第三十八話 告白
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
食事を食べに行く準備をして、いざ出発しようと自室のドアへ向かったときだった。
「ティルロット」
「うわぁ!?」
「きゃああ!?」
突然目の前にシェザードが現れて、ティルロットもマシュリーも驚きのあまり思いっきり叫ぶ。
すると、その二人の驚きぶりにシェザードは焦りながら「ごめん。びっくりさせるつもりはなかったんだけど!」と慌てて謝ってきた。
「シェザード、いつからそこにいたの!?」
「勝手に女子の部屋に侵入するだなんて信じられない!」
「ご、ごめん! でも、ティルロットと話すのに他に方法がなくって。……一応二人が出て来るのを待ってたんだけど、全然出てくる気配がないからここまで来ちゃった」
「ここまで来ちゃったって……」
シェザードの言い草に呆れるマシュリーに対し、マシュリーもシェザードもいざというときは案外強行突破するタイプなんだな、と密かに思うティルロット。
顔などは全然似てないけれど、こういうところは親族なのだなとしみじみ感じる。
「てか、何しに来たの?」
「えっと、その、これをティルロットに食べてもらいたくて」
「何それ、プリン……?」
マシュリーは怪訝そうにシェザードが差し出したプリンを見ていたが、ティルロットはそのプリンを見て目を見開く。
というのも、シェザードが持っていたのは見覚えのあるプリンだったからだ。
「うそ。これって、まさか……」
「うん、特別なプリンだよ。この前もティルロットの顔色が悪かったし、食欲もないようだったから元気になってほしくて。あ、一応ティルロットの母君に味のお墨付きをもらってはいるよ!」
「え!? ちょっと待って。シェザード、お母さんに会いに行ったの?」
「うん。やっぱり以前ティルロットが言ってた通り、僕が会いに行ったらびっくりさせちゃったけど、ちゃんとそのあとどうにかお願いしてレシピを教えてもらいながら作ったんだ」
「えぇ!? これ、シェザードが作ったの!?」
情報量が多すぎて理解が追いつかない。
自分の話を覚えていてくれて、自分の様子を見て具合を察してくれて、わざわざ特別なプリンを作るために母のところに行っただけでなく作って持ってきてくれて。
自分の劣等感のせいであんなに振り回してしまったのに、気遣い、尽くしてくれることにシェザードの愛が伝わってくる。
ティルロットは、シェザードが自分のためにしてくれた行動全てが嬉しかった。
「せっかくだし、食べたら?」
「うん」
マシュリーに促されてシェザードからプリンを受け取ると、渡されたスプーンで掬う。そのままぱくんと口に入れると、あの懐かしい味に自然と涙が溢れた。
「すごい。あの味だ。お母さんの特別なプリンだ」
自分でも再現できない味。
あの特別で、美味しくて、元気が出る味が間違いなくこのプリンにはあった。
「すごい。どうやって作ったの? 私でもあの味を再現できないのに」
「ティルロットの母君に何か隠し味があるのかって聞いたんだ。そうしたら、魔法も使えないから特別なことは何もしていないけど、ティルロットに元気になってほしいって想いと愛情を込めながら作ったって教えてくれて。だから、僕もティルロットが元気になるようにそれぞれたっぷり込めながら作ってみたんだ」
「もしかしたら、想いが祝福となってそのプリンに加護を与えているのかもね。魔法がなくても、想いが形になることはあるわ」
マシュリーの解説にティルロットはそんなことがあるのかと驚くと共に、確かに食べたからこそその説明に納得する。
いくら自分が母と同じように作ってもあの特別なプリンの味が出せなかったのは、どう考えても想いの違いだからだ。
「ありがとう、シェザード。すごく嬉しい。それから、ごめ「ちょっと待って、ティルロット。ティルロットが謝る前に僕から先に話をさせて」」
ティルロットが今までのことを謝ろうとすると、言葉を被せる形でシェザードに遮られる。
そして、ティルロットが困惑しながらも口を噤むと、シェザードはティルロットの手を握りながら跪いた。
「この前はいきなりキスしたり告白したり、ティルロットの気持ちも考えずに先走った行動をしてしまってごめん。自分本位の行動だったと反省している。だから、改めてこの場で言わせてほしい。僕はティルロットが好きだ。王子だとか庶民だとか関係ない。いつも元気で明るくて前向きで、夢を持ってその夢にまっすぐ突き進む素敵なティルロットという人間が大好きなんだ。以前、ティルロットは僕に夢を何かって聞いたけど、僕の夢はティルロット、キミだ。ティルロットの夢を僕もキミの隣で叶えたい。叶えさせてほしい。ティルロットにはずっと僕のそばにいて笑っていてほしいんだ。そのためにも、僕はティルロットをずっと守ると誓うよ。もう絶対に泣かせたりはしない。だから、僕の恋人になってほしい」
手を握られたまま、まっすぐに見つめられながらの告白。あまりにも大きな愛情を向けられて、羞恥で頭が真っ白になりながらも、ティルロットもシェザードに自分の本当の気持ちを伝えなきゃと口を開いた。
「私も、シェザードが好き。私は打たれ弱くて後ろ向きなときもあって今後も振り回しちゃうことがあるかもしれないけど、これからはちゃんとシェザードの恋人だと胸を張れるように頑張るから。だから、こちらこそシェザードの恋人にしてくださ……ぐえっ」
言い終わる途中で、感極まったらしいシェザードに強く抱きしめられる。困ったようにティルロットがマシュリーに視線を送れば、「あーあ。ぐだぐだね」と呆れたように言いながらも笑っていた。
そんなときだった。
「え、何!?」
辺り一帯が突然強い光に包まれる。
周りを見回せば、壊れたはずのブレスレットから眩い光が放たれていた。
「う、そ……っ!?」
先程までバラバラの粉々に砕けてしまっていたブレスレットが、みるみると直っていく。
そして光が収束したころには、壊れていたのが嘘のように綺麗に元通りになっていた。
「何で……? 壊されたのに、どうして……」
ティルロットが驚いていると、その壊れたはずブレスレットをシェザードが持ってくる。
そのままシェザードは優しくティルロットの腕を取ると、以前のときと同じようにその腕にブレスレットをつけた。
「アモルさんが言ってたんだ。これは愛と絆の加護が施されているって。愛と絆が深まれば深まるほど、強固になっていって壊れなくなるんだって。だから、もしかしたらティルロットに対する愛と絆が深まって、ブレスレットも直ったんじゃないかな」
ティルロットは、つけてもらったブレスレットに視線を落とす。
すると、ブレスレットは以前よりも増して細工が美しく、魔石はキラキラとさらに輝いているように見えた。
「そうだったんだ。……シェザードはアモルさんのこととかブレスレットのこととか色々知ってたの?」
「うん。隠しててごめん。ティルロットは気づいてなさそうだったから、下手に言ったら色々と悩ませちゃうかなって思って。あ、でもアモルさんと会えたのは本当にたまたまだよ! 仕込みじゃないから! ティルロットにプレゼントできたのは本当にラッキーだったんだよ。あ、ちなみに、加護と呪いは表裏一体だから、それを壊した人は愛と絆が離れていく呪いにかかるんだってアモルさんが言ってたよ」
「あら、それはいい気味じゃない。あの三バカにはいい罰ね」
シェザードの話を聞いていたマシュリーがにっこりと黒い笑みを浮かべる。
そして、そのままシェザードとティルロットを引き剥がしてティルロットに腕にくっついた。
「はいはい。じゃあ、綺麗にまるく治ったということで。今日のティルロットは私が独占するので、シェザード王子はまた明日〜」
「えぇ!? ちょっと待ってくれ。いくら何でもそれは酷いんじゃないか、マシュリー」
「酷い? 何を言ってるのよ。普段ティルロットを独占しておいて! 今日はティルロットは私とお泊まりするって決めてるんだから、邪魔者は帰ってちょうだい」
無事に和解して結ばれたと思いきや、ティルロットを巡って言い争いを始めるシェザードとマシュリー。
結局シェザードがマシュリーに勝てるはずもなく、シェザードは今後ティルロットを独占するんだから一日くらいいいでしょというマシュリーの言い分によって、今夜だけはマシュリーがティルロットを独占することになったのだった。




