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第七話 ギャップ

「知らなかったけど、王子って意外によく喋るのね」

「何の話?」


 翌日の昼下がり。

 ティルロットはマシュリーと一緒に昼食をとりながら昨日のシェザードとの一件のことを話すと、彼女は珍しく「えっ!?」と大きな声を出し、驚いた表情をした。


「どうかした?」

「え、っと。シェザード王子って……あの第二王子のシェザード王子よね?」

「うん」

「あのシェザード王子が、表情をコロコロと変えながら自分から饒舌に喋ったの?」

「そうだけど……?」


 ティルロットが頷くと、あからさまに動揺しているマシュリー。思ってもみない反応にティルロットも困惑し、昨日のことを思い返してみる。


(昨日はジーナさんに配膳頼まれて、シェザード王子にカレーを褒められて。相席頼まれて、断ったらしょんぼりされて……意外だったけど表情もコロコロ変わって、よく喋ってた……よね?)


 普段あまり男子とは会話しないティルロットだが、思い返してみてもシェザード王子は男子にしてはよく喋っていたように思う。

 しかも庶民のティルロットから見ても好印象で、差別したり見下したりするような感じではなかった。


 庶民であるティルロットに対しても人当たりよく接し、本音と建前を使い分けているそぶりもなく、いい意味で同世代の友人といったような気安さがあった。

 だから、意外に思ってマシュリーに話題を振ったのだが。


(実は昨日のあれは夢だったとか? いや、でもさっきジーナさんから昨日のお詫びってエビフライだけじゃなくデザートももらったし、夢じゃないわよね。なら、実はあの人はシェザード王子の影武者だったとか? ……でも、それならあの護衛の人が怒り狂うのはおかしいわよね)


 となると本人一択だが、自分よりも付き合いが長いであろうマシュリーがシェザード王子がよく喋るというのを知らないというのも不思議な話である。

 様々な可能性を考慮するも、ティルロットには正解が思いつかなかった。


「ごめん。私、なんか変なこと言っちゃった?」

「あ、ううん。そうじゃなくて! 別に、ティルロットを疑ってるわけではないけど、今まで私シェザード王子がよく喋るところを見たことがないのよ。シェザード王子って、寡黙でいつも人の話を聞いて愛想笑いを浮かべて自分のことをあまり話さない人の印象だから、あまりの違いに驚いちゃって」


 マシュリーの発言に今度はティルロットが驚く。

 あんなにペラペラと喋っていたシェザード王子と、マシュリーの知るシェザード王子の印象がかけ離れすぎていた。


 どう考えても付き合いの長いのは親戚であるマシュリーだというのに、一体どういうことだろうかとますます謎は深まるばかりだ。


「そうなの? でも、昨日はカレーが美味しいって凄く熱弁されたけど」

「それも意外なのよね。あまり食にこだわりがあるような感じでもなかったし、普段の会食のときとかも……なんというか、あまり気乗りしてなさそうに見えたから」

「そうなんだ。じゃあ何で昨日あんなに美味しそうに食べてたんだろ」

「何でかしらね」


 カレーのことしかり、自分のことしかり。

 随分とよく喋っていたし、相席してほしいとねだられた。

 大して親しくないはずのティルロットにどうしてあのような接し方だったのかまるでわからない。


「あ! もしかしたら、ティルロットのカレーがあまりに美味しかったからじゃない? 実際に美味しいし。私もカレーってティルロットが作るまで食べたことなかったけど、とっても美味しくて好きになったわ」

「そうなの?」


 そういえば、ジェラルドも下等な食べ物とか言ってたが、なるほど貴族は食べないのかとティルロットは内心納得する。


 もちろん、あの言い草は納得できないが。


「えぇ。王家や貴族の食卓にはあまり出されてないと思う。私も最初はちょっと食べるのおっかなびっくりではあったけど、スパイスというの? あれが食欲をそそる香りで辛さも絶妙で、あっという間に完食しちゃったわ」

「ありがとう。嬉しい」

「こちらこそ美味しい料理をありがとうと言いたいわ! というか、今度うちに作りに来てちょうだいな。実家に連絡したらぜひ食べたいって両親も言ってたわ」

「えぇぇぇ? いやぁ、さすがに公爵夫妻に出す料理ではないと思うけど」


 まさか自分の料理の話をマシュリーが両親に話しているとは思わず気が引ける。本来貴族が食べないのであれば、余計に乗り気になれなかった。


「そんなことないわよ。私が絶賛するカレーとやらを食べてみたいってとっても乗り気だったわ」

「うーん。じゃあ、都合が合ったら……」

「あ。その口上、社交辞令でしょ。知ってるわよ?」

「えへへへ」

「もうっ! ティルロットはすぐ誤魔化す。いい? 約束だからね」

「わかったよ。そのうち、ね」


 マシュリーには何でもお見通しだなと思いつつも、カレーを美味しい、食べたいと言ってもらえるのはとても嬉しかった。


「それにしても、シェザード王子って正直何考えてるかわからないというか、あまり人間味のない人の印象だったけど、案外そういう人間らしい一面もあったのね」

「どうなんだろ? 私も昨日喋っただけだからよくわからないけど。まぁ、ただの気まぐれかもしれないし。庶民のほうが気安く話せるとか」

「そんなことないわよ。庶民とかじゃなくてティルロットだからじゃない? 私もティルロットと喋ってて楽しいし。きっと、それだけティルロットに魅力を感じたのではないかしら? きっかけはよくわからないけど」

「魅力どうこうはわからないけど、何かしらきっかけはあったのかな? なぜか向こうは私のことも前から知ってたみたいだけど、接点は全然思いつかないんだよね」


 シェザードが自分を知っていたとはいえ、なぜあんなに好意的に接触してきたのか結局わからずじまい。

 ティルロットは何度記憶を掘り起こしても、接点らしい接点は思い出せなかった。


「同じ寮なんだから機会があったら話してみたら?」

「えー。それはちょっと」

「何で?」

「だって、私が王子と話したってきっと妬まれて絡まれるだけだし」

「妬まれて絡まれるって……何かされたの?」


 妬まれて絡まれる、というワードが出た途端に雲行きが怪しくなる。

 昨日同様マシュリーの眉間に皺が寄り始めた。


(ヤバい。また口が滑った)


 実は先程、ティルロットはマシュリーと合流する前に女子生徒から、王子と話していたことへのやっかみで突き飛ばされていた。

 マシュリーが来る前だから隠しておこうと思っていたはずなのに、つい口を滑らせてしまい、ティルロットは内心焦る。


「べ、別に大したことないわよ。ほら、私は元々陰口とか悪口とか言われまくってるし」

「そういう問題じゃないわ。……って言ってもティルロットを責めてもしょうがないとは思うけど。まぁ、トラブルの種になりそうなら、わざわざシェザード王子に話しかける必要もないとは思うわ」

「うん、そうだよね」


(きっと昨日のも、気まぐれで私に声をかけたのだろうし。あっちはきっと私のことなど気にも留めてないだろうから、いつも通りに過ごしてれば大丈夫よね)


 シェザード王子の人柄は気になったものの、自分が攻撃されることを天秤にかけたらそこまでの興味はない。

 そのため、ティルロットはすぐさまシェザードのことを考えるのはやめ、次の授業の話をマシュリーに振るのだった。

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