歴史改編ゲーム
本作はazureimf様の『箱庭の観測者:1945年の広島にネットスーパーで課金する』を拝読し、そこから着想を得たオマージュ作品です。素敵な作品を投稿してくださったazureimf様に感謝いたします。
『歴史改編ゲーム:太平洋戦争末期の日本人に食糧を届けよう!』
「なんだこれ?」
ここは令和の日本。
たまの休日、エイジ(三十代男性、独身、エンジニア)はネットサーフィンをしていて奇妙なゲームを見つけた。
それは基本無料で遊べて、内容はゲーム内ショップでコメを買って指定した場所に届けるだけ。
届け先は歴史上の様々な時代と場所が選べる。
最初は西暦1945年の広島市から始めるようだ。
まあ無料なら、とエイジは軽い気持ちでそのゲームをプレイし始めた。
毎日一定金額与えられるゲーム内通貨で、ゲーム内商品であるコメを買い、マップから適当に選んだ家に届ける。
すると現地の住人が驚き、神か仏かと感謝を捧げながらコメを炊き、美味しい美味しいと涙を流して感激しながら食べるのだ。
ただそれだけのことなのに。
「……案外楽しい」
ハマった。
「なんかこう、腹の底から喜びが湧いてくるというか。いいことしたなあって気分になれる。架空のゲームではあるが、やっぱり人間って誰かの役に立ちたいっていう根源的欲求があるんだよな」
エイジは立て続けにゲーム内通貨でコメを買い、様々な場所に届けた。
ある家では、衰弱していた幼児がコメを炊いて作ったおかゆを口にして、状態が改善し、起き上がれるようになった。
ある家では『夢なら醒めないうちに』と炊き立てのご飯をがっつくように口に運んでいた。
またある家では他人に知られないようコメを床下に隠し、ごく少量ずつ、すいとんに混ぜて食べていた。
また別の家では、栄養不足で倒れる寸前の友人を見捨てるに見捨てられず、誰にも言うなと口止めした上で握り飯を分け与えていた。
「反応が色々だな。ヒューマンドラマ的要素というやつか。この中ではやっぱり他人を助ける姿が美しいな。食欲剥き出しでがっつくのは美しくはないが、まあ気持ちはわかる。地下に隠す心理もわからないではない。奪い合いになったら怖いからな。衰弱した子どもが元気を取り戻すのには感動した」
ゲーム内通貨を使い切り、エイジはその日はそれでゲームを終えた。
そして次の日。
すっかりハマった歴史改編ゲームで、コメを飢えた人々に届けながら、彼はふと気づいた。
「広島だけじゃない。東京でも人々は飢えてるじゃないか」
むしろ東京都民をこそ支援すべきなのでは。
歴史には詳しくないが、東京大空襲って酷かったらしいし。
そう思った彼は「東京」のマップに切り替えて、コメを届け始めた。
驚き喜ぶ東京の人たち。
空襲で家を失った子どもたちが涙を流しながら握り飯を頬張る。
「うんうん、おなかを壊さないように少しずつ食べるんだよ」
温かい気持ちで画面を見守るエイジ。
その日はそれでゲームを終えた。
そして翌日。
彼は気づいてしまった。
「南洋で戦ってる兵隊さんたちにも支援が必要じゃないか!」
マップを南洋に切り替えて、彼はガダルカナルにコメを届けた。
現地の兵隊たちは驚き訝しみながらコメを飯盒で炊いて分け合った。
エイジはその姿を見て涙ぐみながら、あっちの島へ、こっちの島へ、あっちの中隊、こっちの中隊とコメを届けまくった。
「希望を捨てずにがんばってください! 生きて日本に帰れるように!」
次の日、彼はまたしても気づいてしまった。
「南洋だけじゃなく、満州にも困ってる人いるじゃん!」
ついに彼はゲームに課金を始めた。
有料版、月額980円。
これでコメの量が一気に増やせる。
日本全国津々浦々、南洋諸島に満州、ええいソ連抑留者もだー!
飢えてる同胞に片っ端からコメを贈るぞー!
だんだんとこのゲームはただのゲームではないような気分になってくる。
もしやこれは時空を超えて過去の世界に繋がっているのでは?
自分の支援が本当に生きた人々を救っているのでは……?
錯覚かもしれないが、そう思うとプレイにも力が入る。
何よりも『いいことをしている』という実感が彼に喜びと生活の張りを与えていた。
毎日が楽しい。
偽善と言われてもいい。
承認欲求と笑わば笑え。
人間は社会性の動物、同胞の力になりたい生き物なんだ!
やがて彼は他プレイヤーの存在に気付いた。
彼以外にも熱心にコメを届けているプレイヤーがいるようだ。
ゲーム画面で『みずあめさんからハバロフスクの日本人におコメが届きました!』といったアナウンスが時々流れる。
マップで確認すると、飢えている日本人を示す赤い色が少し減って、喜びに溢れる日本人と米の飯の画像が表示される。
顔も知らないプレイヤーたちに彼は仲間意識を覚えた。
「みずあめさん、グッジョブ! みんなで同胞にコメを贈ろうぜ!」
※
その頃、日本では『米騒動』が起きていた。
「倉庫からコメが消えました!」
「なんだと? あれほど大量にあったのに!」
各地の倉庫からどんどんコメが消えていく。
盗まれたのか?
それにしてもどうやって?
犯人の姿は目撃されることがなく、ただ気が付いたら大量のコメがなくなっている。
販売業者の倉庫だけではない、カントリーエレベーターの中もいつの間にか空っぽに……。
警備を増やしても、犯人は警備を潜り抜けてコメを持って行く。
消えたコメの行方はわからなかった。
市場に出回るコメの価格は跳ね上がった。
どんどん消えていくコメ。
わずかに残された希少なコメは庶民の口には入らない高級品になっていく。
いったい消えたコメはどこに……?
※
「今日もたくさんコメを届けるからなー。みんな腹いっぱい食べろよー。あ、C.E.さんが沖縄にコメ届けてる。そっかー、沖縄にも支援は必要だよなー。盲点だったわ。C.E.さんグッジョブ!」
人助けを楽しむ善良なゲームプレイヤーたちは今日もせっせと画面の向こうにコメを届けている。
<完>
最近コメが少し安くなってきましたね。この作品、去年だったらもっとインパクトあったのに。あの異常な米価の時にこれが書けていれば……。タイミングのずれがちょっと惜しい気がします。
作中に名前だけ登場する他プレイヤーはful-fil作品によく感想をくださる読者様をモデルにしました。のどあめ様、クレイジーエンジニア様、無断でモデルにしてすみません。




