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第三十二話 崩壊

「うそっ! 信じられない!? それ、アモル様の作品じゃないの!」


 突然、パンジーに腕を掴まれる。

 驚きながらも、すぐさま「やめてよ!」とティルロットがその手を振り解こうとするも、今度は反対の腕をデイジーに掴まれ、抵抗できなくなったところでマーガレットにシェザードからもらったブレスレットを奪われてしまった。


「何するの!? 返して!」

「これ本物……?」

「えー、さすがに偽物じゃないの? 庶民が本物なんて持てるはずがないでしょ」

「でも、それにしては立派な作りよ。信じられないけど、これ本物じゃない?」


 ティルロットが取り返そうと必死に暴れるも、最近食事をとっていないせいか力が出ず、なかなか二人の拘束から抜け出せない。

 その間にも三人は、ティルロットから奪い取ったブレスレットをまじまじと見ていた。


「でも、本物だったらこのレベルの品って相当高いんじゃない? 庶民には買えないでしょ」

「てことは、盗んだってこと?」

「うわっ、ありえるー!」

「盗んでなんかない! だから早く返して!」


 必死に取り返そうと手を伸ばすティルロット。

 それを嘲笑うように、マーガレットはひょいっと彼女の手が届かないように遠ざける。


「盗んでないというなら、なぜこれをあんたが持ってるのよ。こんな高価なもの、普通の庶民じゃ買えないでしょ?」

「貰ったものなの! お願い返して!!」

「はぁ? 下層民のあんたがアモル様の作品をプレゼントされるだなんてあり得ないでしょ。頭おかしいんじゃないの? 嘘ばっかり!」

「嘘じゃない!」

「じゃあ、貰ったというのなら誰からもらったのか言ってみなさいよ!」

「それは……っ」


 シェザードから貰ったなどと口が裂けても言えないティルロットは、思わず口籠る。

 すると、そんなティルロットの反応を見て三人は嬉々として声を上げた。


「ほら、言えないじゃない!」

「やっぱり盗んだのね!」

「だから、盗んでなんかいない!」

「えーやだ! 盗んでないっていうなら、もしかして身体売って買ってもらったとかじゃないの〜?」

「なるほど、そっちか〜」

「違う! そんなことするわけない!」


 酷い中傷に抗議するも、三人はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、ティルロットの言葉に取り合おうとはしない。

 三人は完全にティルロットを見下し、愚弄し続けた。


「この前の試験でも首席取ってたのって、実は枕でもして不正したんじゃないの?」

「やば。不潔。最低〜」

「卑しい庶民は目的のためなら手段を選ばなそうだものね」

「さっきから勝手に好き放題言って……いい加減にして!」


 いよいよ堪忍袋の緒が切れたティルロットは力任せに二人を振り払い、マーガレットが持つブレスレットに手を伸ばす。

 だが、マーガレットも意地なのか手を離すことなく掴んだまま、お互いが引っ張り合う状態となってしまった。


「離して!」

「そっちが離しなさいよ、庶民のくせに! アモル様のブレスレットを持つだなんて生意気なのよ!」


 お互いに譲らず、強い力で引っ張り合っているときだった。


 __バキンッ!


「っ!? うそ!? あ、あぁあああああ……やだやだ……そんな……っ」


 ブレスレットが真っ二つに割れた勢いで、尻餅をつくティルロット。

 けれど、そんなことよりもブレスレットが割れてしまったことの衝撃のほうが大きく、ティルロットは割れてしまったブレスレットを見つめながら取り乱す。


 そんな彼女を見下ろしながら、マーガレットは意地悪な笑みを浮かべると、壊れたブレスレットの残骸を床に思いきり叩きつけて「あーあ、壊れちゃったわね。やっぱり本物じゃなかったのかしら。どっちみちいい気味だけど」と言い放ったあとにその残骸を何度も強く踏みつけた。


「やめて!」


 悲痛な叫びを上げながら、これ以上壊されないようにティルロットは壊れた片割れのブレスレットに駆け寄ると、跪きながら震えた手で必死に欠片を集める。

 その様子を見ながら、三人は愉悦に満ちた笑みを浮かべた。


「もうゴミでしょ?」

「あぁ、庶民にとってゴミは大事だものね」

「そうそう。下民はガラクタも宝物なんでしょ? 自分も同じような存在だし、親近感があるのかも」


 あはははは、と楽しそうに笑い合うと、満足したのかそのままどこかへ行ってしまう三人。

 残されたティルロットは、壊れてしまったブレスレットを見つめながらぼろぼろと涙を溢して項垂れた。


「もうやだ……私が、何をしたって言うのよ……」


 集めた残骸を胸に抱くと、張り詰めていた気持ちが一気に決壊し、子供のようにわんわんと泣き崩れるティルロット。


 この一件でティルロットの心は完全に粉々に砕けてしまい、この日を境に彼女は授業にも出なくなってしまうのだった。

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