第三十九話 処分
マシュリーとのお泊まり会の翌日。
ティルロットは長い引きこもり生活を終え、早速学校生活に復帰した。のだが、
(最悪)
授業が終わり、教室を出たタイミングの渡り廊下でマーガレット、デイジー、パンジーの三人に出会してしまい、思わず身体が固まるティルロット。
そんなティルロットに気づいてか、三人は嘲笑うように悪意に満ちた笑みを浮かべながら近づいてきた。
「やだ。まだ辞めてなかったの?」
「本当、庶民はゴキブリのようにしつこいわね」
「ここは貴族の場所なの。庶民の居場所なんてないんだから、早く最下層の暮らしに戻ったほうがいいんじゃない?」
相変わらず尽きない見下した言葉の数々に辟易しながら、ティルロットが踵を返そうとしたときだった。
「あぁ、ティルロット・グレージアさん! ここにいらっしゃいましたか」
「が、学園長……」
急にどこから現れたのか、学園長から引き留められる。
驚いて足を止めると、学園長からものすごく分厚い封筒を渡された。
「はい、これ」
「えっと、これは……?」
「特待生取消回避のための補習リストです。これをこなさないと来年度の特待生は危ういので、特待生を希望するのであれば必ず全部こなしてください」
言われて恐る恐るティルロットが中に入ってる手紙を確認すると、そこには授業の補講からNMAの広報や校舎の補修などの雑用までびっちりと書かれていた。
そのあまりの多さに思わず固まるティルロット。
そんなティルロットの様子に、お花畑三人組はくすくすと周りに隠すことなく嘲笑していた。
「えぇ、と。これ、全部私がやるんですか?」
「もちろんですよ! ティルロット・グレージアさんは特待生だっていうのに授業の出席日数がギリギリなんですから、これでもだいぶ温情をかけているんですよ!? ……別に、庶民初の首席だから広報にしたいとか、私が楽したくて雑務を押しつけてるとか、そういうんじゃありませんから!」
「……そうですか。わかりました」
なんとなく後半の部分が本音だろうなとわかっていながらも、下手に文句を言って特待生を取り消されても困るので、大人しく従うことにする。
これは当分バイトするのはお預けだなと思っていると、学園長は突然今度はマーガレット、デイジー、パンジーの三人のほうに向き直った。
「あぁ、貴女達もちょうどいいところにいました。マーガレット・ディレンジャー、デイジー・グッド、パンジー・ダウンリーにはこちらを」
「え? 私達に?」
「何かしら」
「もしかして、私達が学内の舞踏会の代表に選ばれたんじゃないの!?」
きゃいきゃいと色めき立ちながら、学園長から渡された手紙を開けるお花畑三人組。
だが、開けるやいなや三人は一斉にピシッと石像のように固まり、とても静かになった。
「はい。たった今全員お読みになったかと思いますが、学則第五十三条いかなる生徒も平等に学ぶ権利、学則第七十八条権利を侵害するモノは退学に処すということで、貴女達三人はNMAから除名、及び退学の処分をさせていただきました」
学園長がにっこりと美しい笑みを浮かべながらはっきりと宣言する。
お花畑三人組は自分達が何を言われているのか理解できないのか、はたまた理解しようとしていないのか、「どういうことですか!? これは何かの間違いです!」「私達はこんな処分されるようなことはしていません!」「こんな不当な処分、うちの実家が黙っていませんよ!」などと言って学園長に噛みついた。
だが、学園長は三人の反応に怖気づく気配もなく、笑顔のまま彼女達を見つめていた。
「あぁ、もちろん事前調査済みで裏づけはきちんと取れていますし、ご実家にもそれは伝え済みです。それから、寮にあった荷物は全てこちらで回収、まとめさせていただきましたので、今すぐご自宅にお帰りいただいて結構ですよ。ちなみに、もしこの処分に対し不服の申し立てをするのであれば、こちらではなく魔法省へ。また、万が一のお話ですが、報復などをした場合にはこちらもそれ相応の対応をさせていただきますので、あしからず」
笑顔にも関わらず有無を言わせぬ圧を伴いながら、キッパリと言い切る学園長。
学園長の言葉を聞き、わなわなと震えながらティルロットを睨みつけるマーガレットだったが、「全部貴女のせいじゃない! 私は関係ないわ!」「マーガレットがやれって言ったのよ! それなのに私までNMAを退学だなんてどうしてくれるのよ!」とデイジー、パンジーがマーガレットに詰め寄り、それぞれ言い合いを始めた。
「あ、喧嘩なら学生のみなさまの邪魔になりますので、他所でやっていただけると助かります。では、もう会うこともないと思いますが、ご機嫌よう」
「え!?」
「ちょっ」
「まっ!」
__パチン
学園長が指を弾くと、そのままどこかへ消える三人組。
先程までの喧騒がウソのように、辺りは静寂に包まれた。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。あぁ、ティルロット・グレージアさん。もし何かまたあれば、きちんと相談してくださいね。我々NMAは庶民だの貴族だの関係なく、学生の味方ですから」
「あ、ありがとうございます」
ティルロットがぺこりと頭を下げると、学園長は満足したように笑ったあと、フッと消えていなくなってしまった。
恐らくマシュリーが色々と手を回してくれたのだろうが、学園長の言葉を受けて、改めて一人で抱えて頑張ろうとするのではなく、もっとみんなに頼っていこうと思うティルロットだった。




