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第五話 カレー

(確か、金髪セミロングのイケメン……)


 以前食堂で見たときの顔を思い出す。


 遠目であったためハッキリとは見えなかったが、それでも高貴なイケメンオーラが漂っていた気がする、とティルロットは記憶を引っ張り出しながらシェザードを探した。


 すると、明らかに異彩なオーラを放つ席が一つ。


 ぽつんと距離を取られているが、遠巻きに視線を向けられているのがティルロットにもわかるほど注目を浴びていて、鈍感な彼女にもさすがにあれがシェザード王子なことがすぐにわかった。


 今日は従者の人は誰もおらず、どうやら一人で食堂に来ているらしい。


(一目でわかるってさすが王族)


 自分も食事量が多いため食事時は注目を浴びている自覚はあるが、こういうオーラは出ていないだろうな〜と思いながら、ティルロットは背筋を正してその席へとカレーを運びに行った。


「お待たせしました。特製カレーです」

「あぁ、ありがとう。わざわざ持って来させてしまって申し訳ない」

「いえ。では」

「あっ、あの! ちょっと待ってくれないか」


 営業スマイルで早々に立ち去ろうとしたティルロットだが、まさか引き留められるとは思わず「へ?」と素の声が出てしまう。


 けれど、シェザードはそんなティルロットを気にする様子もなく会話を続けた。


「以前もこのカレーをいただいたけど、絶妙なコクと香りで辛さもちょうどよくて、スパイスも効いててとても美味しかったよ。この前の日替わりカレーも意外な食材の組み合わせで美味しかったけど、僕はこっちのほうが好きだな。今まで食べたカレーの中で一番だと思う」

「はぁ……? ありがとう、ございます?」


 手放しで誉められて、困惑するティルロット。


 理解が追いつかずに立ち尽くしていると、「あ、立ったままで申し訳ない。一人で食べるのも味気ないから、もしよければぜひとも同席していただけないだろうか」と隣の席を引かれて座るように促される。


 周りを見回すと、いくら閑散してるからといっても注目を集めているのがヒシヒシと伝わる。

 どう見ても好意的ではなさそうな、好奇を含んだ周りからの視線がそこら中からティルロットに向けられていた。


(さすがに気まずい)


 元々嫌われているため、あまり目立った行動はしたくないティルロット。

 普段からろくなことをしてないせいで余計な注目を浴びているので、シェザードと交流してさらにやっかみを増やしたくはなかった。


(なんかいい言い訳ないかなー……)


 不敬にならないような言い訳を必死に考える。

 シェザードとなるべく関わりたくはないが、ここで下手な行動をして印象が悪くなるのも避けたかった。


「えっと、私は特待生なので勉強しないと奨学金がもらえないんです。だから、できればお暇させていただきたいんですけど……」

「っ! そ、そうなのか。すまない、引き留めてしまって。あー、ではまた今度改めて、時間があるときにでも……」


 申し訳なさそうにしつつも、なぜかしょんぼりとしているシェザード。


 まるで叱られた犬のようである。


 あまりの落ち込みように「ちょっと塩対応しすぎたかな」とティルロットの良心が痛んだ。


(嘘は言ってないのになんだこの罪悪感。てか、初対面だよね。随分とぐいぐいくるけど、なんか接点ってあったっけ? いつもマシュと一緒にいるから覚えられてるのかな……)


 庶民の自分とどうして一緒に食べたいのかわからない。思い返してみてもティルロットには心当たりが全くなかった。


(うーん。とはいえ、さすがにこんなしょんぼりしてる状態でぼっち飯させるのは可哀想だよね。私がいいとかじゃなくて、誰でもいいから一緒に食べたいだけなのかも?)


 シェザードは恐らく誰でもいいから適当に声かけしただけだ、と結論づけることにしたティルロット。

 そして彼女は落ち込んでるシェザードの隣の席に腰かけた。


「えっと……じゃあ、一応まだちょっとだけ時間があるので、少しだけでよければここにいますけど」

「いいのかい!?」


 シェザードはすぐさま表情をパッと明るくさせる。意外に表情豊からしい。


「そんなに長くはいられないですけど。食べ終わるくらいまでなら大丈夫です」

「わかった。そんなに時間はかけないよ。ありがとう」

「どう、いたしまして?」


(なんだかイメージが違うなぁ)


 以前見かけたときは大人びていて物静かなイメージだったが、今見てる限りころころと表情が変わり、年相応の男の子といった感じだ。


「あぁ、この味だ。やっぱりちょうどいい辛味で最高だね。スパイスのおかげか、食材の旨味もいい塩梅で引き立てられていて、とても美味しいよ」

「ありがとうございます」


 シェザード王子からこんなに褒めてもらえるだなんてとちょっと面映くなる。

 とはいえ、カレー一つでこんなに褒めてもらえるのは悪い気はしなかった。

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