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土塀の町でわたしは兄の親友に恋をした。凍る国からの帰還兵はメープルホテルで出会う。  作者: レモン


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第18話  お茶会

ある日曜日、遥佳はメープルホテルの手伝いもなく、この町のお屋敷のひとつで開かれるお茶会の手伝いに参加している。


同じ年頃の女性の多くがそうしているように、遥佳も茶道を習っている。

茶道は、落ち着いて点てた美味しいお茶とともに、お菓子をいただくひとときがあるので、気持ちの落ち着く雰囲気も含めて、その時間を楽しんでいた。


そして年に何回か、お茶会という催しがあって、各茶道のグループは、それぞれ役割分担があり、遥佳も自分の師事しているグループの手伝いに参加しなくてはならなかった。


今日、茶会が開かれた会場は、もともと武家の屋敷だったもので、大きな池のある庭園に面した、大広間、また独立した茶室、などが点在して、何ヶ所かに茶席が設けられていた。


主な茶席である大広間には、ズラリと和服姿の人々が、正座している。


お茶を点てるのは1人で、正客に出すのだから、他の人々へは、別にお茶を点てて、ひとつずつ、持ってゆく。


そのお運びをするのが、遥佳たちのような若い弟子の女の子で、皆華やかな着物を着ている。


そして今、大広間で、お客たちの前で、皆が見守る中、端然とお茶を点てている美人は、碧伊さんという人だ。


黒地に朱色や金銀の縁取りの紋様が描かれた着物が、大人っぽくて艶やかだ。


遥佳と同じ先生に師事しているので、彼女は先輩にあたる。


碧伊さんに見惚れてしまう。遥佳は思った。


碧伊さんが参加するのは今回が最後で、間もなく結婚して名古屋に行くというのは、前回集まりがあったときに聞いている。


弟子仲間でお祝いを包んだからだ。


そしてそれ以前に、碧伊さんがお見合いのとき、メープルホテルの個室で会食をしてくれたのも、遥佳は知っていた。


メープルホテルは、個室での少人数の会食や、お見合いなどにも利用されるようになっていたのだ。


その時相手の人は見なかったけれど、碧伊さんに似合う、きっと素敵な人なのだろう。碧伊さんみたいな人と結婚できる男性は幸福だな、と思った。


さて、池の反対側にある茶室では、男性の茶道グループによる男点前の茶席が設けられている。


そちらでは、学友の美夜の兄が、茶席でお点前をしているという。


この町では、地区が違ったので、二人は見ず知らずだったが、大学に入って出会い、遥佳は美夜が同じ町から来ていることを知り、友人になった。

美夜の家は、門前町にあり、さくら茶舗というお茶屋だそうだ。

このお茶会のお茶も、さくら茶舗に注文しているという。


家の仕事の関連もあって、美夜の兄の陸は、全面的にこの催しを支えている一人らしい。


遥佳は、交替で休憩をもらい、そちらの茶席に行ってみた。

美夜も来ているだろう。


男性による点前は、お運びもすべて、袴姿の男性がする。

女性達の色とりどりの和服とは違い、男性達の姿は、色調が落ち着いている。それが、かえって格調高い感じで、とても素敵だと遥佳は思った。

もともと、茶道は男性の嗜み、武将達が行っていたものだというのもよくわかる。


美夜の兄の陸が、点前をしていて、美夜も今日は着物を着て、進駐軍の人と、客席に座っていた。


美夜の兄は、男性にしては華奢で色が白く、品が良い人だと、遥佳は思った。

ウェーブのかかった髪も茶色で、目を伏せてお点前をしている顔も、陰影がはっきりしている。


そして、美夜の隣にいる進駐軍の外国人。熱心にお点前を見ている。

多分、あれがよく話に聞くベンさんね、と思った。


茶席が終わり、遥佳に気付いた美夜が、にっこり笑って、こっちへやって来た。


「美夜ちゃんのお兄さん、よく似合ってるね。やっぱりお茶の仕事をしてるからね。準備から手伝ってるの?」


「そう。こういう大きなお茶会は、男の人の手が必要で、当日のお点前だけじゃなく、準備も、何日も前からずっとしてたよ」


「進駐軍の人も、とても熱心にお茶席に居たね」


「ベンさんは、おばあちゃんの淹れたお茶やお抹茶を飲んでいるので、慣れてるし、日本の文化が好きなの。今日もとても喜んでくれたみたい」


「いつも、美夜ちゃんの周りに、そういう人がいるから、英語上手なんだね」


遥佳が言った。そして


「実は今度、先輩が2人、結婚して辞めてしまうので、次の会から、私もお手伝いが増えそう。ホテルの手伝いもあるので、できるかなあ」


と言った。


「そうなの」


「ひとりは、今日お点前をしていた碧伊さん。結婚して名古屋の方に行っちゃうの」


「えっ?碧伊さん、結婚?」


美夜は驚いたようだった。


「美夜ちゃん碧伊さんを知ってるの?」


「もちろん。同じ地域だし、うちのお店にも来てくれてたし。それに、有名人だったもの」


「なるほどね」


「男の子の憧れというか、マドンナ!」


美夜が言う。


「じゃあ多分、がっかりする人沢山いるね」


と言って、二人はくすくす笑った。



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