手紙
伽凜にとっての悲劇は翌日の朝だった。
まだ慣れない道を通り登校する。そして下駄箱を開けた。
瞬間、下駄箱から雪崩れのように出る紙、紙、紙…
「な…なんじゃこりゃああああ!」
一体何枚あるのか検討がつかない。
入学2日目からイジメられているのかと、伽凜は恐ろしく帰りたい気分になっていた。
そんな中、後ろから声を掛けられた気がして振り返ると、ショートヘアの女の子がいた。
「ねぇ、達花…君だっけ?おはよう」
男として認識されていたことに密かに歓喜しつつも、顔に出すのは我慢して返答する。
「あぁ…うん。おはよう。見てくれよコレ、最悪だよ」
「うわー、2日目からモテモテだねぇ達花君」
床に散らばった紙をまじまじと見つめながら彼女は言う。やがて、一枚を拾い上げた。
「なにこれ、この手紙全部ハートのシールで封がしてあるじゃない…。1人の仕業っぽいわね。むしろ気持ち悪いわよこんなの」
伽凜も改めてよく見てみると、紙は全て手紙らしい。それもきちんと封筒に入ったもの。いわゆるラブレター…。
「ところで、なんで俺の名前を?」
「同じクラスよ。ま、2日目だから仕方ないか。逆に、私…もとい、クラスの人のほとんどは達花君のこと知ってるけどねー。昨日あんなことがあれば当然ね」
そうなのか、知らなかった。思わず伽凜はため息が出た。
「というわけで、私は池宮わかばって言うの。よろしくね!」
「うん。よろしく」
きっかけはどうあれ、知り合いができて良かったと伽凜は安堵した。
「…さて、この騒動の犯人を探し出して、ぶちのめしてやらないとね。あまり他人事でもないし」
ぶちのめすなんて女の子が使う言葉だったかなと思いながら、再度伽凜は返答する。
「多分あいつだろ」
「…あいつ?」
「昨日の変態。…確か柿田とか言うやつ」
「あー…柿田君ね、確かに昨日のことがあったからやりかねないわね。よし、とりあえずクラスに行ってみましょう。」
「そうだな。ちょっと待ってて」
伽凜は、まだ下駄箱の中に少し残っている手紙を下に落とし、靴を履き替えた。
そして、少し考えた後バックからコンビニの袋を出した。袋の中のおにぎりと紙パックをバックにしまい、空っぽになった袋に床の手紙を全部袋に入れて縛った。
「犯人にこれを投げつけてやる」
「あら、いいわね。達花君とは気が合いそうだわ…ふふ」
先に歩き出したわかばの後ろから伽凜がついていく。
誰かについていく体質の伽凜にとって、わかばの積極性・リーダー気質は非常に頼もしい存在になっていた。