表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

騎士が紡ぐ誓いの歌

二作目の短編となります。

どうか見てやって下さい!

 序章 就任式典


 ここはアステア王国の王宮の広間。現在、真新しい制服を着た若者達が緊張した面持ちで整列している。これから新人騎士の就任式が行われる。

「静粛に! これより、アステア王国第一王女、アルア ドラコニア様よりお言葉を戴きます!」

 広間の奥に設置された壇上に立つ禿のおっさんがそう言い、後ろに控える女性を促した。

「みなさん、こんにちは、このたびは、みなさんが厳しい試験を乗り越え、アステア王国の騎士となってくれたことに心より感謝します」

 王女の凛とした声は広間に優しく響き、可憐な容姿もあいまって新人騎士達の緊張を解す。

 騎士達の中にはアルア姫に憧れ騎士を目指した者も少なくは無い、ま、俺もその1人だったりするのだが…… 本来、スラムと言う、国の加護の届かない地区で育った俺には、王族など憎悪の対象でしかない…… だが、俺はアルア姫に出会った。

 正確には見かけただけで出合った訳じゃない。でも、一目見て心を奪われた。

 王女であるアルア姫に自分の手が届かないのは良く分かっていた、それでも側に居たい、そう思い騎士になる道を選んだ。

 と色々考えているうちにもアルア姫の話は進んでいく、聞き逃さないようにしっかりと聞いておかないとな……

「本日、みなさんに支給される剣はアステアの守り神、心竜様より授かった鱗が填め込まれています。つまりは、剣は心竜様に認められた騎士の証、みなさんは心竜様に認められし騎士であることの自覚と誇りを持って行動してください」

 アルア姫の話が終わりを告げると、新人騎士たちに感動の波が広がる、その感動も収まらないうちに、禿のおっさんに促され剣の授与が始まり、共に各配属先が知らされる。

「リューグ ラングス」

 名前を呼ばれた、いよいよ俺の番だ。

「頑張って下さいね」

「はい!」

 壇上に上がり、アルア姫自ら授与される剣を受け取る。

「リューグ ラングスは街の警備隊に任命する!」

 手を伸ばせば触れることの出来る距離にアルア姫が居る、そのことに緊張してしまい、禿のおっさんが必要以上にでかい声で何か言ってるのを聞き逃しそうになったけど……

「警備隊?」

 だとすると、俺の勤務先は街ってことだ。騎士になれば城で働けると思っていたけど、どうやら俺には運が無いらしい、肩書きは騎士だけど衛兵の仕事をすることになるようだ。

 はぁ、城で騎士として働ければアルア姫の近くに居られることも有るかと思っていたけれけど、仕方ないか……



 一章 2人の王女様


 俺が警備隊に就いて半月ほど経過した。思っていた通り、アルア姫に会うどころか目にする機会も無いが、元々俺なんかが簡単に合えるような人でもないからそれは仕方ないことだ。

 俺は、また何時かお目にかかる機会が有ると信じ、今日も警備隊の仕事に励んでいた。

 日々の仕事として街の巡回が有るが、俺の巡回路に本来に無い場所が含まれている。

 スラムと下街の境目辺りに位置する教会だ、そこは孤児院としての役割を担っていて、スラムで泥水を啜りながら生きてきた俺が保護されてから育った場所でもある。

 俺は騎士になってからずっと巡回のついでに教会にも寄るようにしていた。

「リューグ、もう戻るの?」

 何も問題が無いことを確認し巡回の戻ろうとすると、教会で暮らす子供たち、俺の義兄弟が寄ってきた。

「あぁ、もう巡回に戻らないといけないからな」

「え~、もっと遊んでよ~」

 歳の低い男の子達が俺の服を引っ張りながら駄々をこねる。苛酷な環境で育ったにしてはこの教会の子供たちは元気で素直に育った。遊んでやりたいのは山々だが、万年財政難な教会の為にも仕事をサボるわけにもいかない。

「休みになったら遊んでやるから、今日は我慢しろ」

「そうですよ、リューグはこれからお仕事ですから、今日は僕と遊びましょう」

 俺が帰ろうとした出入り口から俺と同じ年頃の男性が入って来て、駄々をこねていた子供をなだめる。

 こいつはレイン ラングス、俺と同時期にここに引き取られて来た者の1人だ。

「え~レイン兄ちゃん、体力無いからつまんないよ~」

 俺と違い下街出のレインは運動音痴で体力皆無だが、ここに来た時から文字の読み書きなどを既に習得しており、下の子たちの先生役もこなしていたりする。俺の読み書きもレインから教わった物だ。

「では、この前出した宿題を今すぐ持ってきてもらいましょうか?」

「ははは、俺たちレイン兄ちゃんと遊ぶ! リューグ兄ちゃんお仕事頑張ってね~」

 まだ遊びたい盛りのみんなは勉強嫌いのようだ。

「助かったよレイン、お前は今日休みか?」

 レインは図書館で司書の仕事に就いている。

「ええ、今日は非番です。リューグは巡回の途中でしょう? もう戻った方がいいのでは?」

「だな、まぁ何かあったら知らせろ」

 ようやく俺は教会に背を向け職務に戻る事が出来る……

「あぁ、そう言えば……」

 そんな俺の背にレインが言葉を投げかける。

「最近、剣を持ち歩かない騎士が居ると噂になってますよ、」

「…………」

 間違い無く俺のことだな、普段は他の騎士の目も有る為帯剣しているが、巡回に出る際、俺は帯剣しない、子供たちに会いに来るというのも理由であるが、剣という物にどうも慣れないのだ。

「今も持ってませんし、気をつけたほうがいいですよ」

「あぁ、考えておく……」

 噂にまでなってるなら仕方ない、何処からアルア姫の耳に入るかも分からないし今後は気をつけよう。


 さて、教会を出て巡回に戻ったのだけど、いきなり厄介事に巻き込まれた。

「待ちやがれ!!」

「誰が酷い目に合うと分かっていて待つか!!」

 数人の男と追われる少女、普通ならこんな昼間から人攫いなんてことやらないのだろうけど、場所が悪い、ここは下街と言っても比較的スラムに近い場所だ、少女たちに目を向ける住民も、よく有る厄介事に自分たちが巻き込まれなければ良いと傍観している。

 スラム育ちの俺は追ってる男たちに近い存在だが、俺は騎士で、ここに居合せた以上放っておく訳にもいかない。

「さて、大人が数人掛りで少女を追う理由を聞かせてもらおうか?」

 少女と男たちの間に割って入る。

「お主、騎士か!? 助けてくれ!」

 言われるまでもないが、騎士の制服を着た俺が間に割って入ったにも拘らず男たちに怯む様子は無い、むしろ各々得物を手に俺たちを取り囲もうと動き出す。

 少女はここまで走って来て相当疲れているようで、肩で息をしている、俺が時間を稼いでいる間に逃げてもらうわけにもいかないか……

「お主、剣はどうした?」

 俺の背後に隠れる少女にも、先程レインに言われたことを指摘されてしまった。

「今は磨ぎに出していて無い」

 適当な言い訳を述べておく。

「う、それなら仕方ないが……この状況、どうするのだ?」

 無手の俺と疲れきっている少女、周りには武器を持った男たち、不利なのに違いは無い。

 だが、俺がスラムで性質の悪い連中を相手にして生きていた時は武器なんて持ってなかったからな、素手でも十分に戦える術は身に付けている。

「問題無い……で? どうなんだ? 何故こいつを追う?」

 無言で距離を詰めて来た、答える気は無しか……なら相応の対応をさせてもらおう。

 とりあえず突っ込んできた男に向かって、近くに有った空の樽を蹴り上げる。

 卑怯? 武器持った相手に手段なんか選んでられるか、素手相手に武器持ってる方が余程卑怯だろう、元々多勢に無勢だ。樽の持ち主には後で謝っておくけどな。

 樽を避けようと体勢を崩した所を樽の死角に入るようにして近づきぶん殴る。

 チッ、気絶しなかったか、だけど持っていたナイフは取り落としたな、それを拾い別の男に投げつける。そいつはナイフを避けるために横に飛ぶけど……

「ギャ!」

 そいつの肩に避けた筈のナイフが突き刺さっていた。まぁ、最初に投げたのが石で、避ける場所を狙ってナイフを投げたってだけなんだけどな。肩を押さえて苦痛を耐える男を蹴り倒し、背中を踏みつけて残った奴らに向け不適に笑う。 

「さて、次はどいつだ?」


 数分後、逃げていく男たちを見送った俺は、改めて追われていた少女に向き合う。

 歳は孤児院の子供たちの少し上ぐらいか、上質な衣服を着ているからおそらく貴族とか金持ちの娘なんだろう、護衛も何も無しにこんな所をうろついているのもおかしな話だけど、そういった事情は俺には関係無い。

「良いのか? あ奴らを逃がしてしまって……」

「仕方ないだろ? 俺1人じゃ全員拘束するのは不可能だったし、追いかけてるうちに別の奴があんたを攫いに来るかもしれない。って訳で、家まで送ってやる、場所は分かるか?」

 乱れた髪を手で梳いてやりながら質問に答える、髪を触られるのに少々抵抗があったようだが、直ぐに目を細め気持ち良さそうにしだした。

 そこそこ落ち着いた所で家まで送る為、少女を促した。

「あ……」

 少女の家、そこにたどり着き、俺は絶句する。

 就任式以来、来る機会も無かったが、間違い無く王城だ。

 少女が門番の騎士と話しあっさりと中に通されるのを見ると、少女が騙っていると言う疑いは完全に消える。

「何をしておる? お主も早く来ぬか」

 俺も行くのか? 巡回の途中なんだが……でもこの少女が城の関係者、それもさっきの態度から結構偉い奴なんじゃないか? なら騎士の俺が逆らうのは不味いな。仕方ないので後について城に入る、その後も少女に連れられどんどん城の奥へ入っていく。

「で? 結局貴女は何者なんですか?」

「む、何だその言葉遣いは?」

「えっと、気に障りましたか? すみません、あまり慣れていない物で……」

「違う、先ほどまでの様に普通に話せばよかろう、変える必要など無い」

 いや、あんた城の関係者だろ? それになんか偉そうだし、失礼な事は言えないだろ?

「構わん! 普段通りに話せ!」

「ステア? 何を騒いでいるのですか?」

 え? この声って、まさか!

「姉様!」

 現れたのはアルア姫、就任式以来だが相も変わらず可憐だ……って! 姉様!?

「また勝手に城を抜け出しかと思えば……」

「そんな事より! 姉様! こ奴を私の騎士にします!」

 姉様ってことは、こいつもアステアの姫ってことだよな、そう言われれば、幼さが残るがアルア姫とよく似た顔立ちをしている。性格は全然違うようだが……

「あら? やっと専従騎士をつける気になったの?」

「うむ、こ奴なら文句は無い」

 あれ? いつの間にか俺を置いてきぼりにして話が進んでいる、専従騎士? 何だそれ?

「ステア、彼の名前は?」

「む? そうだ、お主名はなんと言う?」

「警備隊、リューグ ラングスです」

 状況が理解出来ないまま、反射的に問われた事に答えを返す。

「では、リューグ ラングス、明日よりステア ドラコニアの専従騎士の任を命じます。今日中に引継ぎ等を終わらせ、明日からはステアの専従騎士としての任に就いて下さい」

 あっと言う間に専従騎士とやらにされてしまった。

 よく分からないけどこれは出世と言って良いのだろうか?

「詳しい事は明日、登城した時に聞いて下さい」

「うむ、待っておるからな」

 どうやら本気で俺を専従騎士とやらにする気らしい、アルア姫と間近で話せたことで舞い上がっていたのと、元々俺に断る権利など無い為、言われるままに警備隊の詰め所に戻り引継ぎを済ませることになった。

 俺の転属の話しは既に届いていたようでアッサリと引継ぎは終るが、急な転属である為、俺のがスラム出なのを知ってる奴らは陰でいろいろ言ってるみたいだけどな……まぁ、そんな奴らはどうでもいい。

 さて、明日からはステア姫の専従騎士か、警備隊の先輩に聞いた話だと普通の騎士とは違うみたいだけど、俺なんかに勤まるのだろうか? 俺は一抹の不安を抱えつつ、今日のようにアルア姫と話せる機会が、警備隊で居るよりは増えたであろうことに期待を抱いていた。



 二章 休日の騎士


 専従騎士は普通の騎士たちと違い、1人にのみ専属で仕える騎士のことを言う。護衛だけでなく執務や生活の手助けもこなす専従騎士も居るようだ。

「何故あのような者をステア姫の専従騎士にしたのですか!」

 城に来た俺は専従騎士の説明を受けた後、ステア姫の所へ向かおうとしていたのだが……

「あの子がそれを望んだからです」

 就任式の時に居た禿のおっさんとアルア姫が言い争っている場面に遭遇した。いや、声を荒げているのは禿のおっさんだけで、アルア姫はおっさんの言うことなどほとんど気にしていない様子だ。

「ですが! あんな若僧に専従騎士が務まると思えませんぞ!」

 どうやら俺のことを話してるみたいだな、禿のおっさん、アルア姫に余計なこと言うんじゃねぇ。

「可愛い妹の専従騎士のことですからね、私も調べているんですよ、彼は確かに新人騎士ですけど、試験の際に行われた模擬戦で、新人騎士たちの中で唯1人、試験官に勝利して合格しているのですよ、護衛としては問題無い筈では?」

 試験の時の模擬戦か……あれは油断していた試験官に剣を投げつけて驚いている内に殴り倒したってだけだ、それに、試験の後で騎士を目指す者が剣を投げるなって怒られたし……だからこそ不意を突けた訳だけどな。

「ですが、あの者はスラムの出身ですぞ」

「それに何か不都合があるのですか? 生まれや育った場所は人を見るものではありませんよ」

 あ~、やっぱり俺の育った場所がスラムだって事はばれてるか~、他の連中はどうか知らないが、俺はスラムで育ったことを恥じてはいない、だから禿になんと言われようが、どうって事は無い。

「く……後で後悔しても知りませんぞ!」

 言い負かされた禿がこっちへ来る。

「! ……ッチ!」

 俺に気づいて一瞬足を止めたが、直ぐに離れて行った。隣を通る時に明らかに聞こえる音で舌打ちしていきやがる、相当嫌われているようだな、禿に嫌われようともまったくかまわないけど……

「あら、リューグさん、おはようございます」

 早速声を掛けられた。

「おはようございます」

 専従騎士になることでアルア姫と話せる機会が出来るのを期待していた為嬉しいのだが……

「私達がお転婆なステアを監視する目的に勧めているのを分かったいたようで、ステアは今までどれだけ勧められても専従騎士を決なかったんですよ。だからステアは私や宰相の部下で無い貴方を選んだのでしょうね、ですから貴方にお願いします。監視しろなんて言いませんが、ステアが無茶なことをしないように見守ってあげて下さい」

 なんかいきなりお願いされた!? もしかしてここでアルア姫に会ったのは、姫が頼み事の為にここで俺を待ってたってことか? アルア姫に頼まれて断れる俺でもない……けど、護衛以外は自信無いぞ。

「む! リューグ! 姉様と何を話しておる! 城に来たならさっさと私の所へ来い! 今日は中央広場に行くぞ、大道芸が来るらしいのだ!」

「ちょっと! 引っ張らないで下さい! 危ないですから!」

「だから!畏まった言葉使いをするなと言うに!」

 あれこれ言い合いながら、半ば勢い任せで城外に連れ出されてしまう。

「ステアのことよろしくお願いしますね……」

 後ろからアルア姫の声が聞こえた気がした。よし、やれるだけやるか……


 ステアの専従騎士となってしばらく経った。

 因みに最初の日に敬語を使わず普段通りに話す事とステアと呼ぶことを命じられた。流石に城の者が居る所でそんな事すれば俺の首が飛ぶので、他に人が居ない時や城の外でのみと言う条件に妥協させた。

 俺はステアが城を抜け出した際の護衛をしたり、急に料理をしたくなったと言って厨房に立ったステアの(残念な)料理を食べさせられたり、俺が文字の読み書きが出来ると知って書庫の本を読ませられたりと、地味にステアの行動に振り回されていた。

 今日も街中を散々引っ張り回された後城に戻り、ステアを部屋まで送り届けて来たところだったりする。

「あら? リューグさん、今日はもうお帰りですか?」

 アルア姫の声をかけられる、たまにこうやって声を掛けてくれるのはステアのことを気にしてだろうが

、話し掛けられる機会が増えたのは素直に嬉しい。

「ええ、ステア姫もはしゃぎ過ぎたようで、今日はもう休むと言われましたので……」

「そうですか、ステアは最近どうですか?」

「相変わらずですよ、進言すれば多少は加減してくれますが、振り回されっぱなしです」

「あら、あの子が加減を? 私が言っても全く聞こうとしないのに……リューグさんは余程ステアに気に入られているようですね」

 そうなんだろうか?なんとなく懐かれているような気はしていたんだけど……最初に助けたせいか?

「リューーグゥ!!」

 な! アルア姫との会話に気を取られ過ぎた俺の背に、丸太で殴打されたような衝撃が! 俺はそのまま床に倒れた所を更に踏みつけられる。

「せっかく明日は休みだと伝えに来てやったのに、何をだらしない顔で姉様と話しておる?」

「ステア姫、何故俺は踏みつけられているのでしょう?」

「ふん! 兎に角、お主、明日は休みだからな!」

 最後につま先で捻り込むように攻撃を加えようやく開放してもらえた。

 ステアは不機嫌そうに自室に戻って行った。

「あらあら」

 何だったんだ? 何故攻撃されたのか良く分からないが、兎に角明日は休みらしい。

 久しぶりに教会に顔を出すか……

 休み明けには何故か不機嫌だったステアの機嫌も治ってると良いなぁ。


 翌日、教会に向かう為に家を出た俺は妙な視線を感じていた。

「いや、あれで隠れてるつもりか?」

 視線の元を辿り振り向く、物陰に隠れるステアの後ろ姿が見えた。

 今の内に俺も物陰に隠れるか……

 はは、俺を見失ったステアが慌てて出て来た。

「ったく、何やってんだ?」

 背後から近付き頭を掴む。

「うぬ!! リューグ! いつの間に後ろに!?」

「ステアが隠れてる間にだ、で? どうした?」

 慌てるステアを落ち着かせ俺をつけていた訳を聞き出す。

「む、うぬ、昨日は、そのだな、すまなかったのだ……」

 昨日? あぁ、そういや思いっきり蹴られたな、でも、ステアに訳も分からず蹴られるのは、そんなのいつもの事だ。

「はは、別に気にしてないって」

「そ、そうか?」

「だから、気にすんな」

 でもステアが謝って来たのってこれが初めてだな、何か心境の変化でもあったか? 

 実際に全く気にしていないし、せっかくステアに良い変化が有ったんだ、褒めてやらないとな、頭を掴んでいた手で撫でてやると、途端に笑顔の花が咲く。

「リューグ! 今日は何処へ行くのだ!?」

「ん? 教会だ……と、お前、このまま付いて来る気か?」

 前にステアが攫われそうになっていた場所より、更にスラムに近い場所に行くのだが……

「うぬ、付いて参れ!」

 いや、お前が付いて来るんだろう? ん?

「ん? リューグ、どうかしたのか?」

 まだ誰かに見られてるような気がしたけど……

 気のせいか、誰かステアのことを知ってる奴でもいるのかもな……

「いや、なんでもねぇ、気のせいだ」

「そうか? だがこっちだと教会は逆方向ではないか?」

「正規の教会じゃねぇからな、どっちかって言うと孤児院だし、スラムの入り口辺りに有るの知らないか?」

 ステアに帰れと言っても無駄だろうから一緒に教会に連れて行く、今日は剣も帯剣しているし騎士の制服を着ている、スラムの危険な奴等も、よほどの事が無ければ騎士を相手にしようとは思わないだろう。

 ステアを連れて教会についた俺は子供たちに囲まれていた。一緒に来たステアは子供たちに押され隅の方で不機嫌そうにしている。不味いな、また怒り出すんじゃないか?

「リューグ兄ちゃんひさしぶりじゃねーか!」

「おお! きょうは騎士の剣持ってきてるぞ!」

「お前ら、集るな! 危ないから剣に触れるな!」

 子供たちを散らせた所へレインがやって来る。

「リューグも今日は休みですか?」

「あぁ、レインも休みか、俺らの休みが重なるなんて珍しいな」

「そうだね、それより彼女は放って置いて良いのかい?」

 レインに言われて見ると、ステアが俺の散らした子供たちに囲まれていた。

「ね~お姉ちゃんリュー兄のなに?」

「む、私はリューグの主だ!!」

 ステアが大人しく絡まれている内は大丈夫だ……

「ほっとけ、あいつらもその内飽きる」

「そうですね。にしても、やっと帯剣して来ましたね」

「制服も着て来た、ここにはよく騎士が見回りに来るって噂が立った方が安全になるだろ?」

「今でも神父様が護ってくれてますけどね」

 確かに、あの爺さんの強さは反則だからな、元は城の魔法騎士だったって聞いたことがある。

「まぁ、こんな場所だ、策は多い方が良い」

 暫くレインと近況報告なんかをしていたが……ステアが我慢の限界に達したようだ。

「リューグ! 何時まで私を放って置く気だ!」

「なんだよ、子供たちと遊んでたんじゃないのか?」

 ステア、微妙に不機嫌そうになってるな、放って置き過ぎたか?

「だったらお主も来い!!」

「いやいや、俺も歳だからな、ガキの相手は若者に任せるよ~」

「なぬ!? ちょっと……」

「お姉ちゃん、こっちこっち!」

「なああぁぁぁぁぁ!!」

 ちょっと機嫌を取っておこうかと思ったが、直ぐに子供たちに引かれ行ってしまった。

 ステアは子供たちとは初対面でも、俺やレインと違い歳の近いお姉さんと言うことで気に入られたか? 子供たちが随分懐いてる。なんだかんだ言いつつステアも子供たちと遊ぶのを楽しみ出したので、まだ放って置いても大丈夫だろう。

「おや? リューグ、来ていたのですか」

 子供たちの遊んでいるここの隣の部屋から、祭服に身を包んだ白髪交じりの老年の男性が姿を現す。この教会の神父を務める爺さんで、俺たちの育ての親にあたる人だ。

 俺やレイン、ここの子供たちは、彼の姓ラングスを貰い名乗っている。

「丁度良かった、これから出かけないといけなくなったので、子供たちのこと頼めますか?」

「あぁ、レインも居るし構わないよ」

 軽く引き受けると、爺さんは出かけようとしてある一転に目を向け立ち止まる。

「リュ、リューグ! 何故彼女がここに居るんだ!」

 爺さんが見ていたのはステアか、爺さんは元々王宮で働いていた魔法使いらしいから、ステアのことを知っていてもおかしくないか?

「今俺が騎士として働いてるのは知ってるだろ? 俺が騎士になる為の試験を受けられるように口利きしてくれたのは爺さんなんだから……」

「警備隊に配属されたとは聞いたが?」

 そう言えばステアの専従騎士になってから教会に来るのは今日が初めてだな。

「警備隊から転属になった、今はステア姫の専従騎士をやってる」

「専従騎士って! そう簡単になれるもんじゃねぇっぞ!」

 興奮して口調が変わる、爺さんはこっちが本来の気質なのだが、それほど驚くことのようだ。

「爺さん、素が出てるぞ、子供たちの前だから落ち着け」

「っと、すみません、取り乱しました。でも、どうしてそんなことになっているのですか?」

「詳しく説明してもいいんだが、時間はいいのか? どこかに出かけるんだろ?」

「そうでした。では、そんなに時間もかからない用事ですから、帰ってからじっくり聞かせてもらいますよ」

 渋々出かける爺さんを見送り、暫くしてレインが昼食の準備をすると言うので、俺が子供たちを見ていることになった。

 部屋を駆け回っている子、絵本を読んでいる子、それぞれ好き勝手に遊んでいる中で、ステアは部屋の端のほうで数人の女の子たちで固まって何かしていた。

「だから! リューグは私のだと言っておろうが!」

「リューにぃは、あたしのお嫁さんになるの!」

 って喧嘩か? 俺が嫁って無理だからな。

「まったく、喧嘩するんじゃないぞ~」

 軽く注意するとステアが会話の輪から抜け出して俺の方に来た。

 ―ガツ―

「×○*□☆!!」

 脛を蹴られた、完全に油断していたため防御も心構えもあったもんじゃない、痛みに声にならない叫びを上げてしまう。

「ふん」

 そのまま会話の輪に戻りやがった、機嫌悪くなってるなぁ……なんでだ?

「昼食の用意が終わりましたが、何しているんですか?」

 俺のことを気にしつつ子供たちに昼食を呼びかけるレイン、もうちょっと労わってくれてもいいと思うのだが……

「リューグ、何時までもうずくまってないで行くぞ」

 いやいや、ステアがやったんだからな! だけど、鍛えてもいない姫さんの攻撃だから痛みは直に無くなり昼食を取るため移動する。

 この教会もあまり裕福とはいえない、むしろ毎日貧困に喘いでいるが爺さんやレインが試行錯誤し、少ない予算から旨い物を作ってくれる、俺も教わったことが有るから出来ない訳ではないが、レインたちには敵わない。

「うぬ! 何だこれ!」

 ん? ステアの口には合わなかったか?

「旨いではないか! 料理長を呼べ!」

 そうでもなかったようだ、不味いって文句言われるよりは良いが、王女として大丈夫か?

 レインを専属の料理人にするとか言い出したステアを嗜め昼食を済ませる、食後も子供たちは各々遊んでいるが、そこにステアの姿は無く俺とレインと共に子供たちを見ていた。

「一緒に遊んでこなくていいのか?」

「む、なんだ、私が邪魔だとでも言うのか?」

 そんなことは言ってないけどな……

「リューグは私のことを子ども扱いしすぎだ!」

 まぁ、ぶっちゃけそうだな、俺は完全にステアを子ども扱いしているがそれは仕方ないと思う、実際にステアはここの子供たちとそう変わらない歳だ、育った環境のせいで大人びた所が無い訳ではないが、普段の行動は我侭な子供そのものだ。だが正直に言うのもステアの機嫌を損ねるだけ……

「そんなこと無いぞ……」

「私の目を見て言ってみよ」

 ごまかせなかった。

「ははは……」

「まったく、お主は私の専従騎士としての自覚が足りぬようだな」

「そうは言うが、さっきまで子供たちと一緒になって遊んでいたステアをどうやって子ども扱いするなと?」

 実際にステアはここの子供たちより少し上ぐらいの歳だしな。

「ふん、直ぐに私も姉様の様になるわ!」

「そうですね、そうなればリューグもきっとステア様にメロメロですよ」

 レイン、何を適当なことを言ってるんだ? 

「そもそも、リューグが騎士になったのはアルア姫に憧れて、ですからね」

 って! 余計なことまで言うな!

「む~、そう言えば、リューグは姉様と話す時、いつもデレッとしておるの?」

「そ、そんなことは無……」

「あるであろう?」

 ち、実際にそういった場面を何度か見られているから誤魔化せないか、アルア姫の名前が出たあたりからステアの不機嫌さが増した気がするし、どうするなぁ……

「まったく、どいつもこいつも姉様ばかり見おって……」

 ステアの奴なんか怒って部屋を出て行った。仕方ない、後で機嫌取っておこう……

「にいちゃん! ステア外に出て行ったぞ!」

「1人で外に出ちゃ駄目だって神父様が言ってたの!」

 慌てた様子で数人の子供たちが入って来た。

「止めたんだけど話し聞かないんだ!」

「チッ! あの馬鹿、何考えてる!」

 街に戻る方なら大丈夫かもしれないけど、スラムの奥に行くと厄介だ、教会の周辺は爺さんのことを恐れて厄介な奴らも近寄って来ないけど、奥に入り込んでしまうと意味は無い。

「ステアはどっちに向かった?!」

「あっち!」

 子供たちが指した方向は街に向かう方向ではない……

「リューグ、早く追った方が良いですよ!」

「分かってる!」

 ここはレインに任せ、ステアを追うために教会を出る。

 スラムの中にステア1人で入り込むのは襲って下さいと言っている様なものだ、俺は無事を祈りつつ見えない背中を追いかけだした。



 三章 小さな願いと騎士の誓い


 スラムは奥に行けば奥に行く程、手が付けられない連中が増えてくる。俺が幼い頃はこの連中を相手にやり合って日々の糧を得ていた。正直、俺が生きていられたのは運が良かったとしか言えないだろう、そんな場所にステア1人で無事に済む筈が無い。案の定、ステアは数人の男に捕まっていた。

「ぬう! 何をする! 離さぬか!」

 相手の数が多いな、今突っ込んで行っても返り討ちに遭うのが関の山か。迂闊に突っ込めないな。

「うおおおおお!!」

 人がどうやって助けようか考えてる内に渦中に突っ込んで行く者が居た、ボロイ布を纏ったような服装の男たちの中にあって映える純白の騎士鎧、手には俺が持つものよりも立派な装飾の施された騎士剣、誰だか分からないけどアステアの騎士であることには違い無い。

「ステア様、私が来たからにはもう大丈夫です」

 そいつは男たちを潜り抜けステアを背に庇うように立った。ステアを心配した誰かがこっそり護衛を付けていたって考え方もあるが、俺はどうも良い方向には考えられない、スラム育ちの癖のようなものだ、どの道1人でどうにかできる数じゃない、予期せぬ助太刀は無視して俺は俺で行動を開始する。

「私の剣の錆になりたくなければとっとと消えるがいい!!」

 剣を高々と掲げ男たちに言い放つ、なんか妙に芝居がかった言い方をしているが、状況に酔ってるのか? それに、この数を相手に啖呵を切るのは相当腕に自信があるのか? ただの馬鹿か?

 案の定、男たちは武器を手に包囲を縮めて行く。

「な! 話が違うぞ!」

「契約は無しだ、依頼料より、そのガキを売った方が金になるからな」

 契約? 何の話だ? 

 気になるが、助けに入った騎士は最初の威勢は何処へ行ったのか? 慌てていてまともに戦えるようには見えない、急がないと不味いな。

「よし、ここならいいか」

 俺は男たちに見つからないように路地を回りこみステアたちの背後にある廃墟の屋根に移動していた。

 先ずは奇襲、これで敵の数を出来るだけ減らさなくちゃいけない。

「始めるか……」

 手近に有る瓦礫を男たちに目掛け投げていく。

「ぐへ!」

「あぁ! どうしだば!」

 次々と頭に瓦礫の直撃を受けて倒れていく男たち、数を半分ほど削った所で投げる物が無くなった為剣を手に屋根から飛び降りる。

「ぶ!!」

 男たちの中でステアの一番近くに居た奴で落下の衝撃を殺しステアの傍に着地する。

「リューグ!!」

 男たちと対峙しながら、ステアを背に庇い話す。

「この馬鹿! こうなることぐらい分からなかったのか!」

「な!? キサマ! 姫に対してなんて口の利き方を!!」

「五月蝿い役立たず! 黙ってろ!」

 お前なんかは眼中に無い、利用できるものは利用するが、味方かどうかも怪しい奴を戦力として計算する気は無い、大人しくしていろ、口を出すな。

「む! お主が悪いのだ! 姉様にばかり気を使いおって! 私のことは子ども扱いしかしない! お主は私の騎士なのだぞ! 私のことを一番に考え、ずっと私の側に居ろ!!」

「はぁ、子供の癇癪そのものじゃないか……」

 だが、アルア姫がステアは城の者を信用していないと言っていたな、信用してない奴に素直になることなんて無いんだろうな、多少我侭なのは周りのせいって考え方も出来るか……

「分かった……」

「リューグ」

「もう分かった、俺はお前の騎士だ、側で護ってやる」

 俺が何故この子に選ばれたのか分からないけど、この子の我侭が終わるまで、この子が大人になるまで、俺がこの子を護ってやろう、身体だけじゃなく、心も……

 気合が入った、いつも以上に動けそうだ。俺は改めて男たちに対峙する。

「欲しい物は力ずくで奪う、生きるためなら何でもする、それがスラム流のやり方だろうが、こいつは止めとけ」

「っち、おい! 他の奴らも呼べ! 騎士服なんか着てやがるから分からなかったが……こいつリューグだ!」 

 俺のことを知ってる奴か? 教会に引き取られる前はスラムで暴れていたからなぁ、知ってる奴がいてもおかしくないか。

「ち、流石にスラムじゃ顔が売れすぎてるな、意表をつけるかと思っていたけどそうもいかないか」

 俺のことを知ってるってことは、俺が剣なんてまともに扱えないって知ってるってことだ。

 となると構えた剣の扱いに困る。慣れない武器なんて意味ないしな……鞘に収め拳を構える。

「ひっ! なんだよ! 諦めるのか!」

 俺が剣を収めたことに役立たずだった騎士が悲鳴を上げた。

「あ~お前何しに来たんだ? 手伝わないなら黙ってろ、鬱陶しい」

「そうじゃ! お主は大人しくしておれ、邪魔じゃ!」

 一度俺の戦いぶりを見ているステアは冷静だ、信頼されてるってことかな? なら、それにちゃんと答えないとな。

「何してる! とっとと他の奴らを呼んで来い!」

 悪いが、援軍が来るのを大人しく待ってる程暇じゃないんでな!

 武器で俺たちを牽制していた男に狙いを付けとび蹴りを浴びせる、加減はしていない為、男は砲弾の様に吹っ飛んで行く、その際に何人か巻き込んだのは僥倖。

 スラムの中は入り組んでいて広い場所など無い、それに俺たちは廃墟を背にしているので、男たちの攻撃もある程度制限される、数は多いけど実際に一度に相手しているのは多くて3人ぐらいだ。

「っと! 後方からの攻撃にも気をつけないと……な!」

 後方から飛来した矢を掴む、勢いを殺さないように自身の身体を軸に回転、離す、射手に向かい矢を返した。

「ちっ、やっぱり化け物か! 矢を投げ返すとか普通できねぇぞ!」

 俺も出来るとは思わなかった。やった自分が一番驚いているんじゃないか?

「で? その化け物相手にまだやるのか? 俺としては逃げてくれる方が楽なんだけどな」

 まぐれとは言え出来たんだ、その状況は利用する。出来るだけ恐怖感を与えるように威圧しながら言葉を紡ぐ。

「くそ、相手が悪いここは引く……」

 男たちのリーダーと思われる奴が撤退を指示しだしたことに油断した。

「ぐっ!」

 脇腹が熱い、目を向けると血に濡れた剣先が俺の腹から生えていた。

「はぁはぁはぁ、くそ! くそ! くそ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」

 この剣、さっきの騎士の持ってたやつか? 後ろには護るべき対象のステアが居るから、そっちから攻撃が来るなんて思ってもいなかったぞ。

「お主! 何をするのだ!」

「うるせぇ! お前も殺っちまうぞ!」

 完全に切れてやがる、ステアの声も自分を貶める言葉にしか聞こえていないようだ。

「なんか知らねぇが形勢逆転だな」

 撤退し始めていた男たちが歩みを止めて武器を構えなおしている。

「くそ! くそ! お前たちも契約通りに動いてれば良かったんだ! 勝手なことしやがって! くそぉぉぉぉ!!」

 男たちに向かい我武者羅に剣を振るう騎士、そんな動きで男たちがどうにかできる訳が無い。

「五月蝿い……はぁ……はぁ」

 騎士の手が男たちに届く前にぶん殴り沈める、ほんとにこいつ何のために来たんだ? 錯乱して暴れまわるとか、ふざけるな……

「リューグ!!」

 傷口から勢い良く血が噴出す、無理に動いたらそうなるのは当たり前か……でもこれで終わりじゃ無いんだよな……

「まさか、いきなりお前を殺れる機会が巡って来るとはな」

「は、撤退命令は……どうした? とっとと……逃げたらどうだ?」

 やばいな、意識が朦朧として来た、このままじゃ……

「死に掛けてる奴が粋がるんじゃねぇ! へっ、まぁ、直ぐに楽にしてやる」

 くそ、悔しいが事実だ、既に足に力が入らなくなってきていて立っているのがやっとだ。

「リュ、リューグ……」

 ステアが瞳から涙を溢れさせ、俺の服の端をぎゅっと握り締める。

 まぁ、見ただけで俺の状態のやばさは分かるからな。

「ステア……護るって言って早々で悪いが……逃げろ……少しならなんとか時間を稼げる」

「だ、だが!」

「いいから! 行け!!」 

 口論してる余裕なんて無いんだよ!

「く!」

 ステアが駆け出す音を背に、痛みを無視して剣を抜きリーダーと思われる男に投げつける、これで打てる手はもう無い、何処まで保つか分からない身体で足止めするしか無い、でも、護るって決めた、ステアの逃げる時間ぐらい稼いでやるさ……



 終章 拳を捧げし騎士


 結論から言うと俺もステアも運良く助かった。

 ステアは、戻って来るのが遅いのを心配したレインが、丁度帰ってきた爺さんを連れて探しに来ていたため無事保護された。

 俺の方はやれるだけやって、いつの間にか気絶していた所を爺さんによって助けられた。詳しくは聞いていないが、目を覚ました時、爺さんが必死になって治癒魔法を行使していた。そのおかげで俺は一命を取り留めたのだろう。

 7日程治療の為に休みを貰っていたのだが、爺さんの必死の治癒魔法が効いて、今日から普通に仕事に戻ることになる。

 後、俺を刺した騎士なのだが、どうやらあの禿の部下らしい、俺がステアの専従騎士になるのを良く思わなかったあの禿が、俺の護衛中にステアが危険な目に遭うことで俺が専従騎士として相応しくないって話にしたかったらしい、危ない所を自分の部下に助けさせ、俺とあの騎士を変える様に言う気だったみたいだ。あの日ずっと俺たちのことを尾行ていたようで下街で感じた視線も俺を刺した騎士のものだったようだ。

 スラムの連中は禿に金を握らされていたようだが、スラムの奴らを舐め過ぎだ、あいつらはあの禿に如何こう出来る人種じゃない、結果裏切られて禿の計画なんてあったもんじゃなかったしな。

「リューグさん、もう身体は大丈夫なのですか?」

 ステアの所へ向かおうとしていたらアルア姫に呼び止められた。以前なら声を掛けられただけで舞い上がっていたんだが、今は落ち着いたものだ、アルア姫への感情は本当に唯の憧れだったようで、何度か接しているうちに慣れてしまったようだ。

「はい、ご心配をおかけしました」

「いえいえ、ステアを護ってくれたのですから、お礼を言わせてください」

 俺がステアの専従騎士になったのが原因みたいだしな、素直に受け取れないんだが……

「リュゥーグゥゥ!!城に来たら先ず私の所へ来いと言ってるであろうが!!」

「ブッ!!」

 背中に衝撃、幸い蹴られたのではないようだが、ステアが俺の背に飛びついてそのままおぶさっているようだ。

「ステア、リューグさんは病み上がりなのですから!」

「おお、そうであった! すまぬリューグ、身体はなんとも無いか?」

 アルア姫に言われ慌てて背中から降りてくれる。

 アルア姫はステアが城の者を信用してないって言ってたけど、アルア姫の言葉は素直に聞いてないか? 俺にはステアがアルア姫に懐いている様にしか見えないんだが……

「爺さんががんばってくれたからな、もう大丈夫だよ」

「そ、そうか! よかった」

 本気で心配してくれていたんだな、まぁあの別れ方じゃ無理も無い。

「そうだ、リューグこれを受け取ってくれ」

 ステアが差し出したのは一対の手甲、騎士の剣と同様に心竜の鱗が装飾されているようだ。

「礼だ、お主は剣よりこっちのほうが合っているのだろう?」

「あぁ、ありがとう、俺は君を護ると改めて誓おう、君が大人になるその時までね」

「何を言っておる、そんなこと私は認めんぞ、お主はずっと私と共に()るのだ!!」

 はは、まぁそれも悪くないか。


短編と言いつつ少し長くなった気がします。

まだまだ修行中ですので、意見感想等あればよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ