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第5話

 森の小さな家まで帰ってくると、ルーカスは兄妹に食卓テーブルの椅子を勧めました。

 ちょこんと椅子に座った兄妹は、互いの顔を見て不安そうにしています。

 王女はその様子を、食卓テーブルの上に座って見ておりました。もう籠に入れられ、目隠しをされることはありませんでした。

 ルーカスは、摘んできた木苺を洗い、砂糖と一緒に鍋に入れました。それをグツグツ煮込みますと、甘い匂いが家じゅうに広がりました。煮込んでいる間にルーカスは、暖炉の火を使ってパンケーキを焼きます。王女が王宮で食べていたような乳も卵もふんだんに使ったふんわりと厚いパンケーキではなく、クレープのような薄いパンケーキでした。

 それでもお腹を空かせていたのか、兄妹は薄いパンケーキに木苺のジャムをたっぷり乗せたものを、それは美味しそうに食べました。

 王女もルーカスに一口大に切り分けてもらったパンケーキを両手で持って食べました。

 兄妹のお腹がいっぱいになると、ルーカスはまた、兄妹にどうしてこの森に来たのかと訊ねます。

 兄妹はまた顔を見合わせると、兄が先ほどよりも警戒心の和らいだ顔をして話し出しました。


 ――兄はアンリ、妹はユーリアと言いました。12歳と7歳の兄妹でした。兄妹の両親は、ユーリアが5歳になった冬、流行り病で突然帰らぬ人となりました。兄妹は親戚の伯父さんの家に引き取られましたが、それは兄妹にとって幸せなことではありませんでした。

 朝は家畜の世話に始まり、食事の準備、掃除洗濯と二人は毎日休む間もなく用事を言いつけられます。食事は伯父さんたちが食べた後の残飯と薄いお湯のようなスープだけでした。それでも二人は行くところがなかったので、唇を食い縛り涙を堪えておりました。不憫に思った伯父さんの家の使用人のおじさんが伯父さんの目を盗んで時折分けてくれる甘いお菓子が二人の唯一の楽しみでした。

 そんなある晩、アンリは伯父さんと伯母さんが寝室で話しているのを、細く開いたドアの隙間から聞いてしまいました。

 それは、アンリとユーリアを別々のところに売ってしまおうという話でした。これまでは、兄妹一緒でしたので、どんなことがあっても頑張れたのです。アンリはこっそりと寝室から離れると、台所の床で寝ていたユーリアを起こし、伯父さんの家を飛び出しました。

 どこをどう走ったのか覚えていません。ただ伯父さんの目に付かない様にと街を離れ、遠くを目指しました。お腹が空いて喉が渇いても、二人はしっかりと手を繋いで歩き続けました。そして、リンデンの森へと着いたのです。いえ、二人はリンデンの魔法使いのお話は母から聞いておりましたが、ここがそうとは知りませんでした。身を隠し、食べ物が見つかるかも知れないと、それだけを思って森に足を踏み入れたのでした――。


 事情を聞くと、ルーカスはまたあの不思議なお茶を淹れました。

「それは大変でしたね。よく妹を守って、頑張りましたね」


 穏やかな声でルーカスが兄妹を労わると、アンリはわんわんと泣き出しました。

 ルーカスはアンリとユーリアをまるで父親がするようにギュウっと抱き締めました。

 ひとしきり泣いて落ち着くと、兄妹はルーカスの淹れたお茶を飲んでしまいました。

 そして、兄妹は2頭の小鹿となって睦まじく森へ駆けて行きました。

 

 小鹿となった兄妹は、森の中でいつまでも二人で仲良く暮らすのでしょう。森の中には、喉が渇いた時には泉が渇きを潤してくれますし、お腹が空いた時には木の実や草や果物が二人のお腹を満たしてくれます。

 ふくろうとなった老婆も、足の痛みなど気にせず大きな翼が好きなところへ移動させてくれるでしょう。お金がなくても、森には食べる物がたくさんあるでしょう。木もたくさんあるので、住む場所にも困らないでしょう。


 でも……。


 王女は、本人達に何も言わずお茶を飲ませて呪いをかけてしまうルーカスに、言葉にならないもやもやとした気持ちを抱いてしまうのでした。




 そんなある日、隣国の第2王子がリンデンの森にやってきました。

 第2王子の名前はエルヴィンと言いました。白馬を駆け、森を揺るがせながら踏み入って来たのです。


 王子が森にやって来たのには訳がありました。王女の父王が王女を見付け出し王宮へ連れ帰ったものと王女を結婚させ、国を継がせるというお触れを出したからです。

 第2王子は、自分の国を継ぐことは出来ません。そこで、隣国のサラ王女と結婚しようと世界中を捜しまわり、ついにリンデンの森へとやって来たのです。


 王女をリンデンの森へと追いやった王妃は、その後、色んな人を思うままに操ろうとして裏切られ、贅沢をして国庫を私欲の為に使った事も明るみに出て、王によって処刑されたのでした。

 王位継承権第1位の王子も処刑は免れましたが、幼い身でありながら修道院に送られたのでした。


「ここにサラ王女は来ていないか。隠しだてすると只ではおかんぞ」


 突然現れたエルヴィン王子は、腰に下げた装飾が美しい鞘から細身の剣を抜き、その刀身をルーカスに向けました。

 ルーカスの肩にはオレンジのトカゲに身をやつしたサラ王女がおりました。



王女が夢見ていた結婚相手のエルヴィン王子がサラ王女を迎えに来ました。

サラ王女の呪いは解けるのでしょうか……。


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