遭難のち遭遇
みつは、大きめの道から逸れ、どんどん地元の人しか通らないような小道に入って行った。
すごいな、ちゃんとこんな道を把握していたのか……と思って感心していたら、
「……あれ?」
急にみつが立ち止まった。
「どうしたの?」
私が聞くと、みつはゆっくりと私を振り返り、
「えっとね、うーん。迷っちゃったみたい?」
そう言って、こてんと小首を傾げた。かわいくないし。やめて。
呆れたように私が眉を寄せると、慌てたように弁解し始めた。
「違うんだよ、ちゃんとこの道で合ってるはずなんだけどぉ。おかしいなあ、目印が見つからないんだよねー」
呆れてモノが言えない。おおかた道を間違えて覚えてしまったのだろう。
もうすうぐ夕刻。日が暮れてしまう前に宿に着きたい。
「みつ、目印って何? 宿の名前は」
「えーと、宿の名前は民宿 山幸彦で、目印が大きな松の木らしいんだけどー」
海の民宿なのに、山幸彦とは珍しい屋号だな、と思ったがそれどころではない。
みつはうんうん唸りながら、バックの中を弄っている。地図でも探しているんだろうか。みつが頼りにならない以上、自分で道を切り開くしかない。
私はあたりを見回し、地元の人がいないか探した。運よく、一人の少女を見つけることが出来た。白いノースリーブのワンピースを着た、髪の長い綺麗な少女だ。あんな軽装で荷物も持っていないなら、地元の子供だろう。そうあたりをつけ、私はその子に歩み寄り、話しかけた。
「こんにちは、お嬢さん。ちょっと聞きたいんだけど、このあたりで山幸彦って民宿知らないかな。大きな松が目印らしいんだけど。私達、迷っちゃって」
少女は、ビクッと私を見た後、驚いた顔をした。なんだろう、観光客って珍しいんだろうか。見れば見るほど、可愛らしい子だ。肌なんてこの真夏に透き通るほど白い。
その子は、戸惑っていたようだが、おずおずと左の道を指差した。その道をゆけば宿があるのか。
「ありがとう」
私がそうお礼を言うと、その少女はまた驚いたような顔をした後、少し笑って向こうへ走って行ってしまった。笑うともっと可愛いのに。私はそんな的外れな事を考えながら、みつのもとへ戻った。
みつは地図を探し出せたようだが、まだうんうん唸っていた。
「おかしいなあ。ここに着く筈なんだけどなあ」
「みつ、道を教えてもらったわ。行きましょう」
「えっ、本当、かおちゃん! すごいね」
「地元の子に教えてもらったのよ、ほら、あっちだって」
そう言って、私があの子に教えてもらった道を指差すと、みつはますます怪訝な顔になった。
そんな顔をしても、迷ったのはみつなのだから。
今度は私が問答無用で歩き出した。
「あ~待ってよ、かおちゃん~」
そう情けなく言いながらも、みつが険しい顔で後ろを振り返っていたことを、私は知らない。




