第三話『 お姫さま、怪物退治にでかけるのまき、まえ 』
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行き先が決まったときには、もうオパーレは走り出していました。
一度決心したお姫さまは、雷も地震も怖くありません。
ぼうぼうの火事やお母さまのお小言だって、へっちゃらです!
ところが、走り出した途端、お姫さまの胃袋が抗議の声を上げました。
きゅるるるるる~~~…………
可愛らしいその音を、人間の言葉に翻訳するなら、こんなところでしょうか?
『へい、ご主人さま! あっしを空っぽにしてどこへ行くんです? お腹がスカスカじゃ、あんよだって動きませんぜ』
ほっぺを赤くしてお腹をおさえるオパーレに、魔法使いが助け船を出しました。
「ちょうど、お昼時ですし、一緒にお食事などいかがですか?」
お馬鹿な竜の一言のせいで、お昼ご飯を抜いたお姫さまに断れるはずもありません。
もちろん、デブの小人も大賛成でした。
そして、食事の準備が始まりました。
お姫さまと小人は、働き者のコマネズミみたいに走り回って、たきぎを集めました。
竜が燃える息でたきぎに火をつけて、魔法使いがその火で皆にごちそうを振る舞いました。
串に刺して焼いたソーセージはカリッとしてじゅわぁっ、チーズはモチモチのトロトロ。
その二つをパンに乗せて食べると、もう美味しくてほっぺが落ちそうになります。
「おい、おちび姫、お前小さいんだから、そのソーセージをよこせ」
「やーよ、わたし、あんたのせいでお昼ご飯食べそこねるところだったのよ」
「俺なんか、お前のせいで朝飯、昼飯ぜんぶ食べそこねるところだったんだぞ!」
「お二人とも、このスクランブルエッグはいらんと言うのなら、わしがもらうぞ?」
取ったり取られたり、取りかえしたり……。
魔法使いは竜と一緒に食べるために、たくさんたくさん食べ物を持ってきました。
しかし、それも餓えた三つの胃袋にかかっては、ひとたまりもありません。
二人と一匹が猛烈な勢いでおかずを奪い合っているのを横目で見ながら、魔法使いは口を動かす代わりに、指を動かし、何かを作っていました。
そしてご飯がすっかりなくなったところで、手を止め言ったのです。
「さて、怪物のところへ行かれるのなら、道案内が欠かせませんね」
「道なら知っている……が、あそこは遠すぎるし、わしはもう一歩も動けんぞ」食いしん坊の小人が丸く膨れたお腹をさすって言いました。
「つまり、乗り物が必要なのよね。わたしたちを乗せて、怪物のところまで運んでくれるような大きな奴が」お姫さまは早くも目をキラキラと輝かせております。
「おい、お前ら……」竜は周りを見渡して「なんで、そろって俺の方を見るんだよ」
「決まってるじゃない。あんたに乗っていくのよ。まさか嫌とは言わないよね?」
もちろん、竜は大きな声で「いやだ」と言いました。
しかし、さっき言った通り、一度心を決めたオパーレの意思ときたら、動かざること山の如し、攻めること火の如しです。
また地獄の小鬼の声を作って、言葉の剣と槍を振りかざし、竜の心に猛攻撃をしかけました。
お姫さまにおどされ、魔法使いになだめられ、耐えに耐えること数十分。
ついに竜は疲れ切った声で言いました。
「も、もう一度、確認するぞ。お前を乗せてやったら、もう俺にちょっかいをかけないな?」
「かけないよ!」元気よくお姫さまが答えます。
「俺が寝ている間に、顔に落書きしたりしないな?」
「しないよ!」
「それから、、たいせつな金貨や宝石を盗んだり、耳に爆竹やさそりを放り込んだり、目にトウガラシや塩をすりこんだり、俺の恥ずかしい寝言を言いふらしたりしないな!」
「しないしない」
なんだか、いまいち信用できません……。
でも、ほかに良い方法も思いつきませんでした。
ちょっとのあいだ、乗り物になるだけで、この小さな悪魔から永遠に解放されてるのなら、安いもんです。
「よし、俺の背中に乗せてやってもいいが、一つだけ条件がある。先におしっこをすませろ!」
「なんで、そんな失礼なことを言うのさ!」お姫さまは怒って言いました。
「なぜなら、前に乗せたお姫さまが、俺の背中でおしっこを漏らしたからだ」
おくゆかしいレディーに向かって、おしっこをしろ、とはなんと失礼なケダモノなのでしょう!
ところが、竜に乗って見ると、オパーレは本当におしっこをちびりそうになりました。
恐ろしさじゃなくて、嬉しさのせいで……。
今まで、オパーレはお城の高いところを全部、制覇してきました。
庭にある木で登らなかったものは一本もありませんし、城壁には毎日の散歩道。
すぐに捕まって下ろされましたが、一番高い塔の屋根にだって登ったことがあります。
でも、竜の背中から見下ろす光景は、それらとは比べものになりませんでした。
手を振っている魔法使いの姿がどんどん小さくなり、、最後には豆粒のようになって消えました。
巨人のように高かった木々は、あっと言う間に草むらのようになり、苔のようになり、ついにはカーペットの模様のようになってしまいました。
そして、ああ、世界は一枚の絵のように目の前に広がり、山が河が、草原が森林が、川が泉が、はるか遠くに見える海が何百と言う色と光の洪水となって、押し寄せて来るじゃありませんか!
オパーレはもう、嬉しくて楽しくて、たまらなくなって、竜の頭の上で飛んだり跳ねたり、たてがみを引っ張ったり、耳にかみついたり叫んだりして大暴れです。
竜はしばらくの間、むすぅとした顔でお姫さまの乱暴狼藉に耐えていましたが、突然振り返って言いました。
「おい、ちび姫よ……」
そしたら大変です。
飛んでいる最中に、急に首の向きを変えたせいで、竜の体は空中でぐるっと大回転!
オパーレと小人は危うく、下の絶景へ滑り落ちそうになりました。
「な、何をすんのよ! あぶないじゃないのさ」
「おー悪い悪い」と、竜の声にはちっとも悪びれた様子はありません。「ところで、お前、怪物を退治するとか言っていたが、本気なのか?」
「もっちろんよ。あんた、信じてないわね?」
「だって、お前、怪物のこと何も知らないだろ」竜は鼻で笑いました。「あいつの頭だけでお前の五倍はあるんだぜ?」
「でも、あたし、あんたをやっつけじゃない。あんたの目玉だけであたしの十倍は大きいわよ」
「あんなのズルしただけじゃないか……」竜は少し困った顔をして言いました。「俺はあの怪物のことを良く知っているぜ。あいつがどれだけ手ごわくて悪賢いかも……でも、お前は普通じゃないし、あいつも、このところ、ちょっと変だからなぁ」
「変ってどんな風に?」
お姫さまは興味津々です。
なにしろ、これから退治しにいく相手のことです。
知っていることが、多いに越したことはありません。
「しばらく前のことだけど……あいつ、人間を食べなくなったんだよ。どんどん痩せてて、弱っていて、殴りごっこや噛みつきごっこにも付き合ってくれなくなった。最近じゃ、ほとんど一日中寝ていて、あまり動かないし、ぜんぜん喋らないし……。
だからさ、万が一、万が一だぞ! あいつがお前に降参したら、それ以上、酷いことするなよ。今のあいつは、もう危険な人食いの怪物じゃないからな!」
「あんた、竜のくせに、他の人の心配をしているの? お母さまはあんたを慈悲もこころもない、物を壊して人を殺すだけのケダモノだって言っていたわよ」
「お前のかーちゃん、酷いこと言うな。でも、まんざら間違っていないぜ。あの怪物は特別なんだ。魔法使いに会うまで、あいつは俺のたった一人の友達で、たった一匹の同類だったんだ。
最近、俺たちは似ているようで、実は正反対なんじゃないかって思うこともあるけど……それでも、あいつが大事な友達だってことは変わりない。だから、俺があいつの面倒を見なくちゃいけないんだ。なんたって、俺の方があいつよりずっとでかいし、喧嘩じゃいつもこっちが勝っていたからな!」
「ふーん、つまり、あんたたちは兄弟みたいなもんなのね……」
オパーレは竜と怪物の絆が、ちょっとうらやましくなりました。
お城には、お話し相手の女の子はたくさんいましたが、同じ年頃の友達は一人もいませんでした。
それにしても、お母さまが選んだ女の子たちって、どうしてあんなに軟弱ものばかりなのでしょう?
チャンバラごっこがしたくても、木の棒で突っついただけで泣き出してしまうし、誰も木登りや探検に付き合ってくれません。
お誕生日パーティで、カブトムシ100匹が入った箱を開けた時の大騒ぎと言ったら!
「ねえ、あんた、うちに来て、わたしの弟になりなよ。そしたら、牛も豚も食べ放題よ」お姫さまは、竜の頭をぺちぺち叩いて、言いました。
「やだよー、なんで俺が、自分より小さな女の子の弟にならなきゃいけないのさ」竜はぷいっと顔をそらし、そのせいでまたオパーレたちが落ちそうになりました。
話している間にも竜の翼は、風のような速さで一行を運び続けました。
気がついたときには、オパーレたちは次の目的地、怪物の森に着いていました。
森の中には、何年もの間、竜が着地し続けたせいで、大きな空き地が出来ていました。
竜はその空き地の中央に、お尻を落ちつけ、お姫さまたちを地面に下ろしたのです。
地に足をつけるや否や、さっそくオパーレは森の中に走っていこうとしました。
しかし、そのとき竜が尻尾をのばして、お姫さま達を引きとめました。
「おい、ちょっと待て、お前に良いものをやるからさ」
「え、何、何をくれるのっ? あたし、格好いい武器が欲しい!」
オパーレは長いこと、小さなナイフじゃなくて本物の武器が欲しいと思っていました。
そして、飛んでいる間、竜の鱗に埋め込まれた色んな宝物に目を着けていたのです。
はたして、竜がくれると言ったのは、あのルビーをはめ込んだ立派な剣でしょうか?
珊瑚と翡翠をあしらった宝刀、それとも象牙と黒曜石でできた弓っ?
ところが、竜が鱗の隙間から取り出したのは、ちっぽけなナイフでした。
そのナイフは燃えるような紅い金属で出来ていて、黒光りする縄のようなもので、編んだ柄と鞘がついていました。
確かに綺麗ですが、それでも他の宝物に較べるとずっと見劣りがします。
「ナイフなら、もう持っているよ。わたし、もらうならそっちの剣のほうがいいなぁ」
「馬鹿っ!」竜は顔をしかめました。「しっつれいなやつだなー。それは俺の鱗と髭でできた短剣なんだぞ。お前がばくばく意地汚く食べている間に、魔法使いが作ったんだ。いいか、この森にはでかくて、腹をすかした動物がいっぱいいるんだ。
お前なんか、入ったとたん、食べられちまうぞ。でも、動物は俺を怖がっているから、その短剣を持っている限り、どんな猛獣でもお前に近づくことはできない」
「へー、これって鋭いの?」
「鋭いなんてものじゃないぞ。何しろ、俺さまの鱗だからな。鋼鉄よりも硬くて、絹よりもしなやか、その気になればダイアモンドで刺身が作れるぜ」
そう言われると、試してみたくなるのが、人の性と言うものです。
オパーレは早速、竜の鱗の短剣で、近くに転がっていた石を切って見ました。
はたして、竜の言う通り、石はほとんど手ごたえも感じさせず真っ二つ!
しかも、その断面の美しさと言ったら、まるで鏡のようにピカピカではありませんか。
これには、ぜいたくなお姫さまもご満悦です。
「これはいいものだわ! ありがとう、また会おうねー」
「冗談じゃないぜ、俺はもう、こんな目はまっぴらごめんさ」
夜のように大きくて黒い翼を広げると、竜は空き地から飛び立ちました。
空の上で、ちょっと振り返って見ると、お姫さまが手を振っているのが見えました。
ふいに竜の胸に、秋の夕暮れのようにわびしい気持ちが、湧き上がりました。
あんな鬼のような女の子でも、いなくなってみると寂しいもんだ。
考えてみれば、あいつは魔法使い以外、唯一、俺を怖がらなかったし、またあとで遊んでやっても……。
いやいや、何を考えているんだ俺は!
せっかく、馬の真似までして、厄介払いしたって言うのに!
きっと、あのお姫さまのせいで、ちょっと頭がおかしくなっているんだ。
はやく正気に戻るために、魔法使いのところへ行って、一勝負しよう。
うん、そうしよう!
激しく首を振って、頭からお姫さまのことを追いだすと、竜は魔法使いの待っている地平線の彼方を目指して、翼を動かしました。
◆ ◆ ◆
空の彼方で竜が、小さな光を残して消えてしまいました。
オパーレは手を振るのをやめて、怪物の森のほうに向きなおりました。
お城の庭にある林が大人しい飼犬だとすると、始めて見る森林はまるで野生の狼です。
大きくて黒くて、不気味にうずくまり、毛を刈ってもらったこともなければ、お風呂に入ったこともなく、何よりものすごいにおいっ!
いつの間にか、お姫さまの隣から小人が姿を消していました。
きょろきょろ、あたりを探してみると、
……いました!
空き地と森の境目にある木の上で、小人は緑色の闇を覗き込み、溜息をついていました。
「やれやれ、見てごらん、すごい茂り具合じゃぞ。どこを見ても、葉っぱ葉っぱ、そうでなきゃ蔓や蔦ばかりじゃ。わしらが小さいとはいえ、ここを潜り抜けていくのは大変そうじゃ。あのやぶの中にでっかい虫がいないことをいのるばかりじゃわい」
「あら、大丈夫よ」オパーレはするするっと木の上に登ってきました。「こんなこともあろうかと、あたし、編み物の習いごとを受けたことがあるのよ」
「編み物じゃと? それとこの地獄みたいな森とどんな関係ががあるんじゃ?」
言葉で答える代りに、オパーレは手近にぶら下がっていた蔓を一つ、さし出しました。
そして、小人がとっさにその蔓を受け取った瞬間……。
一気に飛びおりたのです!
「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
泣き声を上げながら、小人はお姫さまと蔓に引っ張られて、落ちて行きました。
落ちて、落ちて、落ちて、ついに下の茂みに届く寸前、伸びきった蔓がぴーんと張り、今度は上へ上へ昇っていきます。
もうちょっとで、てっぺんに登りつめようとしたそのとき、お姫さまが叫びました「あの蔓をつかんで!」
小人は言われるままに蔓を掴み、それから再び落下が始まりました。
「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
上から下へ、下から上へ、振り子のように、ブランコのように……。
お姫さまの雄叫びと小人の悲鳴を残して、二人はどんどん森の中へと進んで行きました。
何回、同じことを繰り返したことでしょうか。
腕がすっかりくたびれたころ、オパーレたちは森の奥も奥、陽の光も差さない、エメラルド色の暗黒の底にいました。
そこには森そのものと同じくらい古く、竜の胴体と同じぐらい太い切株がありました。
小人はその切り株の根っこの一つに、崩れるように腰を下ろしました。
息も絶え絶えに聞きました。
「お、お、おちびの姫さんや、お前さん、どこへ行こうとしてるんじゃね」
「もちろん、怪物のところに決まってるじゃない」
「その怪物がどこにおるのか、わかっとるのか?」
「ううん、ぜんぜん!」
「そ、それじゃ、お前さん、行き先もわからず、わしを連れまわしとったのかっ?」
「行き先なら、わかってるわ」
オパーレは「どうして、こんな簡単なこともわからないの」という目で小人を見ました。
落ちないようにドレスのベルトに結んでいた竜の短剣を見せて言いました。
「いい、この短剣がある限り、怪物以外の動物はわたしに近づけないのよ。だから、森の中を探検していれば、あっちが勝手にわたしたちを見つけてくれるってわけよ」
「そういう問題じゃないんじゃがのう……」
「大丈夫だって、わたし、うまれてこの方、方向を間違えたことがないのよ」
嘘のように聞こえますが、これは本当のことです。
小さなお姫さまの頭の中には、まるで小さな羅針盤や星座が入っているみたいに、正確に東や西や南や北がわかるのです。
この能力のお陰で、オパーレはお城のどんなに狭い隙間に潜りこんでも、かならず自分の部屋に戻ってくることが出来るのでした。
愛娘の特技を知ったとき、お父さまは「なんてすごい才能なんだ、この子はきっと冒険の天才に違いない」と感動しました。
ちなみにお母さまはとなりで「そんな才能いらないから、3分間じっとしててほしいな」とこぼしていました。
小人はまだブツブツ文句を言っていましたが、お姫さまはかまわずに歩きはじめました。
上を見上げると、複雑に絡み合った枝と葉が、大きな天井のように空をおおい尽くしています。
その深い緑色の闇の奥から、星のようにきらめく無数の眼差しが、おそるおそるこちらの様子をうかがっております。
竜の短剣の効果は抜群で、ほんとうにどんな猛獣も寄せつけないようです。
でも、せっかく森の中に来たのにちょっと勿体ないな。
虎とか熊とか、せめてゴリラぐらい見てみたかったのに……。
オパーレがそんなことを考えながら、歩いていたそのとき、
あ、足を引っ掛けました!
転びました!
それはそれはもう、みごとに頭からべしゃーっと……。
そして、転んだきり、起き上がりません。
気を失ったのでしょうか、いえいえ、良く見るとお姫さまの肩が震えています。
小人も口を抑え、顔を真っ赤してプルプル震えていました。
はるか樹木の上で、お猿の遠吠えが、掌に押し隠された小人の本音を代弁しました。
うひょひょひょひょひょひょひょひょほおおおっ……
いきなり、お姫さまが起き上がりました。
まるで、怒り狂った小熊のように、両手を突き上げ、がおおおっと雄叫びをあげながら。
「何よ、これはっ!」顔が泥で真っ黒にそまって、ますます熊そっくりです。
「木の根っこのように見えるのう」笑いをこらえながら、小人が言いました。
「なんで、木の根っこがここにあるのよ!」
「そりゃぁ、森に木の根っこがなかったら、びっくりじゃのう」
「ちがう! わたしが言いたいのは、なんでこんな木の根っこが、わたしの足元にあるってことよ!」
「思うに……」したり顔で小人は言います。「これで、お前さんも、森で足元を見て歩くことの大切さがわかったじゃろう?」
小人の言うことはいちいちもっともです。
だけど、それでお姫さまの理不尽な怒りが収まるはずもありません。
根っこが憎ければ、葉っぱも幹も大嫌い!
痛みと憤りを込めて、罪のない根っこを、げしげし全力で蹴りまくります。
何よ、この憎たらしい根っこ!
よくもよくも、植物の分際で、わたしをころばしたわね!
でこぼこで、苔が生えてて、先っちょが爪みたいで、おまけにちょっと指に似てて……
……あれ?
お姫さまは蹴るのやめ、もう一度その根っこを良く見てみました。
じっくり眺めてみると、それは木の根と言うよりも、大きな手のひらのように見えました。
その手のような根っこの先には腕のような幹が生えてて、その幹の先にあるのは肩……。
ふいに、苔むした手のような根っこが動きだしました!
びっくりするような速さで、お姫様と小人を捕まえました。
仲良く悲鳴を上げるオパーレたちをつかんだまま、上へ上へと運んで行きます。
そのとき、切り株の表面にふた筋の亀裂が走り、そこから木漏れ日のような金色の光がお姫さまたちの上に降り注ぎました。
「ははっ、こいつはまた可愛らしいお客さんだな」
木の肌のように乾いた唇の奥に見える鋭い牙。
ヴェールのように全身を覆う、ぶあつい苔と蔓の奥から。
人食いの怪物がお姫さまたちに笑いかけました。
第四話『お姫さま、怪物退治にでかけるのまき、うしろ 』に続く
土曜更新のはずが、また一日延びてしまいました(タメイキ)
次の更新は、一週間後……ですが、もうちょっと早くなるかもしれません。
なお、余談ですが、本文の中で、竜は自分のほうが年上だと思い込んでいますが、
実は卵からかえった時間の差で、怪物の方が2,3年ほどお兄ちゃんなのです(笑)




