おとうと
太陽が真上にきている。
「暑い」
「うん」
「熱中症になりそうだ」
「大丈夫だよ」
「どうして?」
「もう家に着くから」
弟は この坂道を コンクリートの坂道を歩く。一歩後ろから その背中を見つめる。
「あんた 背伸びた?」
弟は ふうー と息を吐く。
「結構ね」
炎天下の中出歩く人はいない。びっちりと立て並ぶ個性的な家。無感情。迎え入れてくれる家はない。
「どうして?」
どうして? ただこの暑さを消すだけの質疑。
「別に」
「別に・・・・・ね」
弟の言い方は 拗ねた恋人のそれと似ていた。
「お姉ちゃんがいないのさみしかった?」
額から汗が流れる。それを拭おうとする前に弟と目があった。
「姉ちゃんはいいよな」
坂のせいではない。この身長差。近づく事も 下がる事もできない。
「・・・・・・」
弟の剣幕におされたのではない。この暑さが 私を沈黙させたのだ。
「俺はこの先 あの家で一生・・・・・無為に生きなければいけないのに」
「・・・・・それは」
暑い。また 汗が流れる。
「俺は 家を出て あの家の俺を失くしたかった。姉ちゃんと一緒に・・・・」
車が 黒い車が一台横を通る。ウィンドウ越しに運転手と目が合う。
きっと いい見世物だ。
「・・・・・ あの日があんたを変えたなら・・・・・私はもうここから動けない。」
弟は 私の荷物を地面に置いた。どうするかは分かっている。この瞬間を私は何度となく経験している。
そしてこの瞬間が最も幸福で 切ない事も。
「・・・・やめて」
伏せた目に空き缶が映った。無機質。思い切り蹴飛ばしたくなった。
「姉ちゃんは・・・・・・俺とは・・・・・」
つづきます・・・・・・・
弟め 好きかって動きやがって・・・・・
作者の思い通りに動かないやつ・・・・・・
あえて短編で載せようと思ったのですが・・・・・・・
弟め・・・・・・・・