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一人の探偵と一人の助手

成人女性二人による毎日の茶番

 



 カラン、コロン


 軽やかな鐘の音。

 それは、怪しい事が起こる始まりの合図。

 今日も今日とて、不思議な探偵事務所に、依頼人が訪れる音。



 

『不思議な事調べます。不破探偵事務所』





 とあるこぢんまりしたビルの二階から、女性の声がする。


「--先生、もうお昼ですよ。そろそろ起きてください」


 真面目そうな女性の声だった。

 細く四角い銀縁のメガネをかけ、ピシッと紺色のスーツを着、黒髪を後ろで一つに束ねてバレットで上向きに止めているその姿は、まるで銀行の窓口にでもいそうないでたちであった。つり目具合がより生真面目さ、ともすればキツさを滲ませる。


「え~? メンドイ~」


 それに対応するのは、間延びしたゆるやかな女性の声。面倒くさそうな声色に、真面目そうな女性の眉間がヒクッと寄る。声をかけた彼女は、大きな窓際にある、質の良さそうなラグジュアリー感漂う椅子に深く深く体を預け、上を仰ぐ顔には雑誌が両開きで乗っている。寝ているのか起きているのか見ただけでは判断が難しい。

 その反応が気に入らなかったのか、真面目そうな女性は荒々しくツカツカとその女性に近寄った。


「先生っ。いつまでそうしてるんですか、起きてください! お客様が来たらどうするんですかまったく」


 そう言って、女性の顔の上に広げてあった怪しげな雑誌をバッと取り上げた。黒に縁取られた赤と黄色の警戒色でデカデカと『雑誌パンゲア 不思議を紐解く超大陸!』と書かれており、いかにもくだらない本だった。

 顔に乗せ日よけにしていた雑誌を取られた、ゆるい声を出していた女性は、わわわっ! と慌てた。


「まっ、眩しい! かおちゃん、ヒドいっ」


 バッと腕を目の上に被せて、光を避けるような仕草をする。

 かおちゃん、と呼ばれた女性はその様子を呆れたように見下ろした後、腰に手を当て、


「せ・ん・せ・い! いい加減起きてください! 閑古鳥が鳴いてるとはいえ、いつ依頼人がくるかわからないんですからね」


 少し声を大きくして、怒った。

 下から覗きこむのは、困ったようなバツの悪そうな、たれ目。ウルウルしたたれ目と、成人女性には珍しく高い位置で括られたツインテールがうなだれた犬耳のようにもにも見え、雨にうたれたゴールデンレトリバーのような哀愁を誘う雰囲気であったが、真面目そうな女性は全く動じない。

 ぷぅと頬を膨らませたが、たれ目の女性は仕方なく上体を起こし、真面目そうな女性を見た。


「でもかおちゃん、この間みつ頑張って解決したんだよぅ。もう少しのんびりしててもよくない?」

「世の中の勤め人が聞いたら憤死しますよ、不破ふわ みつ先生! 探偵で客商売なんですから、もっとしゃんとして下さい。もしかしたら、もう依頼人の人が来てるかもしれないんですよ、そういう」


 カラン コロン


 気概で、と続けようとした女性の言葉にかぶさるように、軽やかな鐘の音がした。

 それは、この事務所の入り口の鐘の音。

 この閑古鳥が鳴く少々変わった事務所に、依頼人が訪れた合図。

 一人はバッと、一人はちらりと、振り返ったその目に映る人影。


「ようこそ、不破探偵事務所へ」


 今日もこの怪しい探偵事務所に、怪しい依頼が、やって来る



 



次からは、真面目な助手の一人称視点になります。今回だけ三人称です。

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