第三十七話 本題
「てか、私が妹なんだ」
「そりゃあ、私のほうがお姉さんでしょう? ティルロットは前向きなようで、案外打たれ弱いんだから」
「う。それを言われると強く出られない」
「ふふふ。ということで、私が姉よ。異論は受け付けないわ」
満足そうに笑うマシュリー。それにつられてティルロットも微笑む。
「でもさ、さっきの大丈夫? キャラ崩壊っていうか、マシュのイメージ崩れてない? 拡声魔法まで使ってあんな大声出して……普段のクールビューティーなマシュしか知らない人はびっくりしたんじゃないの?」
美人でお淑やかなイメージの公爵令嬢のマシュリー。
そんな彼女が、拡声魔法まで使ってあんなに爆音で叫ぶなど、誰も想像できなかっただろう。
今まで高嶺の花で通っていたマシュリーのイメージからかけ離れた姿に、みんなが度肝を抜かれたはずだ。
「別に、他人からのイメージなんてどうでもいいわよ。万人から好かれたいわけじゃないし。私はティルロットに嫌われさえしなければそれでいいもの」
「何それ。マシュ、カッコいい」
「でしょう?」
つい八方美人になりがちな自分にはないマシュリーの強さに憧れる。自分もいつかそう言えるようになりたいと心から思った。
「それで、本題だけど」
「本題……?」
「シェザード王子のこと、どうするの?」
マシュリーから鋭い指摘をされてピシッと笑顔が固まるティルロット。
無意識に遠ざけていた話題に、ティルロットの目は自然と泳いだ。
「私としては、別にシェザード王子と結ばれなくてもいいというか。むしろティルロットを取られて腹が立つから、個人的にはどうでもいいんだけど」
「そこは結構辛辣なのね」
「でももし、ティルロットが庶民がどうのとか王族がどうのとか気にしているのなら、いざとなればさっき言った通り爵位を上げることはできるのだし、とにかく自分の気持ちに素直になったらいいんじゃない?」
「自分の気持ちに素直になる……」
「本当は好きなんでしょう? シェザード王子のこと」
マシュリーに聞かれて黙り込むティルロット。
シェザードのことが好きかどうか。
素直になったときの答えなど、一つしかなかった。
「……うん。好き」
ティルロットが素直に気持ちを口にすれば、マシュリーがにっこりと微笑む。
そしてマシュリーが、「やっと言えたわね」と嬉しそうに笑ってティルロットを抱きしめたときだった。
__ぐぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる〜!!
突如鳴り響く大きな音。
それが自分のお腹からの音だと気づいてティルロットは慌てて自身の腹を押さえるも、それを見て「ぷはっ」とマシュリーが噴き出した。
「あはははは! ティルロットの身体は素直ね!」
「だ、だってぇ〜! ずっとお腹減ってなくて、ここのところほぼ何も食べてなかったんだもん」
自分の気持ちを素直に話したことで、どうやら溜まっていたわだかまりが全てなくなり、空腹を感じるようになったらしい。
今までずっと空腹を感じていなかったはずなのに、今はお腹が空きすぎてどうしようもなかった。
「はいはい。じゃあ、早速ご飯を食べに行きましょうか。そのあとお風呂も一緒に入って、今日はティルロットの部屋でお泊まりするから。いいわね?」
「うん」
「ふふふ。シェザード王子は泊まりまではしてないんでしょう? なら、私が初めてのここの宿泊者ね」
マシュリーが勝ち誇ったように笑う。
そんな彼女を見て、ティルロットはマシュリーが親友でよかったと心の底から思うのだった。




