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ゴールデンクラッシャー

作者: A-10

「お前は何度捕まったら気が済むんだ!!」



いかにもインテリ…といった風貌の男性は、ブランド物の眼鏡を光らせながら大きな声を出す。



「へへへへ。ホントだね」



怒られているこの男性はというと、笑顔だ。



ピアスと刺青まみれのその風貌は、他者を寄せ付けないオーラがあったが、


当の本人は人懐っこい笑みを浮かべる。


しかしすぐさま目の前の人物のいつもとは様子の違う部分が目に入り、疑問を尋ねる。



「今日はスーツじゃないのな?」



すると、眼鏡の男性は椅子から勢いよく立ち上がると、


「……外で待ってる」


と、部屋を出て行った。



「お、おう…。」


(あれは、なんかあったな。あいつは昔っから言いたい事があっても溜めるんだよなぁ…あーあ、やな予感…。)




…ここは、警察署にある面会室だ。



刺青の男性は一気に気怠くなってしまったようで、そのまま突っ伏してしまった。



「…きみ、面会が終わったのなら退室するけどいいのかな?」


と、若い男性職員が声を掛けて来た。


「…あー、すいません…いま出まーす」


「ふふふ、なんかトイレ待ちしてる気分になるなぁ、その言い方」


「えっ」


という声と共に顔を上げ、間抜けな顔で職員の方を見る男性。


「さっ、いいから早く立って。金城さんね、幾ら自営業だからってそう何度も警察に捕まったりしたら良くないよ?悪い人でも無いのに…そんなに刺青してたら日常生活困るでしょうに…」


「まぁ…そうすね…へへへへ」


「本当に分かってんのかな?金本さんじゃないけど、心配になってくるよ」


「えっ、アイツ心配してるんすか?」


「………。


     いや、ごめん、違うな。


             迷惑の間違いだ」


職員は迷惑顔のお手本とばかりの表情で言った。



「おーー…ほほほ。っすよね…」


金城は大柄な体を小さくして部屋を退室した。




「あっ、キムちゃん待ったぁ?」



キムと呼ばれた男性は気持ち悪い言い方にずりっと、眼鏡が落ちる。


それを直しながら、



「…ジョー。どうして私をそんなに怒らせるような事をするんだ!


…ただでさえ、イライラしてるってのに…」



と、そっぽを向いた。



ジョー:「?えぇ~??こんなのいつもの事じゃねぇか、どーしたんだよっ❤」


キム :「ぬあぁ~!引っ付くな!暑苦しいっ!!」



ジョーはキムから離れると、その姿を繁々と見つめ、


「その服に意味がありそうだな」


と、落ち着いた声で言った。



キム :「…………。…そのあだ名も嫌なんだよ…。韓国人と間違われるし。そんな事言ったら苗字も嫌いなんだけどな。中国人に間違われるから。…社長令嬢と結婚して婿入りする筈だった私の計画も無くなったし…」



ジョー:「………あー、今日デートだったのか、服装からしてレジャー系か…。いつもはデートもスーツだもんな。」


キム :「……。」


沈んだ様子でトボトボ歩き出すキム。



その横に並んで歩きだしたジョーは言いにくそうに、


「麗華ちゃんに振られたのか…?」


と、聞いた。



キム :「………なんでかな。いつもいいとこで警察かお前から電話が来るんだよ。いや、その警察も、結局お前関係の電話だしな…。


全部、お前のせいだ!!!」



ジョー:「………うっ!…わ、悪いと思ってるよ…。でもよぉ、他に身元引受とかしてくれるヤツなんていねぇし…。」



キム :「その事は理解してる。それは、しょーがない!私だって悪魔じゃないからな、それ位はしてやれるさ!ただな、多すぎるんだよ!!」


と、激しく腕を上下に動かしながら訴える。


ジョー:「いやー、こればっかりは俺もなんでこうなんのか…商売柄、癖のつえー依頼人が多いから…」


キム :「そもそも、その変な商売をやめろよ」


ジョー:「お前なぁ…簡単に言うけどよ、やっと軌道に乗りかけてんのに辞められる訳ないでしょーが」


キム :「私は辞めさせられたけどな」


ジョー:「えっ?」


キム :「………仕事を首になったんだよ。簡単な事じゃ首にならないんだぞ?国家公務員だから…。」



ジョー:「・・・・・・・。」


明らかに自分の所為だと察したジョーは黙り込んだ。


キム :「すまない、本当はこんな事…言うつもりじゃ無かったんだ。ただ…悪い事が重なり過ぎて…。」


ジョー:「いや、謝るなよ。お前がすげー勉強頑張って官僚になれたの知ってるから…俺バカだからそこまで迷惑かかるなんて分かんなかった。


じゃあ、無職か…。」


キム :「それが一番サイテーだよ。私の矜持に深い傷がっ…!!」


と、キムは少しオーバーなリアクションで胸のあたりを苦しそうに掴む。



ジョーはそれを笑って見る。



ジョー:「………お前…ほんとイイヤツだよな…。考えて見たら、頭の良いやつはみんな俺みたいなのは避けんのにさ。」


キム :「………お前…。それ、ズルいぞ。」


ジョー:「んあ?」


キム :「そんな顔でそんな事言われたら、もう怒れないじゃないか…。」


ジョー:「・・・・・・・。ああ、そっか。そういえば、そうね。頭良いのに騙されやすいもんな、キムは。」


キム :「よし!いいぞっ!!一発殴らせろ!!!」


ジョー:「へっ!?ちょ、ちょっ、まっ、うわっ!」



と、鋭いフックを慌てて避けたが、


つー…と、頬から細い赤い雫が垂れた。


ジョーは頬の違和感のある所に手を伸ばすと、ぬるっとした感触が…。


手に付いた血を指でヌルヌル確認すると、


「………脂っこいもん食い過ぎかな?」


と即席の健康診断を行っていた。



「野菜も食え」


と腕組して言うキムに、



「友達にメリケンサック使うなよ!」


と、怒鳴った。





キムがメリケンサックを外している時だった。



た~たらら~たららららららら~らら~♪



“江戸の渦”という時代劇の着信音が聴こえて来た。



ジョーはキムの方を見る。


「何その着信!?」


時代劇が好きなジョーは少し嬉しそうにしながらも突っ込んだ。



キムは誰からの電話かも確認しないで、秒で電話に出る。



「いや、誰からか確認しろよ!?」


というジョーの制止は意味が無かった。



「お電話有難う御座います。こちら、ゴールデン “パブリック” です」



「へ???」



少し…聞き馴染みのある名称に似ている。


「俺の…会社の名前に似ているなぁ…。」


と、ぽかんとした顔でキムの方を見る。



・ ・ ・



電話を終えたキムは言った。




「ジョー、仕事だ。」




「へ???」




キムは、カバンから皺になりにくい素材で出来たスーツのジャケットを出すと、ビシッと着こなす。


雰囲気が一瞬でオフからオンに切り替わった。



ジョー:「??? えっ?どーしたんだよ、突然…」



キム :「今日から、“ゴールデンクラッシャー”は“ゴールデンパブリック”に社名変更をされる。」



ジョー:「はい!?」



と、突然の事に頭が回らないジョー。



ジョー:「しかもなんだよ、そのダセー名前!ゴールデンパブ??卑猥な店じゃねーんだから!」


キム :「パ・ブ・リ・ック!そもそもな、クラッシャーはダメだろう!イメージが悪すぎる!」


ジョー:「うるせぇな!人の会社にけちつけんな!部外者がっ!!」



「・・・・・・・。」


黙り込んで頭を垂れるキム。



「あっ、ごめ…」


「………誰が部外者だ?」



「えっ、いや…」



キムは一枚の紙をバーンと出した。



「えっ?」



「見ろ」



「?」


ジョーは言われたとおりに紙を見た。



「最終譲渡契約書??」



「これでお前の会社は私の物になった」



「はぁああ??」




「いや、先輩いみが分からんのですが?」混乱しているジョー。



「私は副業が禁止されていたから会社は作れなかったが、これを機に作ったんだよ。実質、社長になったわけで無職では無い!更に、ジョーの代わりに“ゴールデンクラッシャー”の税理士事務所などの仲介も私が行っていたので、割と簡単に買収が出来た。…私に全部丸投げした結果だよ、金城くん」



「…てことは、俺はもう社長じゃない、ってこと?」



「まぁ、そうなるな」



「えーーーーー!!!!お前、嘘ついたのかよ!無職になったって言ってたじゃねーか!」



「まずは仕事だ!依頼が入った、行くぞ!」


「ちょ、ちょ、ちょ、待っ、先にマウンテンデューが飲みたいよーー!!」



ジョーの叫び空しく、キムに無理矢理連れて行かれた…。




「おーい、キムジョーくーん」



道すがら、男性に呼び止められた。



二人してそちらの方向へ顔を向けると、三分刈りの坊主頭に片方の側面に剃り込みが入った男性が手を振っている。



シャッター商店街の店先にあるベンチに腰掛け煙草を吸っていた。



ジョー:「あれ?矢上くんじゃん。何してんの?」


キム :「おい、矢上!そのキムジョーは何べんも止めろっつってんだろ!?キムジョーだと私の存在がほほ無いだろうが!」


矢上 :「あはは、わりぃ。だってこないだキム&ジョーって言っても怒ったじゃん、あんた。」



キム :「………この愉快犯め…!」苦々しく言うキムにジョーは、


「まぁまぁ、気にすんなって」


と言ったが、



「こいつ、“だったら英語っぽくして『キメンジョー』ってのはどう?”


“『汚ねージョー』なんてなぁ~”


つって、お前にボコボコにされてたじゃねーか!」と、キムに言われた瞬間、



「あーーーっ!!そうだ!てめぇ矢上!!」


と、矢上の胸倉に掴みかかる。



「ちょい待ちって!煙草で穴開く!」


と、矢上は慌てて煙草の火を消した。



「よしっ!さぁ、どうぞ!思う存分、いたぶってくれ✨」


と、両手を広げる矢上に、


ジョーはげんなりした顔になると、


「あんだけボコボコにしたのに全然こたえてないのね。」


と、掴んでいた手をおろした。




「痛いのってさ~気持ちいーじゃーん。生きてるって感じるだろ?」


と、矢上が言うと、キムは、


「………ジョーは仕事関係なしに変態が寄って来るな」


と言うと、


「まぁな。そしてキムもその一人だけどな」


とジョーに返され、暫し、怒りと哀しみの追いかけっこpart1をしていた。



「ていうかさ、そこまで嫌なんだったら名前かえればいいじゃん。」


と、矢上が言うとジョーは、


「名前は就職活動の前に変えてたんだよな?苗字はそのままだけど」


とキムの代わりに答えた。



矢上 :「あっそぉなんだ?」


キム :「………ガキの頃から嫌だったからな、名前」


矢上 :「なんて名前だったの?」


キム :「…………。なんで教えなきゃいけねーんだ」


ジョー:「騎士と書いてナイト❤」


キム :「ぶっ殺すっ!!」



代わりに答えたジョーを再び、怒りと哀しみの追いかけっこpart2が襲う!



「いや~なんか君たちって愉快だよね~」


と、笑いながら煙草に火をつける矢上。



「そーいう矢上くんだって、下の名前で呼ばれるの嫌がるじゃん」


と、ジョーが言うと、


「私のは教えたんだから、てめーも教えろよ…!」


とキムが言うと、矢上のにこやかだった顔が固まった。


そして、無言でジョーを見つめる。



「・・・・・・・。」



ジョーは無言になると、機械のような動きで、


「やがみくん、ぼくたちはこれでしつれいするよ」


と、キムの腕を掴んで走り出した。




「おい、なんで逃げたんだよ?」



500メートル以上走った所で立ち止まったジョーに尋ねるキム。


体力のある二人は息が切れる事も無く話す。



ジョー:「矢上くんの下の名前は、呪いの呪文なのだ。もし、その名前を言ったのならば…、おお、恐ろしくて言えない!俺でも止められねーから…」


キム :「ふーん、よくわかんねーけどヤバそうだな。深くは聞かねー」


ジョー:「…ありがと。その方がいいから。俺なんか知ってるだけに、なんか一生矢上くんから逃げられないような気がするぜ」



キム :「・・・・・・・。それ、私には分かる気がする。」



ジョー:「・・・・・・・。俺の事、言ってるんじゃないよね?」



キム :「・・・・・・・。ジョー、そろそろ依頼人の所へ着きそうだ」



ジョー:「あっ、そういえば依頼の内容聞いてなかった!何?」


キム :「会ってから話すって言ってた。私は初めて同行するから分からないのだが、今までどんな依頼を受けて来たんだ?」


ジョー:「お前…俺が何度も警察にお世話になってる時点でヤバい仕事だって分かりそーなもんなんだけど?」


キム :「分かってるよ。だから、自分の目の届くようにしたんじゃないか、お前の会社」


ジョー:「えっ」


キム :「それで?大まかに教えてくれないか?」



ジョー:「ああ~…。え~っと、なんか国宝級のお椀を割ったり、ノーベル文学賞作家の未発表の長編小説を燃やしたり、恋人同士を破局させたり、幸せな家庭を滅茶苦茶にしたり…あとぉ…」


「待て待て待てーーっ!!なんだ!?それ!どんな仕事だよ!?」


と、キムが尋ねると、


ジョーはおどけた顔から、不敵な笑みを浮かべると、こう言った。






「      壊し屋     。」



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