主の力
「そんなこと、できる?」
「手伝ってあげるよ。でも、うーん、タイミングがわからないなあ。あんた、いついくの?」
わけがわからない私でも、これだけはわかった。みつ、酷い。いつ死ぬのって聞くようなものだろう、人ではないとはいえひど過ぎる。だが、彼女は動じた様子もなく、
「たくさんさいたら、いつでも」
静かな声でそう言った。
「うーん。困ったなあ。いつになるかわからないないなんて、面倒くさいなあ。今日だと時節的にも丁度いいんだけどなぁ~」
みつのやる気がそがれてる。困ったな、どうしよう。
私が困っていると、いままでお利巧に座っていた玉葉くんが、私の足元に来た。
「ねえ、桜の花が咲かないから、困ってるの?」
首を傾げながら、無邪気に聞く玉葉くん。私はかがんで玉葉くんを撫でながら、
「かいつまんで言ったら、そうなのかも。ねえ、みつ。この桜が満開になったら良いの?」
「まあ、そーだねー」
玉葉くんを撫でながらみつを見上げる。みつは緩くそう答えた。すると、玉葉くんがすっくと立った。
「それなら、僕役に立てると思うよ」
「どういう…?」
玉葉くんはそう言うと、私の言葉も待たず、桜の樹の幹に近寄った。そして私達が見守る中、その小さく長い鼻先をそっと樹の幹に当てた。すると、上の方から異変を感じた。ハッとみつと同時に振り仰ぐと、そこには、
「さ、桜が、咲いてる」
先ほどまで二分咲きだった桜が、四分咲き程までになっていた。いくら今日が暖かく日差しがあるとはいえ、この展開は急すぎる。
だが、この光景に既視感があった。そう。樹がまるで早回ししたように変化していく、この現象を。あの山で。
「玉葉くん……これ、あなたが」
「うん」
私の震えた声には気づかず、玉葉くんが鼻先を樹から離して振り返った。その声と表情は、どこか誇らし気だ。みつを見る。みつもまた、戸惑っているようだった。
「うわあ! 凄いねえ! 手品かい」
そのなんとも言えない雰囲気を壊したのは、どこか能天気そうな男性の声だった。男性にも、桜が早回しのように咲き始めたのが見えたのだろう。
「手品じゃないよ! もらった主の力だよ!」
今度は本当に誇らしそうに鼻を鳴らした。そうなんだ。私は、あの山腹で何があったのか詳しくは知らない。だけど、優斗を狙っていた主を倒したのは、玉葉くんだという。その時なにがしかを主から受け継いでいてもおかしくないのだろうか。それを玉葉くんが誇らしそうにしているという事は、悪いものではないのだろう。
「なんだいこの狐、すごいねえ。君たちが仕込んだのかい」
「だから、違うってー!」
「あの、違うの。このこは……えーと」
「ああー! 話が進まないよーー!」
私たちのわたわたに苛立ったみつが、大声を上げた。それで少しびっくりしてみんな止まった。
「そこのあんた! 喜べ! 消さずに成仏させてやる! ただし、この桜の命と引き換えだ!」
びしっと人差し指をさして、みつは男に言い放つ。相当イラっとしたようだ。まるでセリフが悪役なのも気づいてはいまい。
指さされた男性は、これまたビクッとしたようだが、
「いや、それはだめだ。この桜は咲くためにいるんだから。僕の為に死なすわけにはいかないよ」
決意を込めた口調で返事した。違うの、みつの言葉選びが間違ってるだけなの。はっきり理解できてない私が誤解を解こうとあわあわしていると、みつの眉間の皺が深くなっていた。これは不味い。実力行使でやるか、消してしまう気がする。
「みつ……」
みつが何か唱えようとしているのを止めようとした、その時、
「止めて」
ふわりと音もなく、華憐な女性が降りてきた。あの、枝の上にいた、桜色の女性だ。ふわりと降りてきた時と同じく、ふんわり地面から少し浮いている。わお。
「なぁに」
その桜の精といわれている女性は、みつの手をふんわり止めるようにかぶせていた。みつの顔を見上げて、ふるふると首を振った。
「わたしはいいから、この人を、助けてあげて。ずっと、見てたの」
その華憐な仕草は、庇護欲を誘う。庇護欲が沸いたわけではなかろうが、みつは眉間にしわを寄せたまま、それでもいったん止まった。
「……この桜は、あんたを助けたいそうだよ」
みつは不機嫌そうな顔のまま女性を見、男を見た。男は、気味悪そうに黙っていたが、首……を振るかわりに身体を揺らした。怖いから! 止まったままのビジュアルに少し慣れただけだから! 動かないで!
玉葉が食べたのはエネルギーだけじゃなかったという




