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第十一話 報告

 老爺はたっぷりと蓄えた白髭を揺らしながらゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

 顔は欧米風だ。

 日本語をしゃべってはいたが、少なくとも純粋な日本人ではないだろう。

 

 老爺をよく見れば、顎だけじゃなくて、薄っすらと頭にも白い毛が生えている。

 年齢は七十程度だろう。

 

 そして、老爺が身に纏っているのはWGSPの団服。

 だとすればこの人もWGSPの団員なのだろうか。

 いや、恒星や救宇のようにどこからか救出されて、ゴブリンストロング対策に着ているだけかもしれない。


 一先ず、人がいて一安心だ。

 

「空助、光、そちらは?」

 

 老爺は恒星と、いつの間にか隣にいた救宇に交互に視線を配りながら言った。

 

 その声音は掠れがかりつつもどこか野太さも感じさせてくる。

 日本でも元アスリートとかにいる、強い老人、という印象だ。

 

「夜光恒星と空風救宇よ。ここまで来る道中、ゴブリンに襲われていたところを助けたの」


 光が答えると、老爺はそうかと言いながら白髭を撫でた。

 恒星の目にはその仕草がどうも様になっているように映った。


「ワシの名前はファイティング・スピーリット。WGSPの団長だ。よろしく頼む」


 ――この人が、WGSPの団長……。


 言われてみれば、老爺改め老人は年齢にしてはがっちりとした体躯を持っていた。

 背筋も曲線を描いておらず、ピンと伸びている。


 そして何より、強そうなオーラを纏っている……気がする。

 

「団長さんなんスか! カッコいいっスね!」


 救宇が笑いながら言うと、老爺改めファイティングは再び白髭を撫でた。

 癖なのだろうか。

 

 そしてゴホンと咳を一つした挟んだ後、口を開いた。


「お前たちには訊きたいことが山程ある。着いてきてくれ」




 ファイティングに案内された場所は、 机と椅子のみが設置された簡素な小部屋だった。

 韓国基地の会議室に酷似しているが、こちらは地下にある為、窓がない。

 

 一番手前の席に着席したファイティングの隣に空助。ファイティングの対面に光が座り、その横に恒星が座る。救宇は恒星と空助の隣に急造されたお誕生日席だ。


 因みに、この部屋に来る途中、何人かWGSPの団服を着た人とすれ違った。

 それにより、この基地にいるのはファイティングだけなんじゃないか、という不安は解消された。

 本部は完全に無事なようだ。


「まずは、よく無事でいてくれた。流石、日本基地の団員だ。ゴブリンに通信設備がやられてどの基地にも繋がらなくなってしまったから、生存が確認できた団員は本部の団員を除いてお前らだけだ」


 ファイティングはそう言いながら、いつの間にか置かれていたグラスを仰いだ。

 中身は分からない。酒かもしれない。


 生存が確認されたのは恒星達だけ、それは無論いい知らせではない。

 ゴブリンと戦う際に他の基地からの応援は期待できなさそうだ。


「本題に入ろう。まずお前らは……」


 


 その後、ファイティングに数多くの質問をされた。

 

 どうやって本部まで来たのか、地上の様子はどうだったのか、他の基地と通信はできたのか、ゴブリンストロングと遭遇した時の状況はどうだったか、等。


 それらは光と空助が中心となって、一切の嘘偽りなく答えた。




「大変だったな。本当に、よく無事でいてくれた」


 質問を終えたファイティングは、再びグラスを仰ぎながら言った。


「お前らから何か訊きたいことはあるか?」

「あの……」


 ここまであまり話に入らなかった恒星が小さく手を挙げた。

 机を囲む全員の視線が恒星に降り注がれる。


「訊きたいこと、というか、気になったことなんですけど……」

「なんだ。どんな些細な事でもいいから言ってくれ」


 実はこの道中、恒星には気になっていたことが、最初にゴブリンの襲撃に遭った時のこととは別にもう一つあった。

 もしかしたらどうでもいい情報かもしれないが、折角の機会なので、一応言うことにした。


「俺達が韓国に渡った後、一度もゴブリンを見ていないんです」


 そう、恒星が気になったのはそこだ。

 思い返してみれば、それなりの時間を韓国と中国で過ごしたが、その間一度もゴブリンと遭遇していないのだ。

 よく考えれば、ゴブリンと最後に遭遇したのは韓国でも中国でもなくて、日本基地なのだ。


「確かに……そうね」

「日本ではうじゃうじゃいたのに、韓国に渡ってからは見てないっスね」


 光と救宇は恒星の発言に小さく頷いた。

 ファイティングは机に肘をついて、うーんと唸る。


「でも韓国基地や中国基地を見た感じ、ゴブリンに襲われた痕跡があったのよね」

「あぁ、あった。だから間違いなく韓国や中国でもゴブリンは発生しているはずだ」


 これは単に、偶然ゴブリンと遭遇しなかっただけの可能性もある。

 だが、恒星に限って言えば日本で三回もゴブリンと遭遇していることから、その可能性は薄いように感じられた。


「お前ら、韓国に渡ったのっていつだ?」

「昨日の昼前ぐらいよ。それがどうかしたの?」


 ファイティングは再び白髭を弄り、グラスを仰いだ。

 だが、既に飲み干してしまっていたのか、直ぐにドンと音を立ててグラスは机に置かれた。


「もしかしたら、ゴブリンによる襲撃は終わったのかもしれんな」


 ――襲撃が、終わった……?


 それは恒星にとって全くの予想外の答えであった。

 てっきり、偶然じゃないか、とでも返されると思っていた。


「どういうことよ」

「今までゴブリンが発生した時も、ある程度したらゴブリン共はどこかに消えただろ」


 確かに、ファイティングの言う通りゴブリンによる襲撃が終わったのだとしたら、ゴブリンを見かけなかったことへの説明は付く。


 ただ、それだと……。


「襲撃が終わったって……じゃあゴブリンに連れ去られた人はどう助ければいいんですか!」


 恒星が言おうとしていたことを、先に救宇が言った。

 いや、言った、というより叫んだに近いだろう。

 

 救宇のそんな声は、初めて聞いた。


 今までのプランだと、『ゴブリン共をぶっ倒して、どうにかしてみんなを助ける』というものだった。

 そのどうにかっていうのはあまりにも適当すぎる気がするが、それに関しては今はいい。

 

 もしも、ゴブリンの襲撃が終わったとなればそのプランを実行に移すことは叶わない。

 つまり、みんなを助けることもできない。


「あくまで可能性の話だ。お前らが偶然ゴブリンと遭遇しなかっただけの可能性だってある」


 ファイティングは救宇に対して落ち着けという視線を投げる。


 救宇の方に視線をやると、眼に涙を浮かべていた。

 今にも強く泣きだしてしまいそうだが、それを必死に堪えているように見える。


「なんだよ、折角ここまで来たのに」


 救宇はぼそっと、ただ確実にこの部屋にいる全員に聞こえる声量でそう呟いた。


 瞬間、部屋を静寂が包み込む。

 救宇が鼻水を啜る音だけが空間に響く。

 

「あの……」


 恒星は声を出した。

 誰からも反応もなかった。


「次、もしゴブリンの襲撃に遭ったら、ゴブリンゲートに自分から突っ込むって言うのはどうですか。ゴブリンはゲートの中に人を連れ込む。なら」


 恒星が言っているのは、『ゴブリン共をぶっ倒して、どうにかしてみんなを助ける』の、どうにか、の部分だ。

 

 ゴブリンに連れ去られた人たちは恐らく、ゴブリンゲートの中にいる。

 ならば、自分たちがゲートに入って救出に行けばいいのではないだろうか。

 これなら、もしかするとゴブリン共を多少相手することはあれど、全滅させる必要はないのではないか。


 尤も、この案はゴブリンの襲撃が終わっていないこと前提のものではあるのだが。


「ダメだ危険すぎる」

「そうよ、中がどうなっているのか分からないのに」

「だな。オレもそう思う」


 三人からの否定。

 だが、恒星としては、それ以外に連れ去られた人たちを救出する方法はない、と思った。


 もしかしたら、ゴブリンを全滅させればボス的な奴が現れて、そいつを倒せばゴブリンゲートの中から連れ去られた人たちが出てくる、みたいなのはあるかもしれない。

 だが、それはあまりにも現実離れしているように思えた。

 尤も、ゴブリンに世界中の人が連れ去られている時点で既に現実離れしているような気もするが。


「じゃあ、どうやって助ければいいんだよ」


 再び空間は静寂に包まれた。

 今度は完全に無音となり、空間は振動を放棄した。


「取り敢えず、今日はもう遅い。お前らの分のベッドは団員に用意させてある。長旅で疲れているだろうから、今日はもう休め」


 静寂を突き破る一声を発したファイティングは徐に立ち上がり、そのまま部屋から出て行った。




「大丈夫か?」


 あの後、恒星と救宇は本部の団員に、大きめの部屋に案内された。

 部屋の隅には普通サイズのベッドが二つ。二段ベッドではない。

 少なくとも韓国基地の部屋よりも何倍もいい部屋だ。


 恒星と救宇は互いにベッドに腰かけて会話をする。


「何で……恒星さんは平気なんですか。みんなを助ける方法を失ったかもしれないんですよ」


 救宇の声からは怒り、そして悔しさの感情が感じられた。


「平気じゃねぇよ。全く。俺だって、両親も友人もみんな行方不明なんだ。本当は、今すぐに泣き出したい」


 恒星だって心境は普通でない。

 不安やゴブリンへの怒り、己への無力感。

 本当は今すぐにでも泣き出したい。


「じゃあ……なんで泣かないんですか?」


 その質問に対する答えは一つだ。


「好きな女の前だからだよ」

「え?」

「好きな女が見ている前で泣けるかってんだよ。俺は決めたんだよ、光を守るって。俺がもしも泣きじゃくってる姿を見せたら、光はきっと不安になっちゃうだろ。だから……我慢してんだよ」


 恒星が言うと、救宇はくすっと笑った。


「遂に好きだって認めましたね」

「あ……」


 救宇は立ち上がり、冷蔵庫に元から入っていたコーラを二本取り出した。

 そして再びベッドに腰かけると同時にどうぞ、と言いながら恒星にコーラを一本渡す。


 直後、プシュッという音が部屋に響いた。


「恒星さんは強いですね」

「それ光にも言われた。強くないって」


 光の時も言ったが、別に強くなんかない。

 ここに来るまで、救宇にも光にも沢山迷惑を掛けたし、助けてもらった。


「いや……強いです」


 救宇はなんだか羨むように言った。

 恒星にはそれが何故なのか、全く分からなかった。


「兎に角、泣きじゃくっていても仕方がない。みんなを救う方法はまた明日考えよう。お休み」


 恒星はそう言って、互いのベッドを隔てる箪笥の上に置かれたリモコンを手に取り、部屋の電気を消した。




『ウーウーウー! ウーウーウー!』

 

 意識を飛ばしてから数分。

 恒星はけたたましいサイレンの音で目が覚めた。

 

 恒星は部屋の電気を()けて、救宇の方を向いた。


「救宇、何だこのサイレンの音は?」

「わからないっス。取り敢えず、光さん達と合流しましょう」


 恒星は部屋のカギを握りしめ、救宇と共に部屋を飛び出した。




 光とは直ぐに合流できた。

 

 光は先程の小部屋の付近にいた。

 曰く、光も光で恒星と救宇を探していたのだと。


「光、このサイレンについて何かわかるか?」

「いや、分からないわ。システムの誤作動かしら」


 光がそう言った次の瞬間、奥から空助が走ってきた。

 その顔は空助にしては珍しく焦りの色を見せていた。


「空助、どうしたのよ」

「大変だ。大量のゴブリンが基地に侵入した!」

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