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王子様は夜食がお好き  作者: 鳥柄ささみ


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最終話 未来

 ◇十年後◇



 険しい山間にあるドラゴンの巣。

 現在ティルロットとシェザードは、学生のときに討伐していたレベルとは比べ物にならないほど大きく禍々しい邪気を帯びた凶悪なドラゴンと対峙していた。


「シェザード、そっちに追い込むよ!」

「わかった! 僕が拘束するから、ティルロットは攻撃を頼む!」

「オッケー! 任せて!」


 ティルロットとシェザードはそれぞれ二手に分かれると、飛行しながら詠唱を始める。


「大地の生命の根源よ、ヤツの四肢を拘束せよ!!」

「数多の氷の刃よ、ヤツを貫け!!」


 シェザードがドラゴンの翼や首、尻尾を木の根で拘束したタイミングに合わせてティルロットが大きな複数の氷柱を出現させると、ドラゴン目がけて落下させ、磔にする。

 ドラゴンは身体を無数の氷柱で貫かれて断末魔の叫びを上げると、そのままバタリと倒れて絶命した。


「よっし、お仕事完了! お疲れ、シェザード」

「ティルロットもお疲れさま。さて、と。僕はこのままこのドラゴンは浄化して、切り分けたあと凍らせておくよ」

「ありがとう〜、助かる! じゃあ、私はそれを梱包して配送作業しちゃうね」


 浄化魔法を使ってドラゴンから邪気を取り除き、慣れた手つきでサクサクと切り分けたあと氷結魔法で凍らせるシェザード。

 それをティルロットが梱包していき、それぞれを配送先である子供食堂へと転移魔法で転送させた。


「ふぅ。終わったー!」

「お疲れ、ティルロット。でも、このあと西のハズレの森にあるスライムの群と、その北にある滝にいる水龍の討伐をしてってマシュリーが」

「んもー! マシュったら〜!! 人使いが荒過ぎるーー!!」

「あはは。今は彼女も踏ん張りどきだからね。僕らも、マシュリーを応援するつもりで頑張らないと」

「……そう言われると確かに。今が頑張りどきだもんね。弱音を吐いてる暇はないか。マシュのためにも自分達のためにも頑張らなきゃ!」


 NMAを卒業してから、ティルロットとシェザード、マシュリーはそれぞれ希望していた魔法省への入省を果たした。


 結局ティルロットは貴族の肩書きを得ずに猛勉強し、筆記も実技もある超難関試験を独自の力で突破。見事に庶民出身初のブルデリス国の魔法省特務隊に所属することになった。

 もちろん庶民出身ということでコネだなんだとやっかむ貴族もいたが、実力でねじ伏せられるほどにはティルロットも心身ともに成長していた。

 ちなみに、シェザードもティルロットと同様超難関試験を実力で突破し、ティルロットと同じ魔法省の特務隊に所属している。


 また、マシュリーは資格を生かした難関試験を突破し、魔法省の官僚として入省。

 マシュリーの入省時も親の七光だなんだと言うやつらが多々いたものの、マシュリー曰く「そんなしょうもないことを言ってくるやつらなんて、実力でぶっ潰してやるわよ」と、誰よりも多く成果を出し、同期の誰よりも早く出世していた。


 そして現在、ティルロットとシェザードはマシュリー直属のタスクフォースチームとして二人で各地の害獣の討伐を任されている。

 また、その討伐したものを加工したり売買することで食糧や金に変え、各地の子供食堂に届けるという業務も行なっていた。


 この取り組みが上手くいけば、マシュリーは目標の一つである総務大臣にまた一歩近づき、ティルロットの夢である「庶民でもお腹いっぱいに美味しいものが食べられるいい暮らし」も叶うことになるため、マシュリーのため自分達のために、ティルロットもシェザードも多忙な日々を過ごしていた。


「そういえば、今夜って予定入ってたよね?」

「そうだね。弟のエディオンのNMA入学のお祝いがあるから、お母様がなるべく早く帰ってきてほしいって」

「そうだった、そうだった! そっか、エディオンくんもいよいよNMAに入学かー!」


 ティルロットがNMAを卒業してもう早六年。

 入学当初は色々とあったが、今となってはそれを含めていい思い出である。


「懐かしいなぁ、みんな元気かな」

「きっと元気だよ。そういえば、まだグリゴリオ先生はいらっしゃるって聞いたよ」

「グリゴリオ先生……! 懐かしい〜! 校庭を焼け野原にした生徒が今や魔法省の特務隊だなんて知ったらびっくりするだろうな」

「あはは、違いない。でも、もう知ってるんじゃない? 学園長のことだから、そういうの喧伝してそうだし」

「確かに……!」


 学園長には、在学中から庶民で首席の特待生という肩書きを最大限利用されていたことを思い出す。

 悪い人ではないのだが、かなり利己的な人だったので、その指摘は想像に難くなかった。


「あと、ごめん。ティルロットに言うの忘れてたんだけど、今日のお祝いに関してお母様が、『できたらでいいのだけど、久々にティルロットちゃんのカレーが食べたいわ』って言ってた」

「え、王妃様が!? もっと早く言ってよー! なら、急いで討伐して早く帰らなきゃじゃん」

「ごめんごめん。すっかり忘れてて今思い出したんだ。ということで、さっさと終わらせてさっさと帰ろうか」


 シェザードが手を差し出すと、その手に自分の手を重ねるティルロット。そのままシェザードに引き寄せられると、抱きしめられて口づけられた。


「しっかり掴まっててね」

「うん。シェザードのほうこそ、私のこと離さないでよ」

「もちろん。僕がティルロットを離すと思うかい? ティルロットのことは死んでも離さないさ」


 お互い軽口を言い合いながら、見つめ合ってしっかりと手を握り合う。

 そんな二人の左手の薬指には、ティルロットのブレスレットとお揃いの細工がされた指輪が煌めいていた。


「じゃあ、行くよ。ティルロット」

「うん。お願い、シェザード」


 そして二人は転移魔法を使い、新たな討伐地へと向かうのだった。








 終

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