表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土塀の町でわたしは兄の親友に恋をした。凍る国からの帰還兵はメープルホテルで出会う。  作者: レモン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

第12話  進駐軍と昔の町

しばらくして、その大きな戦争は終わった。


港のある中心部は空襲を受けたが、美夜達が住むこの古い土塀の町は、空襲の被害を受けることはなかった。それだけでも幸運だったと言える。


そして、土塀の続く世界は、これまでの時代をそうして経てきたように、何事もなかったかのように、静かにそこにある。


兄の陸は、結核の病棟に入院している。もう少し療養にかかりそうだ。


隼人も、すでに復員しているということを、兄と共通の友人が話していたという。

でも、彼はこの町には戻らず、神戸の港湾地区に工場を持つ、叔父のもとで仕事をしているのだと、人伝に聞いた。




*  *  *


終戦になると、この土塀に囲まれた城下町に、何千人という進駐軍が訪れ、駐留することになった。


市街地は、空襲を受けて壊されていたけれど、この土塀の町はその被害を受けていなかったので、進駐軍が駐留できるような、家屋や施設がそのまま残っている。


小さい地域ながら、学校がいくつもあり、病院もあり、また大きな屋敷や工場もある。それらが、接収されて、進駐軍の拠点となったのだ。

屋敷町の中に、進駐軍の社交クラブも作られた。


町の人々が、進駐軍に正式に対面したのは、軍の吹奏バンドが、その施設から出て、町の通りを演奏しながら行進したときだ。


米国ではなく、他の連合国の人々で、おおらかな感じの人が多かったと、美夜達は記憶している。

宿舎がこの城下町に置かれたことで、彼らは町の人々にとって、とても身近な存在になってきた。


さくら茶舗は表通りに面しているので、店の前を行き来する進駐軍の人々を

見るのは、今や日常の景色となった。

この町の人々にとって、珍しい光景であるように、それは進駐軍の人々にとっても同じで、彼らは彼らで、この町の様子に驚いていた。

土塀に囲まれた昔の世界、古い寺社や屋敷、もみじと桜の通り。


「映画のセットのようだ」


と、皆カメラを持ち歩き、写真に残した。


軍の中には、日本語の辞書を持って歩き、教育を受けて、慣れないながらも、話ができる人々がいた。

そのひとりがベンさんだった。


ベンさん達と、まずいつも店にいる、社交的な祖母が顔馴染みになり、祖母が淹れたお茶を、ベンさん達は喜んで味わっていた。

そして、お茶の代わりに、ベンさん達は、軍にある美味しいお菓子、チョコレートやクッキーなどを、持ってきてくれた。


間もなく、祖母だけではなく、父や他の家族も親しくなってゆき、みんなでお茶の時間を過ごしたり、昼食を食べたりするまでになった。

陸が全快して、療養所から戻ってからは、簡単な通訳をしてくれたので、もっと話がはずんだ。


ベンさんは、30歳位で、祖国に妻や子供達がいるということだった。

彼と一緒に来る進駐軍人の中には、美夜と同じ位の年齢の、美しい青年がいた。


彼は、ウィルと言った。


ウィルは、もの静かだったが、いつもニコニコして、ベンさんと一緒にやって来ては、祖母とお茶の時間を過ごしているようだった。


彼はじきに、美夜の英語の相手をしてくれるようになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ