舎に帰ったなら誰かしら見た人が居るだろう、と。だが、何の情報も無く日にちが過ぎた。動きがあったのが、3日前。ついに、見つけた、と。その直後、連絡が取れなくなった。電話は通じない、メールも返信無し。そんな事は今までなかったんだ。明らかに、おかしい」


 柿森さんは、目の前で組んだ指をじっと見ていたが、心は違う所を見ているようだった。


「ケータイが壊れて、連絡が取れないだけの可能性は?」

「無い。あいつは、定時連絡だけは、キチンとするやつだ。誰かに借りるなり工夫して、連絡してくる」

「そうですか。では、連絡できない何か、が起こっているのは間違いなさそうですね。それで、さっき言っていた一週間のリミットは何なんです?」


 みつのその問いに、また柿森さんの瞳の奥が光った、気がした。


「それだよ、みつ坊。俺が賭けているのと危惧しているのは」


 柿森さんは、また茶をすすり、みつを見た。


「ブログに、何年かに一度の祭り、というキーワードがあったのは覚えているか。その祭りというのが、割とヤバいモノらしいんだ。それこそ、生贄を捧げるといった野蛮な方でな」


 ぶるり、と背中が震えた。みつが、何かを察して私を心配そうに見た。私は、大丈夫という気持ちを込めて頷いたら、みつはちょっとホッとした顔をしていた。


「それ、どこで知ったんですか?」

「その村の出身者で、依頼人の恋人がそこで生まれた事を教えてくれた人だ。ずいぶん昔にその村を離れたそうだが、そういう祭りがあるというのを覚えていた」

「ふぅん? ちなみに、その村の名前は?」

「はしばたむら」


 みつが、ピクリと頭をもたげた。かと思ったら急に立ち上がって、いつも読んでるあの怪しげな雑誌のバックナンバーがうずたかく積み重ねられた場所に向かい、何かの号を探しはじめた。平積みしているから、あれは倒れるだろう。そう思って立ち上がった時、やった。バサー!とタワーが崩壊し、雪崩がおきた。

 やれやれと片づけに向かうと、みつは崩れた雑誌をかき分け、手に取り、中身をパラ見した。と、それを何回か繰り返し、お目当てのモノを見つけたようだ。私は、崩れた雑誌の片づけを諦め、ソファーに戻るみつに続いた。


「柿森さん、これ?」


 そう言ってみつが、雑誌のあるページを開き、渡した。細かい文字でビッシリ文字が書かれている。柿森さんはそれにざっと目を通し、読み終わったのか、顔を上げみつを見た。その顔には、信じられないといった表情が出ていた。


「みつ坊、これは」

「たまには、こういうカストリ雑誌も役立つでしょう」


 みつが、にやぁと笑った。その顔、やめた方が良いと思うよ。


「ねえ、その、はしばた村?っていのが、そのく……雑誌にのってるの?」


 くだらない、と言いかけてつぐんだ。みつも面白くなさそうに読んでたけど、有用な情報があった雑誌みたいだから、失礼よね?

 みつが、柿森さんから雑誌を受け取って、渡してくれた。


「それに書かれてるのは、ほぼただの想像と妄想だよ。だけど、その塵芥のほんの一粒に、有用な情報がある時があるんだ。たとえば、その村の祭りの事とかね」


 苦笑しながら渡してくれた雑誌を受け取り、そのページを軽く読もうと視線を落とした。落としたが……読めない。文字が読めないわけではない。書いてある内容が、読めない、読みたくない、無駄な気がするのだ。よくこんなもの読めるな(本音)


【恐怖! 現代に残る奇祭、その真相、そして彼岸花の意味とは!】


 タイトルは、うん、まあ、読める。むしろ、ちゃんと興味を煽ろうとしている様がわかる。が、その次の文書から、もう、いろいろ出鱈目過ぎて読めない。地底人とかUFOとか、日本神話とか出て来たけど?

 私が冒頭を、はてなをかかげながら読んでいたのが分かったのだろう、みつが困ったように笑っていた。


「かおちゃん、ココ」


 みつが、身体と顔を近づけ、私がもつ雑誌のある個所を指さし、つーッとなぞった。その指の動きを追う。


『村の外界には決して漏らしてはならない祭りが、このH村にはあるという。それは、大地に生贄を捧げ豊穣を祈る為の祭りという。大昔、飢饉にあえぐ村人達に旅の行者ぎょうじゃが教えたすべだと語り伝えられているが、現代日本においてはただただ常軌を逸した祭りであり、最近は人形を用いるそうだが、奇祭には違いない』


 みつが指を離すが、私は次の文をまだ追っていた。


「……さらにこのH村だが、以前大規模な山崩れが起こりそれによる死者を弔う祭りも同時に行うという。彼岸花も、その死者たちを弔うために植えられたらしく、一面に花を咲かせている。なおこの彼岸花だが、十数前の大火で祭りを執り行う氏子達も減ったそうで、花の管理も行き届かず最近は枯れたままなのが目立つという」


 更にこの次の文には、この山崩れを起こしたのは太古の神、すなわちUFOに乗った宇宙人の怒りにふれたためだろう、と書かれていた。あたま、いたい。

 私の横で、指を離したみつがふふっと笑う気配がして振り向く。

 近くて驚いた。

 私の雑誌を指させるぐらいだから近くに居るのはわかっていたが、こんな、吐息が聞こえる程近いとは思ってなかった。肩と肩どころか、顔と顔が近い事にビクッとしてしまった。

 それに気づいたみつが、乗り出した身体を、自分の座るソファーの中へ戻した。その顔は、いつもと変わらないゆるい顔。びっくりしてドキドキしたのは私だけですか、そうですか。

 少しだけ息を吐いて、みつに雑誌を返す。ふと、雑誌を閉じる前に見えた、生贄、飢饉、の文字。また、ぶるりと背中が震えた。だが、みつには気づかれず返せたようだ。

 みつは私から雑誌を受け取ると、自分の机の方に向かてポイっと投げた。全く、行儀が悪い。

 そんな私達の様子を、深刻そうな顔をしていたハズの柿森さんが、微笑ましげに見ていた。なぜ?


「そんな見た事もない雑誌に、俺たちが昼夜を忘れて探した情報が乗っているなんて、世の中広いな」

「いや、案外狭いかもしれませんよ。この雑誌にリークした人と、柿森さんが見つけた人、同じかも」


 まさか、と柿森さんが苦笑していたけど、みつは否定も肯定もしなかった。


「まあ、それには書いてなかったが、その祭りが執り行われるのが、彼岸中の満月の夜なんだそうだ。今年が、それにあたる。そして」


 柿森さんが、気遣うように私を見た。少し、覚悟して、次の言葉を待った。


「生贄が捧げらるのが、その時なんだそうだ」


 少し覚悟していたけれど、その言葉に、何とも言えない恐怖がつのる。きゅっと目を閉じた。


「つまり、嶺川もソレに巻き込まれていると考えているんですね」

「ああ」

「そして、その事態を引き起こしたのが、超常的なナニかだと思っている」

「ああ」


 横で、みつと柿森さんの会話が進む。きゅっと閉じていた目を開く。真面目な顔をした柿森さんと、横を見ると面倒くさいなあという顔を崩さないみつ。


「……わかりました。準備を整えたら、すぐにでも探しに行きますよ」


 言い終わると、みつは深く深くソファーにもたれかかった。普通の依頼人に対するように、面倒臭いが隠しきれない、態度。全く。


「ああ。頼む。これは、前金だ」


 柿森さんが、机の上にぶ厚い茶封筒を出し、みつに向かって差し出した。そんなには頂けないのでは。心配しながらみつを見ると、みつはうってかわって真面目な顔で、その差し出された茶封筒をつき返した。


「この件で、昔の借りはチャラです。嶺川?を見つけられるか、助けられるか今のところ未知数ですし」


 柿森さんはみつのその言葉を聞き、いつもの、みつをからかって遊ぶ柿森さんの顔になった。


「律儀だねえ、みつ坊。そんな昔の話。とうに返してもらったと思ってたんだが、返してくれるというなら受け取ろうじゃないか」


 みつは頬を膨らませ、視線を逸らした。柿森さんは、今日やっと、笑顔を見せたのだった。

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