アル・ガイア
予告編みたいなものです。本編は後日掲載します。
今はおやすみなさい。
いつか目覚めるとき、あなたはきっと必要とされる。この地上で、この大地で、もう一度歩き出すことになる。その時は操縦者のことをよろしくね。
だから今は眠りなさい。
できるならこのまま安寧の時間を過ごしてほしい。あなたが目覚めないということは、きっと地球は平和な証拠なのでしょう。その時は土に帰りなさい。
無責任な操縦者でごめんなさい。
あなたは暖かい大地に包まれて、いつか目覚めさせてくれる三人の助けになりなさい。
だって、あなたは英雄の子孫、〔アル・ガイア〕なのだから……。
わたしたちとはこれでさようなら。ここを離れて、確かめなければならないことがある。そのためにも旅に出なくてはいけない。
さようなら。今までありがとう。
滴る水滴の音がしみ込んで、冷たい空気が吸い寄せられる。
土に埋もれた空間に、一機の巨人が座っていた。
幾星霜の時を過ごしてなお、その装甲はくたびれておらず、新品同様の艶やかさを宿している。真っ暗闇の中、四方を鋼鉄で固められて緩やかに再生と崩壊を繰り返しながら待ち続ける。
重々しい黒い鎧、三〇メートル近くある巨体で膝を軽く折り曲げて待機し続ける。銀色の管がその足腰を包み込んでいる。角は四つ、瞳も四つ。呼吸はせず、時折天井から滴る水が装甲を打ち付けて徐々に削っていく。それでもゆったりと再生し生きながらえる。
誰かが正しく使役してくれるのを待って、眠り続ける。
存在し続ける意味を与えてくれるのを待ち続ける。
ただの兵器である巨人はそれしか価値はない。戦いが起こらなければ、無用の長物である。だとしても、いつか必要とする人が現れるかもしれない。人が存在するのであれば、その存在から生まれた兵器を扱えない道理はない。
待ち続ける。待ち続ける。待ち続ける。
太陽の光も月の光も届かない大地の中で。
そして、どれほどの月日が流れたかも定かではないある日のこと。ぽぅっと淡い光が空間につながる横穴から漏れだす。キャットウォークにつながる横穴からひょっこりと一人の少女が顔を出した。
雨に濡れて、軒下に迷い込んだ子猫のように手にしているガスランプを掲げて巨人を照らす。
「何、これ?」
少女は震えた声でつぶやいて、瞠目する。
巨人、〔アル・ガイア〕は何も思わない。しかし、何百、何千の時を経てようやく動き始める。
小さな少女と巨大な機械の物語。
少女は目の前の巨人に何か言い知れない運命的なものを予感した。