第15話 ウィル
大火の時、思いがけず、ベンさんやウィルのおかげで、父の趣味の写真機やアルバムまでも、運び出してもらっていた。
不在だった父も兄もとても感謝し、ベンさん達とこれまで以上に、すっかり親しくなっている。
その進駐軍の人々も、少しずつ本国へ帰ったり、入替があるようだ。
進駐軍として居留しているウィルは、美夜と同じ年で、灰色を帯びた深く青い瞳の、美しい青年だった。
物静かで、いつも美夜に、微かに微笑みかけているようだ。
美夜は、ウィルと話しながら、英語を教えてもらう。
ウィルも、少しづつ、日本語を喋るようになっている。
ウィルは、美夜の、初めての異国人の友人だ。
社交的な美夜の父は、彼らが休みの日には、一緒に、温泉に行ったり、観光地に行ったりして、楽しんでいた。
比較的近くに行く時は、美夜も、一緒に行くことがあった。
今日は、入り江のある丘に十数人で来ている。
海の色がグラデーションになっている。
向こうの島へ、美しい橋がまっすぐ伸びている。
休日なので、美夜も参加した。
実は、べンさんはまだ残るけれど、ウィルはこれで任期を終えて、本国へ戻ることになっていた。
せっかくだから、この町と向こうに広がる海を見よう。
座り込んで、持ってきたお弁当を広げて、食事をしている人々を置いて、ウィルと美夜は、反対側の海の景観を見に行った。
爽やかな空や風の日だった。
ウィルには青空が似合う。
彼の故郷は、もっと広く、どこまでも、空や緑が広がる景色なのだろう。
いつか、みんなでウィルの国にも行くね。
美夜がそう言うと、突然、ふっと、柔らかなものが、額に触れた。
それから、頰にかけて、美夜の顔中に、軽く柔らかな甘い感触のものが降ってきた。
見上げると、はにかんだ笑顔のウィルが、見つめていた。
空も入り江も碧く、ウィルの金色と褐色の混じった髪、空より濃い青色で、グレーが混じった瞳、美しい色合いの綺麗な顔がある。
大火のときなど、あんなに力があって大きいのに、美夜に対してはソフトで、軽やかな触れ方が不思議だ。
ウィルとの心地良い、淡い関係かもしれないが、優しい思い出。
ずっと先で、ウィルがこの日々のこと、この町のことや、自分のことを、楽しい思い出として、心のどこかに覚えていてくれたらいいな、と思う。
美夜も、覚えているだろう。
形のないものだけど、温かく消えずに残ってくれるだろう。
美夜はそう思った。




