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登山道(三合目~中腹)





 薫と別れて、一行のスピードは上がった。

 特に無駄話をするわけでもなく、みつを先頭に黙って歩く。

 みつは、手のひらに収まる小さな平たい板に方位針が乗った物と行先を交互に見ながら、確かな足取りで先を歩いている。

 目的地は、みつしかわからない。


 もう、中腹近くまで来た。高い山ではあるのだが、本当に険しいのは頂上付近だけであるという。

 そして玉葉は、その中腹の少し先の方にいるらしい。

 中腹は、少し開けた広場のようになっており、簡素な屋根の下にベンチや机があり、ここでひと休憩できるようになっていた。本当なら、この見やすい場所で待っててほしかったのだが、かおちゃんの体力がもたなかったのなら仕方ない、みつはそれだけ思うと広場を通り過ぎ、さらに険しくなっていく道に躊躇なく足を踏み入れた。

 その様子に慌てたのは、むしろよしのだった。


「ちょっとォ。鷹也クンもいるよォ、休憩しないの」

「さっきしたデショ。鷹也、きみはどう? 行ける?」


 心配そうに振り返るとよしのと、何らかの確信があって振り返るみつを見返して、鷹也はしっかりした口調で、


「大丈夫っす。俺よりも、弟が心配だから」


 そう言った。その言葉に、何故かみつは満足そうだった。


「だって。ほら、先を急ぐよ。玉葉をさっさと回収して優斗を探さなきゃ」


 みつはそう言うと、本当にさっさと先陣きって歩きだした。その様子に呆れたようなよしのだったが、黙って後ろにつく。そしてその後ろに鷹也。ふと、思い出したようによしのは鷹也を振り返った。


「無理そうなら言うのよォ。まだ体が出来上がってないンだから」

「うす」


 ぶっきらぼうだが、返事をする鷹也。よしのは振り返ったまま尋ねる。前を見ないでもコケるどころか躓かないのは、さすがというかなんというか。


「ねェ、あなた弟くんを探しているんでしょう。おうちの人はどうしたの?」


 鷹也は、その質問には無言で答えた。

 いっこうに口を開かない鷹也を見て、よしのは困ったように眉を寄せた。


「うまく、いってないのね。あの話は本当だったのね……」


 ぼそりと呟くよしのの言葉に、鷹也は訝しそうに顔を上げた。


「あの話って、なんスか」

「ううん、こっちの話よ。……ねェ、もし、もしもよ」


 そこで言葉を区切るよしの。怪訝そうな顔で次の言葉を待つ鷹也。よしのは、真剣な顔をして鷹也に問うた。


「あなた達を、引き取りたいって人が居たら、どうする」

「はっ?!」


 鷹也のその素っ頓狂な声で、みつまで振り返った


「なに、何かあった?」


 みつの言葉に、鷹也は何も言えずに首を振った。よしのが、取り繕うように笑顔を向ける。


「何も無いわよゥ。それより、玉葉ちゃんは見つかったのォ」

「もうちょっとだよ。主に見つかると面倒だから、静かにしててよね」

「はァ~い」


 みつは胡散臭そうな顔をよしのに向けていたが、何も言わずまた前を向いて歩きだした。みつが完全に前を向いたのを見て、よしのはチラッと後ろを振り返り、


「今の話、覚えておいてね」


 そう言ってウインクした。鷹也は、何も言えず、黙って下を向いた。






 ふいに、みつが立ち止まった。


「どうしたのよォ」

「……こっちだ」


 みつは、掌の上の板と方位針を見、次いで山道の横の木々の間を見ていた。


「道を逸れるの? 危険よゥ」

「でも、こっちだって示している。行こう」


 そう言うとみつは、なんの躊躇いもなくその獣道すらない方へ歩き出した。

 思わず顔を見合わせるよしのと鷹也。


「ンもう、仕方ないンだから! 鷹也クン、私が枝を折って道しるべを作るから、もし何かあったら、これを辿って道に戻ってくるのよォ」


 見た目と口調はあれだが、真面目に心配してくれているのがわかったのか、鷹也はこくりと頷いた。こんな山の中で、道なき道に踏み入れる事に恐怖心はあるが、そんな事を言っている場合じゃない。弟の方が、もっと怖い思いをしているハズだから。自分を叱咤するように、鷹也はもう一回力強く頷いた。そんな鷹也を苦笑しながらみていたよしのだが、みつがどんどん先に行くのを見て、慌てて後を追った。肩の高さぐらいの枝を折りながら。


「ちょっとォ、待ちなさいよォ」

「遅い」

「無茶言わないでよォ。こっちはアンタが何処に行くかわからないのに」


 みつは、よしのの泣き言にぷいっとそっぽを向いて、また歩き始めた。

 なるほど、これがあの子が言ってた、危なっかしい、か。よしのはそう一人納得した。確かに、危なっかしい。自分を守ろうとしない人間は、何をしだすかわからず、見ている方の肝が冷える。全く、面倒なことを押し付けられた、と思いながらよしのは苦笑していた。

 そんなよしのを意にも介さず、みつはどんどん奥に進んでいく。山道から外れたその場所は誰も通らず舗装されいていないが、木々が高いために日光が遮られて低い草が生い茂らず、今は少し赤く色付いた木々の葉っぱが地面の土を隠している。木の根や凹凸はあるが、そこまで険しい場所ではないのが幸いした。


「うーん、この辺のハズなんだけどな」


 みつが、少し開けた場所で立ち止まり、周りをキョロキョロしだした。完全に立ち止まったところから、この辺が目的地だったようだ。つられて、よしのと鷹也もキョロキョロするが、何も見えない。

 鷹也が、居ても立っても居られないという風に、あたりを見回して、口に手を添えた。


「優斗ー! 優斗、どこにいるんだー! 優斗ーーー」


 みつが慌てたように鷹也を見るが、時すでに遅し。鷹也は、必死に優斗の名前を呼んでいた。

 やめさせようとみつが、鷹也の肩に手を置いたとき、近くでガサッと音がした。しまった、もう主に気づかれたのかと、慌てて振り返ったみつの目に映ったのは、


「にいちゃ…?」

「ほら、来てくれたよ」


 大きな三尾の金狐と、寝ぼけまなこをこする、小さな男の子。

 みつに肩を掴まれて一拍遅れて振り返った鷹也は、その姿を認めるとみつの手を振りほどいて、その男の子に駆け寄った。

感動の再開。薫がいたら泣いてる(確信)

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