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最終話

 王子たちが森にやって来たのは夜でした。夜空にはビーズを縫い付けたように星が煌めいています。月は黒い森を静かに見下ろしていました。

 しかし、リンデンの森の小さな家の周りだけは、昼間のように明るく照らされておりました。エルヴィン王子に少し遅れて現れた、隣国の兵士たちが燃える松明を手にぐるりと取り囲んでいたからです。


 王女は憧れていたエルヴィン王子が現れたのに、何故か嬉しいとは思えませんでした。

 剣先をルーカスに突き付けている王子を恐ろしいとさえ思いました。


 ルーカスは剣を突き付けられ、兵士にぐるりと取り囲まれながらも涼しい顔をしています。ルーカスは、肩に乗せた王女を手の平の上に乗せると、王子に向けて凛とした声で言いました。


「貴方の探しているサラ王女は、こちらです」


 王子は、ルーカスの手の上にいるオレンジ色のトカゲを一瞥して、鼻で笑いました。


「ふん。それがサラ王女だと? 笑わせるな」


 ルーカスは厳かに告げました。


「貴方がもしサラ王女の真実の相手であれば、この呪いは月の光に溶けて消えるでしょう」

「呪いだと? ふん、お前がリンデンの森の魔法使いか」


 エルヴィン王子はルーカスを見据えると、憎々しげに言い放ちました。

 ルーカスはその問いには答えませんでした。ただ静かに王子の目を、心の中を見通そうとするかのように見つめています。その様子に、王子はますます怒り、酷い言葉を投げつけました。


「そんな嘘、誰が信じると思っているのか! お前はこの森に入った人間を次々と食い散らかしているのだろう。サラ王女も食ったのか」

「嘘かどうか、キスしてご覧ください。もし貴方が王女の真実の相手ならば、彼女は元の姿に戻ります」


 あまりにルーカスが冷静な態度で真剣に同じ言葉を繰り返したからでしょうか。王子はとうとう馬から下りてきました。そして、ルーカスからそのオレンジ色のトカゲを手渡されると、片手にトカゲを掴み、嫌そうな顔をしながら恐る恐るトカゲに口づけをしました。


 ……しかし呪いは解けません。

 騙されたと怒った王子は、掴んでいたトカゲを後方に放り投げ、ルーカスに向かって剣を振り下ろしました。

 その時、王女の悲鳴にも似た叫びが森の中に響き渡りました。


「やめてーーーー!!!」


 投げ飛ばされた王女は、柔らかな木の葉のクッションに包まれ怪我をする事はありませんでした。そして、今にもルーカスが王子に斬り付けられるという事になった時、王女は大きく息を吸って叫びました。すると、その口から身体の大きさからは想像も出来ないような大きな炎が吹き出し、王子の身体を焼きました。王子を助けようとする兵士も、火を吹くトカゲを討伐しようと向かってくる兵士も、王女が吐き続ける炎に包まれてしまいました。


「もうやめてください」


 ルーカスが王女を抱きしめて、怒りにまかせて炎を吐き続ける王女を止めました。


 そしてルーカスは、息も絶え絶えになっている王子と兵士たちに、あの不思議なお茶を急いで飲ませました。すると、焼け焦げ酷い火傷に覆われた傷がたちまち奇跡の様に治っていくのでした。

 王子たちが喜んだのも束の間、王子たちの身体はみるみるうちに小さくなり、緑色の小さな蛙になってしまいました。王子たちは、ケロケロと鳴くと泉に向かって飛び跳ねていきました。


「不思議だわ。王子たちも、小鹿の兄妹も、ふくろうのおばあさんも人間の言葉は話さないのかしら」

 

 王女は蛙が飛び跳ねて遠ざかって行く様子を見守りながら言いました。


「私にとっては、貴女が人間の言葉をお話しになる方が不思議だったのです。このお茶を飲むと、心や身体の傷は癒えますが、呪いにより姿を変えられ、人間だったことを忘れてしまうのですよ。……彼が真実の相手でなくて残念でしたね」


 ルーカスは、王子たちの命を助けたにも関わらず、やはり王女の目には傷付いて見えるのでした。

 王女にはもう真実の相手が誰なのか分かりかけていました。そこで、王女は勇気を振り絞って言いました。


「あなたはわたくしの呪いを解いてくださらなくてはなりません」


 王女はそっと目を閉じました。

 ルーカスは両手の上に乗せた王女の唇にそっと口づけをしました。

 

 すると、月の光が銀色の粉となって王女に降りかかり、キラキラとした光で包み込みました。その光の中で、王女の姿はトカゲから元の美しいサラ王女へと変わるのでした。


「父王様が待っていらっしゃるそうですよ。お帰りになりますか」


 ルーカスが問いました。

 

「いいえ。わたくしは貴方と一緒でなければ、国には帰りません。ルーカスと共にいたいのです。貴方はわたくしを助けて下さいました。この森を訪れる疲れた人々も同じように救って来たのでしょう。でも、人間であり続けることが辛くなっても、呪いをかけてしまうことが本当の救いなのでしょうか。わたくしは貴方が呪いをかける度、貴方自身が傷付いているようにしか見えなかったのです。わたくしは貴方をこれ以上、悲しませたくはないのです。ですから、わたくしと一緒に……」

「それ以上言ってはなりません」


 ルーカスはサラの花びらの様に麗しい唇の前に人差し指を一本立てて、言葉を遮りました。そして、王女の前に片膝立てて跪き、王女の手をとると、その手の甲にそっと口づけしました。

 

「サラ王女……私と結婚して頂けますか」


 呪いが解けたサラ王女はルーカスと共に、王宮へと戻りました。

 そして、ルーカスはサラ王女と結婚し、二人は末永く幸せに暮らしました。


(完)


サラ王女だからサラマンダー(火吹き竜)なんちゃて。ちょっぴり遊び心を入れてみました。気付かれた方いらっしゃったでしょうか(笑)

最後まで読んで下さりありがとうございました。

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