英雄の勇姿
火を司るサラマンダーは、轟々と燃える火のような赤い髪と瞳を持ち、自由自在に火を操った。
厳しい冬には薪がなくとも国中の家の暖炉に火を灯し、人々の身体を暖めた。サラマンダーは己の感情に忠実で、感情の起伏が激しく気難しい人間だったが、その素直で裏表のない性格が国民に愛された。
水を司るウンディーネは、静かに流れる水のような青い髪と瞳を持ち、自由自在に水を操った。
時には荒れ狂う海を鎮め、航海に出た男達とその帰りを待つ女達を勇気付けた。ウンディーネは口数の少ない寡黙な人間だったが、その美しい容姿とさり気無い優しさに心惹かれる者が多くいた。
風を司るシルフは、ゆるやかに吹く風のような黄金の髪と瞳を持ち、自由自在に風を操った。
唯一の女性であるシルフは穏やかで優しかった。彼女は争いを嫌い、力を武器として使わなかった。どんなに大きな争いも風だけで制し、怪我人を一人も出さなかった。そんな彼女を慕う人間は多く、また彼女も周囲の人間を愛していた。
地を司るノームは、雄大に佇む森のような緑の髪と瞳を持ち、自由自在に地を操った。
彼の力は絶大だった。地と地に属するものを操ることができ、もし彼がそう望むならどんな植物も育てることができただろうし、どんな地形も作れただろう。しかし彼は自然の摂理を重んじ、己の力をいたずらに使ったりはしなかった。人々はそんな彼を理解し、動物達は彼を崇めた。
サラマンダーとウンディーネは性格は異なるものの、実に相性が良かった。互いの力を認めており、唯一無二の好敵手だった。
幼少の頃、力を抑えきれなかったサラマンダーを助けたのは、火を凌ぐ水の力を持つウンディーネだけだった。それ以来二人は切磋琢磨しながら力を磨いてきた。
そしてシルフとノームは誰もが羨むほど仲睦まじい恋人であり、互いに絶対の信頼を寄せていた。
二人は密かに自分の力で誰かを殺してしまうことを恐れていたが、その苦しみを分かり合える唯一の相手を得たことで、二人は力を受け入れることができた。
またサラマンダーとシルフは異なる力を持ちながらも、兄と妹という濃い血の繋がりを持っていた。
そしてこの二人は己の力だけでなく、一族の力もあった。サラマンダーはフェニックスという不死鳥を、シルフはシムルグという不死鳥を幼い時から従えていた。