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第十話 WGSP本部基地

「酷い有様だな」


 先頭で入口のドアを開けた空助は眼前に広がる光景を前に、そう呟いた。


「どうしたんで……」

 

 遅れて入口を通った恒星達も、その光景を見て思わず言葉を失う。


 眼前に広がる光景は、一言でいえば凄惨だった。

 

 他の基地の同様に入口から直線状に伸びる廊下は紅く染まっていた。

 ある程度の時間が経っているからか、乾いて色が薄くなっているのが嫌にリアルだ。

 

 床には花瓶の破片や銃或いは銃弾などが散乱しており、一歩間違えれば足を切ってしまいそうだ。


 恒星達が来る前からちかちかと点滅していた蛍光灯が不気味な雰囲気を醸し出している。


「この基地にいた奴らが無事だといいが」


 空助が地面に屈んで一つの小さな煌めく石を拾いながらそう零す。


「進むぞ。ジェット機はこの先だ」


 空助は石を床に戻して、そう言い、歩き始めた。


「光、足元気を付けて」

「恒星もね」


 恒星達もゆっくりと、後に続く。




 空助の後を追って基地を進んでいくと、裏口のようなドアに行き着いた。

 空助はこちらに振り向いて、全員いるかを確認した後にゆっくりとドアを開けた。

 

「カッコいいな」

「すげぇっス」


 ドアの先には一機のジェット機が鎮座していた。

 列車一両分ほどの大きさで小型ながらも、外装はピカピカの鉄板。

 ジェットエンジンもしっかりとついており、男のロマンを刺激してくる。


「このジェット機は緊急時でも使えるように整備されている。前の整備からは時間が経っているが、恐らく落ちることはないだろう」

「恐らくってなんスか」

「いいから乗るぞ」


 空助の言葉に一行は不安を抱えながらも、空助の後を追ってジェット機に乗り込んだ。


「僕、ジェット機なんて乗るの初めてっス」

「俺もだ。何かわくわくするな」


 ジェット機の内部には操縦席の他に廊下を挟んで二席ずつ合計四席の椅子があり、恒星と光で手前二席、救宇は恒星の後ろの席に座った。


「本部までは大体三時間ぐらいだ。向こうで何があるか分からない。十分に身体を休めておけ」


 空助は三人に向かってそう言うと、操縦席に座り、操縦桿に手を掛けた。


 そして次の瞬間、ブォォォというエンジン音と共に機体が傾き、やがて宙に浮いた。

 窓から見える中国基地がどんどん小さくなっていく。


 


「いやぁ、快適っスね」


 離陸から数分後。

 救宇が窓側の椅子の隙間から小さな声で恒星に話しかける。

 

「だな」


 恒星も同様に小さな声で返す。

 光に聞かれないように。


 ヘリコプターの椅子とは違い、ジェット機の椅子は柔らかくて、座り心地がいい。

 そして何より、


「ヘリの時とは大違いだよな」


 ヘリの時は機体が乱高下を繰り返して幾度も墜落しそうになったりしたが、今回はそれがない。

 今の所、救宇が吐き気を催したりもしていない。


 空調も効いているし、凄く……快適だ。




「あと三十分程で到着だ」


 ジェット機に置いてあった非常用の乾パンや缶詰を口に入れ、英気を養っていると、操縦桿を握る空助からそう言われた。


「とうとうここまで来たのね」

「あぁ、長かったな」


 長かった、とは言っても、実は恒星が光に助けられてから今日を入れてまだ三日しか経っていない。

 だが、その三日が濃すぎた。


 広島で光に助けられ、山口で救宇を救出し、救宇の家で一夜を明かし、日本基地へ向かい、そこからヘリで韓国へと渡り、韓国を斜行(しゃこう)して韓国基地に行って空助と合流し一夜を明かし、黄海を渡って中国基地に向かい、そこからジェット機で飛んで今に至る。


 本当に長い道のりだった。よく無事に辿り着いたものだ。

 間違いなく、人生で最も濃い三日間だっただろう。


 だが、本番はこれからだ。

 今から恒星達はゴブリン共をぶっ倒してみんなを救出しなければならない。

 一番危険で、一番重要な作業がまだ残っている。


 ――頑張ろう。


 


「お前ら、一応訊いておく。もしも本部が全滅していたらどうする?」


 空助のその言葉に、狭い機内が静まり返る。


 光曰く、WGSPの本部にはたくさんの優秀な団員がいる。

 それに加え、本部というからには、防衛システムだって他の基地よりもしっかりしているだろうし、武器の類も多くあるだろう。

 だから多分、大丈夫……なはずだが。


「……考えていないわ」

「まぁ、そうだよな」


 光が沈んだ声で答える。

 道中で何度か聞いた声だ。


 恒星はそっと手を伸ばして光の手を握る。


「その時はそのときっスよ。その時は僕たちだけでゴブリン共をぶっ倒してみんなを救っちゃいましょうぜぽんぽーん」

「それもそうだな。そうするしかあるまい」


 救宇の言葉に、空助は小さく頷いた。


「……みんな、頑張るわよ」




 機体は無事、砂漠のど真ん中に着陸した。

 本当に、快適な三時間だった。

 身体が休まったし、何より腹が膨れたのが大きい。

 今ならゴブリン一匹ぐらいなら素手でも倒せる気がする。


「着いてこい」


 空助は機体から降りると、先に降機していた三人にそう声を掛けて、どこまでも広がる砂の世界を歩き始めた。




 五百メートル程歩いた位置で空助は立ち止まった。

 恒星達も空助に合わせて立ち止まる。


「どうしたんスか?」


 救宇の問いかけに空助はここだ、とだけ言って身体を屈ませた。


 ここはジェット機が着陸した場所と何も変わらない砂の大地。

 岩や丘があるわけでもなくただの広大な砂地の一部だ。


 ――一体、何をするんだろうか。


 そう恒星が思ったと同時に、空助が砂に地面の砂に手を触れ、そのままサッサッと掘り始める。


「よし」


 十秒ほど掘ったところで空助がそう呟き、立ち上がって一歩下がる。


 空助が居た位置を見ると、一つのスイッチのようなものがあった。

 空助はこれを目指して地面を掘ったのだろう。


「よく覚えてるわね。こんな場所」

「何度も来ているからな」


 辺りは一面砂のみ。特別な目印もない。

 日本基地基地長という肩書とはいえ、よくこんなピンポイントで覚えてるものだ。

 

「なんのスイッチですか? これ」

「まぁ、見てろ……開くぞ」


 空助がそう言った次の瞬間、砂の地面が隆起し、地面から階段が現れた。

 映画でしか見たことのない光景に、恒星は目を奪われる。


「かっけぇぇぇっス!」


 救宇の弾んだ声が辺りに響いた。

 

 先程のスイッチはこの階段を出すためのものだったのだろう。

 そして恐らく、この階段の先がWGSP本部だ。

 思っていた十倍ぐらい防衛システムがしっかりしているようだ。

 これなら、本部が無事である可能性は高そうだ。


「入るぞ」


 空助は三人にそう声を掛けて中に入っていき、恒星達も後を追う。



 

 階段は、細く、薄暗く、そして長かった。


 漸くその階段を抜けると、今度は重厚な作りをした鉄製のドアが現れた。

 恐らく、日本基地の指令室にあったものと同じものだろう。


 空助がドアの横の壁に取り付けられた認証装置のようなものを弄ると、ガタガタと音を立てながらドアが開いた。


 ドアの先には広い地下とは思えない広い空間が広がっていた。

 中央に植えられた木を中心に、円状に空間は広がっており、壁際にはテーブルと椅子が置かれ、壁には鉄のドアが設置されていた。


 興奮しているのか、走り出す救宇を無視して空助は声を張り上げる。


「誰か居ないのか?」


 見た感じ、ゴブリンの襲撃を受けたような跡はない。

 だが、空間はシーンと静まり返っていて、人の気配がない。


「ちょっと、誰かいるのよね」

「誰か居ますかー」


 脳裏に緊張が走る。

 もし誰もいなかったら、そんな嫌な考えが脳内を巡る。


 ――その時。


 壁に多数設置されたうちの一枚のドアが開いて、中から一人の老爺(ろうや)が出てきた。


「空助じゃないか。生きていたのか」




次話から物語の後半戦に入っていきます。


恒星一行は無事、ゴブリン共をぶっ倒してみんなを助けられるのか、乞うご期待……なんちゃって。


ここまで張りに張りまくった伏線を回収するのが楽しみ(*^-^*)

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